第01話「朝起きたら俺の部屋がダンジョンの最下層になってた件」
ドドドドドドドドッ!
カン、カン、カン!
ドドドドドドドッ!
ドガァンッ!
「うるせー!」
ガバッと上半身を起こす。
なんかすごい音がして目が覚めた。
何の音だ?
っていうか、ここ。
どこだよ。
王宮の広間? って感じだ。
白い天井にシャンデリアがぶら下がっている。それから白黒のチェス盤みたい床。
壁には石の柱が並んで埋め込まれてて、そこに照明が設置されている。
あれ? でも机とか本棚とかは俺の部屋のが置いてあるな。
それに俺が今いるベッドも、いつものベッドだし。
配置とかもそのままだ。壁がないからなんか変。まるで家具屋の展示ブースみたいな。
えっと?
そうか。俺は夢を見てるんだな。
「うわぁー。やっちゃったぁ」
「お姉ちゃん。失敗です」
「うん。ま、いっかぁ! わははは」
本棚の向こうから女の子の声がした。
それからコツコツと足音が聞こえてきた。一人分だ。
足音はこちらに近づいてきて、ひょこっと本棚から姿をあらわした。
めちゃくちゃ美人の女だった。
下は黒くて短いスカート、上は黒い水着のようなものを着ているだけだ。
それから黒い翼と黒い尻尾が見える。
うん、どうやらコスプレイヤーのようだ。これはサキュバスだろうか。
「ダンジョン深くしてたら君の部屋につながっちった。ごめんネ」
うーん。それにしてもすごい綺麗な女だなぁ。
ハーフかも。目が青いし。髪は黒いけど。
「こら。君ぃ、何か言いなさい!」
芸能人……じゃないよなぁ。
テレビか何かで見たのかな。知り合いにこんな美人いないし。
「こらぁ!」
ぎゅうっとほっぺたをつままれた。両手で。
痛い。
痛い?
「あえ? ゆえひゃない?(あれ? 夢じゃない?)」
「アハハ、変なの~」
あ、ヤバイ。なんか夢じゃない気がしてきた。
「あ、わたしが悪いんだった」
ぱっと手を離された。
「あの、ここって?」
「ダンジョン」
「はあ?」
「さっき言ったでしょ? ダンジョン深くしてたら君のお部屋と繋がっちゃったの!」
「ダンジョンって? あのダンジョン? 悪魔の? お宝のある?」
「うん。それ。ここはダンジョンの最下層、ダンジョンマスターの部屋なのだ」
おいおい、冗談だろ。
でも明らかに俺の部屋が何か広くて異質な広間に取り込まれてる。
じゃあなんだ?
こいつは悪魔だっていうのか? コスプレイヤーじゃなくて。
「とりあえず元に戻してほしいんだけど」
「戻してって言われて困るよ。出来ないもん」
「は? まじかよ」
嘘だろ、最悪だ。
「う、何よその顔はぁ。そりゃわたしもちょっとミスっちゃったけどさぁ? だいたい君の部屋が変なところにあるのが悪いんだからね!」
なんか怒られたし。
「とりあえず学校に行かなきゃいけないんだけど」
「行けばいいじゃん」
露出女が指をさした。
そっちを見ると壁に扉があった。
見慣れた俺の部屋にあった扉だ。ベッドからすげー離されてるけど。
ベッドから降りて、そちらに向かう。
扉を開けてみた。普通に開く。向こう側に廊下がある。
よく知っている俺の家の廊下だ。
出てみてから、今度は廊下側から部屋を見渡す。
空間的にありえない広さの広間がある。これじゃあ家の壁を突き破ってしまう。
ベッドのあった方を見る。女が満面の笑みで手を振っていた。
俺はパタン、と扉をしめた。
「ふう」
こうしてしまえば、何の変哲もない今まで通りの廊下だ。
とりあえずトイレに行こう。んで、顔を洗おう。
それからもう一回考えよう。
ということで、俺は現実逃避気味に、一階への階段を降りるのだった。