第19話「ベルフェゴールのダンジョンについて」
うーん。
なんか柔らかくて気持ちいいものが顔に触れている。
なんだろう、これは。
と、俺は目を明けた。
「…………あれ」
「すうすう」
ぎゅうっと抱きしめられている。
ベルフェゴールに。
ちょっと待てよ。
これはどういう状況だ。
抱き枕状態になったまま、気持ちを落ち着かせようと頑張ってみた。
が、女の子のいい匂いに頭がクラクラして、中々状況を把握できないのだった。
しばらくして、なんだかずっとこうしていたい。
という気持ちがわいた。
――まずい。
俺は人間。
悪魔の誘惑に負けてたまるか。
「うおぉぉぉぉ!」
俺はベルフェゴールの腕から抜け出し、ベッドから飛び出たのだった。
肩で息をしながら、眠ったままの銀髪長身美少女を見下ろす。
「何なんだこいつは」
あれからベルフェゴールは寝たままだったので、ここへ泊っていくことになった。
というのは覚えている。
だが何故俺のベッドに?
まあいいか。
時計を見る。六時十分。
いつもよりだいぶ早く、俺は部屋を出たのだった。
学校から帰ってきて、部屋へ戻る。
するとマモンが腕組をしながら俺をジロジロと睨んでいた。
その近くではアヴィとベルフェゴールが将棋を指していた。
っていうかまだいたのかよ。
「で、何なんだよ。その顔は」
「寝取られた」
「ぶ!」
何を言い出すのかと思ったら。
「ジュンイチを寝取られたぁ!」
「やめなさい。誤解を生むようなことをいうのは」
マモンが俺を恨めしそうに見ているので、話を逸らすために俺はディスプレイの前へ座るのだった。
俺が真剣な顔をしていると、マモンはそのうち一人でゲームをやり出すのだ。
もう一度初心に帰って考えてみよう。
初めてダンジョン経営に行き詰った時、データ化することで乗り越えたのだ。
答えはきっとデータが教えてくれるはずだ。
階層が深くなったり、怪物やアイテムが複雑になっているが、要するに指針は一つしかないのだ。
入ってくるポイントを「収入」。
使ったポイントを「支出」。
抱えているお宝や怪物を「在庫」と定義する。
ダンジョン経営が上手くいっているかどうかを判断するには、この三つだけでいい。
これは今日、学校で授業を受けながら、考えたものだ。
操作をしながら問題点を探ると、あるものが見えてきた。
「これは」
今まで支出を抑えることを考えていたが、どうも違ったようだ。
フロア追加のポイントが溜まる前に人が増えすぎて、結果的に支出が増える。
アイテムを大量に置かなくてはいけないから、その結果、一人の人間がアイテムを大量にゲットするパターンが発生して、ダンジョンをクリアしてしまうんだろう。
フロア追加のポイントが溜まる前に人が溢れるということは、一人あたりから得られる収入が低いのかもしれない。
「ジュンイチ」
トントンと肩を叩かれた。
振り返る。
「それカッコイイね。何してるの」
ベルフェゴールが眠たそうな顔で俺を見下ろしていた。
「データを取ってるんだよ。ダンジョンの。っていうかお前まだいたのかよ」
「うん」
普通に会話ができた。
今の時間はちゃんと起きているらしい。
「平気なのか? ダンジョンは」
「平気だよぉ。ボクのダンジョン、お宝も怪物もないから」
「そうなの?」
「うん。だからボクはダラダラのんびりでいいんだよ」
ベルフェゴールは組合員のはずだ。つまり一万ポイントを超えている。
「お宝も怪物もなしに、どうやってダンジョンを大きくしたんだ?」
「ダンジョン限定アイテムだけを置いてあるんだよ」
「ほほう」
ベルフェゴールは惜しげもなくダンジョンについて教えてくれた。
つまりこういうことらしい。
ダンジョン限定アイテムとして、短い時間でもぐっすり眠った効果の得られる不思議なベッドをたくさん作り、ダンジョンにたくさん置いてあるそうだ。全て個室になっているらしい。
ホテルを利用するような感じで人間が来ているということだろう。
お宝がないから得られる欲望ポイントは少ないが、その代わりに支出もない。
「すごいな。そんな方法があるとは」
「えっへん」
ベルフェゴールは話し飽きたのか「ボクもやりたい」と言いながら俺から離れ、マモンがゲームをやっている隣に座った。
マモンはヤクザが主人公のゲームをやっていた。
メインストーリーを進めず、カジノみたいの所で遊んでいるようだ。
「あぁーまた負けたぁ」
「ボクにもやらせて」
「じゃあロードしてお金を元に戻そう」
マモンは賭け事が苦手らしい。あいつは負けるまでやり続けるからな。
途中でセーブすればいいのに。
それより。
ベルフェゴールのおかげで活路が見出せたかもしれないぞ。
ノートに計画を書き込みながら、夜が進んでいく。
ちなみに今日もベルフェゴールは泊まっていくらしい。
深夜。
またしても柔らかくて気持ちいいものが顔に触れていることに気がつき、俺は目を覚ました。
またベルフェゴールが来たのか、と思い目を明けた。
「どわぁ!」
何故かマモンが俺のベッドに入り、俺の顔を胸で包むように抱きしめていた。
――何をしてんだ、こいつ。
すうすうと寝息を立てている。
マモンは寝る時もあのブラみたいな服を着ている。
つまり俺は今、マモンの谷間に顔を埋めているのだった。
――やばい。
モチモチで柔らかい。そしてシルクみたいな肌ざわりの胸だ。
それに黒い髪が俺の頬に触れている。シャンプーのいい匂いがする。
――俺はいけないことをしているんじゃないだろうか。
このままでいたい、という強い欲求を押しのけ、俺は雄叫びを上げてマモンの腕から抜け出したのだった。
俺はベッドを抜け、ため息をついた。
「…………寝よう」
そしてソファに横になる。
こうして長い夜が更けていくのだった。




