第25話「地蔵のダンジョンを攻略せよ」
午後九時になった。
名古屋市東区白壁にあるビジネスホテルの隣に、地蔵のダンジョンの入り口はある。
「池田クリニック」と書かれた看板の掛けられた白い建物のその正面に、俺は立っていた。
ここの地下駐車場を進んでいくと、ダンジョンに繋がっているらしい。
カラーコーンと立ち入り禁止棒が設置され、分かりやすい場所に「ダンジョン入口につき注意」の看板があった。そのそばに警備員が立っている。
さっきからやけにハゲのオッサンが多いのは、このダンジョンのせいだろう。
多分、俺がここに立っているせいで、彼らは近づいてこれないのだ。恥ずかしくて。
俺は息を一つ吐いた。
まさか自分で作ったダンジョンを自分で攻略することになるとは。
俺のダンジョンに必勝法はない。
アイテムや罠を自動的に配置するようにしてあったから、運の要素が強いのだ。
が、それでもチャンスはあると考える。
何故なら、俺はこのダンジョンの全てを知り尽くしているからだ。
「よし、行こう」
と言葉に出して自分を奮い立たせた。
俺はダンジョン入口へ近づく。
警備員に学生証を見せ、十六歳以上を証明してから中へ進んだ。
一見普通の地下駐車場のようだが、進んでいくうちに様子が変わってきた。
何やら空気の感触というか、匂いが変わったのだ。
まるで森にいるような土と草の混じった香り。
コンクリートの床はいつの間にか砂利道に、壁や天井は洞窟めいたものに変化した。照明は蛍光灯から灯籠に代わった。
灯籠が左右に並ぶ細い砂利道を歩く。
それはまさに異世界へ通じる道だった。異様な緊張感がある。
高鳴った心臓の音が、砂利を踏む足音に重なる。
しばらく進むと、正面にぽっかりと大きな暗闇があるのが見えた。
まるで洞窟の入り口のようだ、先は暗くて見えない。
不思議とここがダンジョンに通じる入口なのだろうと直感した。
俺は深呼吸をしてから、ダンジョンへ足を踏み入れたのだった。
地下1階。
洞窟らしさが消え、人工的なものに変化した。
黒い石の床、白い天井、石の柱がはめ込まれた石壁。
ディスプレイ越しに何度も見たはずのダンジョンだが、中に入ると全く違う世界に思えた。
壁に掛けられた蝋台に炎が灯っていて、オレンジ色の明かりを揺らしている。
耳をすますと、何者かの気配を感じることができた。おそらく怪物が歩いているのだ。
――これがダンジョンか。
怖い。
が、頑張らなくては。マモンに会うために。
一階には100ポイントの怪物がいるはずだ。
丸腰では俺のような一般人は簡単にやられてしまうだろう。
耳をすませながら、慎重にダンジョンを歩く。
しばらく進んだところに宝箱があるのを見つけた。
防具だといいが。
宝箱に近づく。
このフロアは宝箱罠は配置しないように設定していたはずだ。
「オープン!」
げ。これかよ。
俺と出会う前にマモンが作ったお宝。
そういえば低階層に置いてあったんだった。
ついてない。
とりあえず持っていくか。
休憩フロアで売れるかもしれないし。
アイテムを求めてダンジョンを更に進んでいく。
このダンジョンは怪物を倒してもメリットがない。
怪物を倒されないように、そういう風に作ったのだ。
だから基本的には出会わないように立ちまわるのがよい。
そのためには防具が必要だ。
今の状態では怪物に見つかっただけでゲームオーバー。
早くしなければ。
コツン、と。
足音が先の曲がり角から聞こえた。
ドキっとして立ち止まる。
足音が徐々に近づいてきている。
――どうする。逃げるか。
そう思った時に、突如足音が走り始めた。
そして。
――最悪だ。
ぬうっと黒い影が曲がり角から現れた。
怪物が俺を見つけてしまったのだった。




