特に何も無いようで変化のある一日の始まりは敷居内で起こる?
僕は恵まれているだろう。
朝、いつもと一緒の時間に目が覚める。
いつも通りのクリーニングされた制服に袖を通して髪を整えながら朝食を取るために一階へ降りる。
まるでバイキングのように並べられた食事から自分の食べたいものを食べたいだけよそって食べる、周りには使用人が何名もいて落ち着かないのにも慣れた。
食事の後身だしなみを整える。
これらのことは言えば使用人がやってくれる、実際僕の妹と弟は使用人にさせている事だが人は人で僕は僕だ。
整えられた設備のおかげでいつもすぐに学校へ行く用意は終了する、普通ならここでテレビを見たりしてまったりするだろう。
でも僕は学校が好きだ、っと言うより家が大っ嫌いなんだ。だから今日も朝7時に学校へ向かうため送迎用の車に乗り込む...
「げふっ!?」
...ところでいきなり背中から衝撃を喰らった。
正直感謝もするが、コレは酷いだろう?毎度毎度、僕は精神的にはMよりだが肉体的にはMとは違う痛いものは痛いんだよ。
「いつも言ってんだろぉが!家から通える距離の学生は己の足で来やがれって、何処の社長令嬢だ馬鹿野郎!」
朝から元気に僕を怒鳴る事が出来るのは全く家に帰ってこない多忙な父と他界した母を除けば彼ぐらいだろう、こういうところも高篠の凄いとこの一つである。
「一応鎌倉財閥の跡取りの第一候補でそこらの社長令嬢よりは凄い位置だけれどね?」
言っておくが僕は自分の地位に『偉い』や『凄い』など本気で思っちゃいない。
むしろ、自身の実力は知っているから悲しくあり虚しくある。
そして、彼...高篠鈴(『すず』ではなくて『れい』と読む。後、くどいようだが彼は男である)が僕の唯一の親友である所以が「分かっている事」だろう。
「はぁ?お前自身の出来はよく知ってるから言うけどな、お前が財閥の跡取りだろうと神の息子だろうと地球外知的生命体だろうと評価はかわんねぇよ」
「いやいや、神の息子なら崇めとこうよ?ってか、地球外知的生命体って何?地球外生命体でいいじゃん、知的っている?」
「邪神を崇める気はねぇし知的じゃないと喋れないかも...だろぉが!」
「何だよそれ...あぁ、もういいよ!歩くよ!歩けば良いんでしょ!?」
僕はヤケになった振りをしながら内心微笑む。
「当然だボケが!」
「はいはい...じゃあ、高篠がウルサイから歩いて行くね?行ってきますっ!」
「ちょっと、お坊っちゃま!?」
運転手の足車さんが止めようとする前に僕は走って家を出る。
「おいコラっ!迎えに来てやったのに先に行ってんじゃねぇよ!」
「ははっ、頼んでないじゃんか」
コレは本当だ、頼んで無いのは本当。でも、彼が来てくれるのはとても嬉しい事である。
「巫山戯んなっ!もう来ねぇぞ、馬鹿野郎!」
コレは嘘だ、彼は誰よりも優しく誰よりも頭が良い...だから僕のようなヤツはほっておかない。
ふと考えてしまう、僕は彼を親友...この世で一番に信頼している。しかし彼はどうなんだろう?彼は優しい、僕より...僕なんか比べ物にならない人が現れた時も同じように接しているのかが不安になる。
「ははっ、先に行っちゃうぞ?」
家の敷居を出るにはこの城のような庭を出なければいけない。
「朝ぐらいゆっくりさせろや馬鹿野郎!」
高篠の声に僕は振り返る。
目に見えるのは城のような家。
特別な何かを纏ったようにも見える。
だが...そんな環境においても僕は特別では無かった。
「ふぅ...朝っぱらから疲れさすんじゃねぇよ、もう家は出たんだ...歩いて行こうぜ?」
「そうだね」
次に高篠が声をかけてきた時、僕は既に家の敷地から外の綺麗に補正された道路に出ていた。
「ところでこの前お前の貸してくれたラノベだけどな...」
高篠と何でも無い会話を始めながら学校へ行く。
コレは普通のようで、僕にとっては『変化ある日常』であった。