第11話「分析と対応について」
一週間後。残存ポイント400。
俺が学校に行っている間は、マモンに細かくポイントをメモをしてもらい、アヴィには来た人数、怪物が倒された回数、持っていかれたアイテムの数をカウントしてもらった。
二人はとても嫌がっていたが、今度マンガを買ってくるからと交渉し何とかOKしてもらった。
その結果、以下のようなデータを得ることができた。
集計期間:7日
合計人数:56人(日を追うごとに減っている)
合計獲得ポイント:570ポイント
怪物討伐回数:2
アイテムを持っていかれた回数:8回(640ポイント分)
「これで何が分かるの~?」
「アイテムを持っていかれすぎだ」
つまり元が取れてない。
「そして討伐数が少ない。なんで討伐数よりアイテムを持っていかれた回数の方が多いんだ?」
「逃げられちゃった」
「やっぱ怪物の数が足りなかったんだな」
「じゃあもう一体追加する?」
「うん。でも200ポイントじゃなくて、100ポイントの怪物を二体追加しよう」
「なんでよ?」
「そっちの方がバランスがよさそうだ。それにデータも取りたいし」
広めの部屋だと、大きいエアコンが一つあるより小さいエアコンが二つある方が使い勝手がいい。この討伐数と強奪数を見るとそんな感じがする。
「あと人数が減ってきてるのが気になる」
「あ、それなら理由が分かるよ」
「そうなの?」
マモンがエッヘンと言わんばかりの顔をした。
「うん。お宝をゲットしたおじさんがもう来なくなっちゃったからだよ」
「ほう。そういうことか」
つまり、のべ56人ということか。
ユニークユーザー数でいうと、もっと少ないということだろう。
お宝を増やす必要がありそうだが、これは人数が減ってきたらまた考えよう。
このデータを見る限り、根本的な問題ではないと思う。
「とにかくまずは怪物を増やして様子を見よう。人数、討伐数、強奪数の相関関係を調べて、一番いい形を探すんだ」
「ジュンイチ、なんかカッコいいです」
「うんうん。カッコいい」
パチパチと手を叩かれた。
なんか恥ずかしい。まあ意識して難しい言葉を使ったけれども。
「ジュンイチ。アイテム作ってもいい?」
「アイテム?」
「うん。データを取る道具を作るの。ダンジョンマスターの道具だから低ポイントで作れるよ」
「うーん」
パン、とマモンが手を叩いた。
「お願い。いいでしょ?」
上目遣いで甘えた顔をしている。
「ジュンイチは優しいからきっといいって言ってくれます」
と横目でじいっとアヴィに見られる。
「むー」
まあいいか。
今のままだと夜中のデータが取れてないし。
「いいよ」
「やった。いひひ」
「お姉ちゃん、やりましたね」
二人は手を取り合って笑っていた。
悪魔というのは基本的に遊ぶのが大好きで、働きたくない生物なのだ。
正直うらやましい。
「どうせだから他のデータも取りたいな。ちょっと待っててくれ」
ノートに取りたいものを書く。
なんとなく夏休みの自由研究を思い出した。
まあいつか役に立てばいい、という感じで項目を増やしていく。
グラフとかになっていると分かりやすいから、その機能もつけておいた。
さて、明日からどうなることやら。
そして、1週間後。
マモンがベッドの上で足をバタバタさせながらマンガを読んでいる。
俺が古本屋で1巻だけ買ってきたマンガだ。
いつの間に残りが揃えられていた。めっちゃ便利だ。
それにしてもこっちに足を向けるのをやめてほしい。
足を動かす度にスカートが動き、白い太ももがチラチラ見えているからだ。
「ジュンイチ」
「どわぁ!」
急に後ろから声を掛けられた。
「どうしたんですか?」
「い、いや。どうかしたか? アヴィ」
「見てください」
「ぶ!」
アヴィが持っていたマンガを広げてこっちに向けた。
濡れ場シーンだった。
「やめなさい。そんなの。めーですよ」
「でもジュンイチが買ってきたんですよ」
そうだったっけ。
適当に1巻ばっかり選んだからあんまり覚えてない。
「この人間は不思議です。出会った女の人をみんな裸にしてます」
「不思議だよな。それで出世してるんだから」
ちなみにそのマンガも2巻から先が揃えられていた。
ティリリリリリーンと音が鳴った。
とあるコンビニの入店音だ。
「人間が来ましたよ」
「よし。これでまた1000ポイントになるな」
怪物の数を増やした結果、順調に数字が伸びていた。
何度か怪物を再召喚することになったが、代わりにアイテムを取られる回数が減ったのだ。ユニークユーザー数も減っていない。
なんとなくだが、動員数と必要な怪物数の関係が見えてきた。
これは想像になるが、きっと武器と防具の強さを変えれば微調整もできるだろう。
マモンが作ったアイテム、【ダンジョンマスターの自動データ収集装置(No011)】はかなり優秀な機械だ。
三面のディスプレイに各数字やダンジョンの地図、統計情報、グラフなどが表示されている。そしてここの前に座ってると、ちょっといい気分になれる。
「順調だ。そろそろお宝を追加しよう」
「わたしもやりたいです」
「んー。いいよ。アヴィも頑張ったし」
「くふふ」
妖しい笑いを浮かべている。
大丈夫だろうか。
「さて」
俺は三面ディスプレイを見る。
次はお宝追加と動員数の相関関係を調べよう。
怪物の増やし方は理解できた。
「この調子なら、あっという間に10000ポイントですね」
「あぁ、そうだな!」
俺は順調なダンジョンの成長を確信していたのだった――。