第10話「問題発生」
五月三日。
ホワイトボードに「1000」と大きく書いてある。
俺やアヴィにも分かるように、マモンに毎晩こうして書いてもらっているのだ。
俺たちはついに目標だった1000ポイント獲得を達成したのだった。
「わーい!」
マモンが喜んでいる。
「うぅ~ぐすん」
アヴィが泣いている。
毎日ハァハァしたおっさんに追いかけられていたからだ。
「アヴィ。目標達成したし怪物を作ろう」
「ほんとですか? よかった~」
「ありがと! アヴィ」
マモンがアヴィの頭をなでる。
アヴィは恥ずかしそうにして俯いていた。
「角を触れられるとくすぐったいです」
「可愛い~」
なんて微笑ましいんだ。悪魔なのに。
「ジュンイチ、次の作戦は?」
「作戦? んー、まあこのままでいいんじゃないか?」
とりあえずアヴィの代わりに怪物と罠を作ればいい。
「アイテムはぁ?」
「とりあえず地蔵三種でいいだろう。挑戦者に取られたら同じアイテムを作ればいい」
明日からは地蔵を三つ置いてやろう。
それに、少しは人間にゲットさせないと、このダンジョンはお宝を取らせる気がないと思われてしまうし。
「分かった。怪物は何ポイント分作る?」
「うーん。一回作ったら、怪物はずっといてくれるのか?」
「ううん。人間に十回倒されるといなくなっちゃう」
そうだったのか。
「人間一人の強さをポイントにすると、どれくらいになるの? カマキリが20ポイントって言ってたけど」
「100ポイントくらいかなぁ」
「あんまり変わらないんだな」
100ポイントで人間一人か。
じゃあ、とりあえずその倍なら負けることはないだろう。
「じゃあ200ポイントで2体作ろう」
「罠も作りますか?」
「そうだな。100ポイント分くらいで適当に作っとくか」
「おっけー。じゃあ作ってくるね」
マモンが一人離れ、ダンジョンへ続く扉の向こうへ消えていった。
「これで500ポイントに戻ってしまいました」
「うん。まあ、またすぐ増えるだろ。ゴールデンウィークだし」
「はい。ジュンイチがそう言うなら間違いありませんね」
今日から連休だ。
きっと人間がたくさん来るだろう。
そして連休は進んでいく。
五月七日。
残存ポイント。
470。
「何故だ!」
俺は叫んだ。
「おっきい声出さないでよ~死んじゃったじゃん」
マモンはコントローラーを右手に持ちながら俺を睨んでいた。
アヴィとゲームをやっていた。
画面には「GAME OVER」と表示されていた。
テレテレと変な音楽が流れている。
「なんて不吉な……」
アヴィはポテチをかじりながら、不安そうにこっちを見つめていた。
「ポイントが増えん。むしろ減っている。何故だ」
「なんでだろう~なんでだろ~♪」
と変な歌を歌いながらマモンはまた画面を見つめてコントローラーを握った。
くそ。呑気なやつだな。
人の量はあんまり変わっていない気がする。っていうかむしろ減った。
アイテムも何回か取られた。怪物はまだ二体とも残ってるけど。
このままではジリ貧になってしまう。
どうにかしなければ。
しかし原因が分からん。
ネットを探しても分からないし。
やはり怪物が量が少ないのだろうか。
それともお宝を増やすべきなのか。
「ジュンイチ、席をかわってほしいです」
「あ、うん」
俺が立つと、アヴィはそこに座りパソコンを操作しはじめた。
何かヒントをくれるかと思ったら、全然違った。
「将棋かよ」
「はい」
どうやらネット将棋をこれからするようだ。
アヴィは謎のネット棋士「AVY」として、密かに有名になりつつある。
まあそれはいいとして。
アヴィは別の画面を出して何かを見ている。
文字のようだ。
「何してるの?」
「対戦者が現れるまで、プロ棋士の棋譜を見てるのです」
「ふーん。本格的だなぁ」
棋譜か。
たしか将棋の1ゲームを文字で書いたものだったと思う。
「棋譜……」
閃いた。
そうか。まずはデータを取ってみよう。
そうすれば原因が分かるかもしれない。
ゲームをしてるマモンと棋譜を読んでるアヴィの間で、俺は一人だけチョー真剣にそんなことを考えているのであった。