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プロローグ 〜バス停にて〜

「よっ」


俺はバス停でいつものように声をかける。


「おぅ」


サツキは振り返ると、軽く手を上げて挨拶を返す。学校帰りのバスを待つバス停、いつもの光景だ。


圭介けいすけ、修学旅行から帰って来たんだねー」


どうでもいいかのような軽い声でサツキが告げる。


「んー、二泊三日だしねー」


俺もなるべく軽〜い感じで答える。


「ははっ、高校の修学旅行で二泊三日ってどうなのよ? しかもバスで一時間未満の温泉に二泊って、何を学び修めるのやら」


サツキは理解出来ないとでも言うように、軽く肩をすくめる。


「しょうがないだろー。PTA会長が運営してる温泉宿が閑散期に安く泊まらせてくれるんだってさ。どっかのお嬢様学校とは違うんだよ」


俺はちょっとだけ不貞腐れつつ答える。そりゃあ俺だって、お前らみたいに一週間のヨーロッパ旅行とかに行きたかったよ。それでも温泉旅行は中々に実りのある面白い物だったけどな。


サバサバと軽口を叩くサツキは、俺が通う高校から徒歩十分ほどのお嬢様学校に通う、れっきとしたお嬢様だ。バス停で顔を合わせてる内に、何故か親しくはなっているが、俺とははなから住む世界が違う存在だ。


まぁ、他の生徒が送迎の車に乗る中、公共の交通機関を利用する辺り、そこまで凄いお嬢様では無いのかもしれないが。


「お土産」


良い笑顔と共に右手が差し出される。二泊三日の温泉旅行と知ってなお、お土産をねだるあたり、少なくとも内面はマジで大したお嬢様では無いのだろう。


俺は鞄から温泉饅頭をひとつ取り出すと、ぽんっとサツキの手のひらに載せる。


「ありがとっ」


そう言うと綺麗な細指で饅頭に貼りつくパッケージを剥がし、ぱくりっと饅頭にかぶりつく。


すっげぇ美味そうな顔。幸せいっぱいって感じだなぁ。


「ちょい食いかけで良ければ箱ごとやるよー。まだ四個くらい入ってたはず」


俺が鞄を漁ると、


「えっ、いいの?」


キラキラとした瞳で俺の鞄を見つめてくる。尻尾を振る犬みたいだな。これで饅頭やらなかったら、尻尾垂らしてしゅんとするんだろうなぁ。まぁ、この顔を見てやらないって選択肢は俺の中には無いけど。


俺は六個入りと書かれた、比較的小ぶりな温泉饅頭の箱をサツキに渡す。


「ありがとう。で? 修学旅行はどうだったのよ」


サツキはニコニコしつつ、学校指定の高そうな鞄にチープな紙の箱を収納する。


「俺のダチに彼女が出来たよー」


俺はニヤリと口角をあげると、修学旅行での出来事を話し始めた。

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