第12話「異変」
六月十七日。土曜日。曇り。
ディスプレイには4500という立派な数字が映っている。
ダンジョンは順調に欲望ポイントを溜めていた。
アイテムを増やしてから、動員数も伸びている。
追加したのはこれだ。
まずは俺の地蔵シリーズ。
【一途な英雄の為の地蔵(No012)】
1.お祈りすると肉体のあらゆる中毒が解消される。
2.ただしお金をお供えしなくてはならない。
3.初めて身体に取り入れた日を起算日として、1日×5千円が必要(現在価値)。
4.お供えしたお金は消えてしまう。
5.地蔵を毎日掃除しないと、元に戻ってしまう。
【芳香な英雄の為の地蔵(No013)】
1.お祈りすると肉体のあらゆる悪臭が解消される。
2.ただしお金をお供えしなくてはならない。
3.年齢×百万円が必要(現在価値)。
4.お供えしたお金は消えてしまう。
5.地蔵を毎日掃除しないと、元に戻ってしまう。
そしてアヴィが考えたお宝。
【解放のアレクサンドライト(No014)】
1.この宝石の所有者はあらゆる欲望が百倍になる。コントロールはできない。
2.所有者は持っている日数×1年分の寿命が縮む。
「がんばって考えました」
とアヴィは言っていた。
なんでこのアイテムにしたかと訊くと、「これを誰かがダンジョン内で拾ったら、欲望ポイントが増えるんじゃないかと思って」と答えた。
何か企んでると思ったが、まさかこんな裏技的なものを考えていたとは。
そんなにうまくいくかなー。
ちなみに今の所、ダンジョン内では一度も拾われていない。
ついでにマモンもアイテムを作った。
【忘却のアンモライト(No015)】
1.この宝石の所有者は過去を全て忘れてしまう。ただし一般常識は残る。
2.所有者は持っている日数×1年分の寿命が縮む。
ちなみに理由は、一回読んだマンガをもう一回新鮮な気持ちで読みたいから、ということだった。単純なやつだ。
他にもマモンが最初に作ったアイテムもダンジョンに置いて、今は全部で13のアイテムがある。だんだん立派なダンジョンになってきた。
「ジュンイチ、腕相撲しよう」
マモンは突然思いついたように俺に挑んでくることがある。
「いいけど」
テーブルに座って腕を組んだ。
「はっけよい、のこった!」
ばたん、とマモンの腕が倒れる。
「負けた~」
「そりゃそうだろ」
「もっかいしよ。今度は左」
「いいよ」
左手に持ち替える。
「ねえねえ」
「ん? ぶほ!」
「はっけよい、のこった!」
ばたん、と俺の腕が倒れる。
「勝った~」
「お、お前一体何を」
マモンはブラみたいな服を少しだけずらしたのだ。
「ふっふっふ。ジュンイチの弱点だって知ってたんだよ~だ」
「やめなさい」
「今度はわたしとしましょう」
将棋盤に駒を並べて眺めていたアヴィがこちらにやってきた。
「やだ。なんか負ける気がするから」
こんな可憐な女の子に負けたら立ち直れない。
「やるんです」
と強引に腕を掴まれた。
あ、駄目だ。この握った感触は、相当な使い手だ。
マモンが俺とアヴィの拳の上に手を重ねた。
「はっけよい、のこった!」
「ぬん!」
力を込める。が、動かない。
「ジュンイチ、弱いです」
ばたん、と音がした。負けてしまった。
「うぅ、もう立ち直れない」
「かわいそうに。よしよし」
心が折れた俺の頭をマモンがなでたその時だった。
「あ、人間がまた来ました」
いつもの入店音がした。
そして、その数分後。
突如、ディスプレイの数字が大きく変化を始めた。
――おかしいぞ。
――何故だ。
異変。
まるで機械が壊れたように見る見るうちに数字が増加する。
それは、討伐数を表す数字だった。