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第24話「無欲な男の決意」

懐かしいフローリングの床。


どこにでもあるシンプルな壁紙。


間違いない。俺の部屋だ。


マモンがあの鍵を使ったのか。


呆気に取られたまま固まっていたら、スマホが鳴った。


トークアプリの着信音だ。


画面を見る。


『ジュンイチ、大変です』

と書かれている。


また音とともにメッセージが来た。

アヴィだ。不思議パワーでメッセージを送っているのだろう。


『お姉ちゃんがショックで寝込んでしまいました。ジュンイチのせいです』


うっ。

心に突き刺さるようなことを言う。


『俺が悪かった』と返信する。


『会って謝ってください。そうしないとお姉ちゃんは復活しません』

『でも、俺の部屋は元に戻ってしまったけど?』

『ダンジョンに挑むのです。ジュンイチ』


ダンジョンに挑む?


『お姉ちゃんはダンジョンの最下層にいます。会いに来てください』

『普通に入口からってことか?』

『そうです』

『分かった。任せろ』


と返信する。迷いはない。


『でも、注意してください。チャンスは一度きりです』

『え?』

『ジュンイチは八カ月間ダンジョンの最下層にいました』

『うん』

『もしジュンイチがリタイアしてしまうと、八カ月間ダンジョンに入ってこれなくなります』


げ。

まじかよ。


『八カ月もそのままだと、お姉ちゃんはダンジョンマスター失格になって魔界に返されるかもしれません』


チャンスは一度だけ。

今まで最下層にいた俺が、今度は正規ルートでそこへ挑む。


『分かった。頑張る』

『待ってますよ、ジュンイチ』


アヴィとのトークを終えてから、スマホをそのまま操作し「なろう」のページを表示する。そもそも俺はマモンのダンジョンの入り口がどこかもよく知らないのだ。


「あった。これか」


地蔵のダンジョン。

これが俺たちのダンジョンの通称らしい。


「げ」


遠い。

マモンのダンジョンの入り口は名古屋にあるらしいのだ。


今年はバイトをしなかったから、貯金がほとんどない。


「うーん」


仕方ない、男を見せるか。


というわけで、身支度を整えてから一階へ。


見よ。これが男だ。

と意気込んでから母親に土下座するのだった。


「頼む。この通り。来年バイトして返すから」

「何に使うのよ」

「ちょっと名古屋に用事があって」

「名古屋?」

「詳しくは言えないけど、悪いことではありません」


多分。きっと。


そのまま粘っていたところ、案外すんなり許可をもらった。

何でも、俺がこうして頼みごとをするのは、小学生以来だからだそうだ。


無欲な性格がここに来て役立ってくれたらしい。


行動するなら早い方がいい。


今まで平穏を愛し波に浮かぶウキのように生きてきた男が、ずいぶんと熱くなっているもんだ――。


でも悪い気はしない。


こういうのを、燃えているとでも言うのだろうか。


ということで俺は、色々準備をした後、駅へと向かったのだった。

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