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エピローグ 〜バス停にて〜

「……という訳で、俺のダチ達は無事、彼女をゲットしたってわけ」


俺が修学旅行のラブなあらましをサツキに告げると、


「ふーん、良かったねー」


という興味無さげなサツキの声。


その手には先ほど渡した饅頭を包んでいたであろう小さな正方形のビニールが5枚。


マジかよ。俺が恋バナしてる間に、土産の饅頭を食べきるとは……


「で?」


サツキの手元に目を奪われていると、短い問いかけ。


「でって? これで話はお終いだよ」


俺がそう答えると、サツキはやっと、満足げな表情を浮かべる。


「ふーん、そっかー。可哀想な圭介君は、誰ともカップルになれなかったんだねー」


人の気持ち知らないで、楽しげにころころと笑うサツキ。いっそこの想いを告げて、困らせてやろうか。


けど、この話の流れで言うと、友達2人に彼女が出来たから、焦って告白したと思われかねない。


俺はそう思い、気持ちにそっと、蓋をする。


「そーですよー。どうせ俺は、モテませんよーだっ」


俺は、ちょっとおちゃらけた声で、いつもの圭介で、サツキに答える。今は、こういう距離感が、ちょうど良いんだ。そう自分に言い聞かせて。


「へー、可哀想に。私は異国の地で、彼氏が出来たっていうのに」


サツキはクスッと笑いながら、聞き捨てならない言葉を紡ぐ。私も、圭介のエピソードの一つに、加えてもらえるかな? そんな楽しげな表情で。


「……」


マジかよ。


……マジ……かよ。



『ガンっ』



気がつけば俺は、バス停を思いっきり蹴飛ばしていた。


「ちょっ!? えっ? 圭介?」


サツキの思いっきり狼狽えた声。俺はただ、にっこりと笑顔を作ると、


「良かったね、サツキ」


と何事も無かったかのように、サツキを祝福する。そりゃそうだ。ダチに立て続けに彼女が出来たからって、俺もそれに続けるって話には、ならないよな。


すると、サツキが慌てて俺に、スマホを差し出す。

そこには天使のように愛らしい、小さな外人の男の子が微笑みかけていた。


「彼氏って、この子だから!」


サツキは焦って弁解をはじめる。


最初は楽しく、俺の修学旅行の話を聞いていた。でも、友達がカップルになった話ばっかり出てくるし、もしかしたら、共学の修学旅行は、そういう機会が多いのかもって思って、そしたら不安になった。


俺に彼女が出来てないってわかって、ホッとした反面、勝手にではあるが、不安な思いをした仕返しに、俺をからかいたい衝動に駆られた。


ふと、修学旅行中に、小さな男の子に、大人になったら結婚しようねって告げられたのを、思い出したのだと。


「……つまり?」


あらましを聞く限り、答えはひとつだ。


「……つまり、私は、圭介と」


「うん、サツキは、俺……()?」


俺は、サツキの言葉を繰り返しつつ、言い回しの妙に、思わず、疑問系になる。


「うん、圭介は、私()


サツキは、強調するように言い直してから、ニコッと微笑むと、


「両思いだよ」


と嬉しそうに告げる。


「良かったねー、うん、うん、良かった良かった」


一人で納得するように頷くサツキ。


え、嬉しいんだけど、うん、嬉しいんだけど釈然としない。


「俺と、サツキは、両思いなの?」


俺は確認するように告げる。


「うん、両思い……だよね?」


嬉しそうな表情から一転、サツキがやや不安げに俺を見る。


「うん……両思い」


俺は、サツキの不安を打ち消すように、しっかりと、肯定する。


「ということは、カップル?」


サツキが嬉しげに俺を見る。


「うん、カップル」


俺は、じわじわと喜びを感じながら、そう答える。


「じゃっ、連絡先。交換しよっ」


サツキがたどたどしく紡ぐその言葉に、俺は実感する。今後は、バス停で遭遇するだけじゃなく、会いたい時に会いたいと言える距離になったのだと。

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