第13話「望まぬ来訪者」
三面ディスプレイの前に座る。
俺の後ろにマモンとアヴィが立った。
さすがの彼女たちも気になるようだ。
モニターを操作しダンジョンを映す。
「なんだこいつは?」
手に刀を持った爽やか系イケメンが怪物をバッタバッタと倒している。
「人間なのにすごいです」
「うんうん」
イケメンは今一階にいる。
だが二階に続く階段へ向かわず、ウロウロとダンジョン内を歩いている。
「何しに来たんだ、この男は」
「アイテムを取りにきたんじゃないの?」
「イケメンが? まさか」
ダンジョンのお宝は、原則、売買が禁止されている。
だからこのダンジョンにはイケメンは来ない。
イケメンに必要なアイテムなど一つもないからだ。
「あ、また動き始めました」
イケメンが通路を歩いていく。
そっちはさっき倒された怪物が、今まさに復活した場所だった。
怪物は出会い頭にグサーっと刺され、また消えてしまった。
――リスキルだと。最低な野郎だ。
「おーすごいすごい」
マモンがアヴィがパチパチと手を叩く。
「バカ。関心してる場合か。このままだと怪物が皆殺しにされるぞ」
「でも、どうするのよ」
どうしよう。
お宝の増加に合わせて怪物もかなり追加している。
あの調子で倒されてしまうと、相当なマイナスになるぞ。
「仕方ありませんね。ではわたしが退治してきましょう」
「アヴィ!」
状況は危機的だ。
それでもアヴィなら。アヴィならきっと何とかしてくれる。
「ジュンイチ。今度アニメのブルーレイディスクを買ってきてくださいね。超能力者がバスケで戦うやつ」
「任せておけ」
アヴィは親指を立ててニコっと笑うと、ダンジョンへ向かう扉へ向かって行った。
なんて頼もしいんだ。
「じゃあわたしたちは観戦しよう」
「見守ろうとか応援しようともっと言い方あるだろ」
「ジュンイチ。冷蔵庫から何か飲み物持ってきて。酒はダメなんで、オレンジジュースください」
「ちっ」
オレンジジュースを入れたグラスを二個持ってディスプレイ前に戻る。
一階の怪物たちは、イケメンに10回討伐されて、みんないなくなってしまったようだ。ポイントにすると1000ポイント相当のダメージだぞ。
「くそ。あの野郎」
「まあまあ。あ、ポップコーン取ってきて」
「おい。一回に全部言えよ。面倒くさいなぁ」
「メンゴメンゴ」
というわけでポップコーンを取りに。
ふと何故おれがこんな尽くさなきゃならんのかと疑問に思ったが、今はいいだろう。
ポップコーンを皿に盛ってから席へ戻る。
ちょうどアヴィがダンジョンに降り立ったところだった。
気配を感じ取ったのか、イケメンがそっちに向かっている。
アヴィもそれに気がついたのか、通路の奥を真っ直ぐに見ていた。
そして――。
相対する。
セーラ服の少女と、イケメン。
今、ディスプレイには二人の姿が映った映像が一つだけ映っている。
距離は5mほどだろうか。
イケメンが構える。
両手に刀を持ち、頭の上へ高く掲げる。
鋭い眼光をアヴィにぶつけている。
アヴィもまた構える。
肩幅で立ち、膝を柔らかく曲げやや前傾に。まるでピアノをひくような形で両手を前に出した。なんだこの構えは。
じりじりとイケメンが距離を詰めていく。
距離が3mくらいになったところで、イケメンがふと止まった。
時が流れる。
マモンがポップコーンをかじる音が、静かに流れていた――。
イケメンが動く。
一歩前へ出ると同時に刀を振り下ろす。凄まじく迅い動作だった。
が、アヴィはそれを身体に触れる直前で止めた。
人差し指と中指で刀を挟むようにして止めたのだ。
アヴィがにいっと笑った。
刀を取り上げ床へ捨てる。金属音がダンジョンに響いた。
次の時。
その細い両腕に吸い込まれるようにイケメンが捕まっていた。
そして――。
轟音。
おそらくはその場にいたのなら、揺れも感じただろう。
アヴィは強烈なパイルドライバーを決めたのだった。
彼女の太ももに挟まれた状態で、イケメンは一点倒立をしていた。
ぐらり、とイケメンの足が揺れる。
そして身体が地面に落ちると同時に、ポンと音を立てて煙になって消えた。
「わっはっは! さすがアヴィ。技を超えた純粋な強さ。それがパワーだ!」
マモンが腕組をして誇らしげに笑っていた。
「よかった。一体なんだったんだ。あいつは」
ほっと胸をなで下ろす。
が、一抹の不安がしこりのように胸に残るのだった。