03
ユキは灰色かかった髪の十代の女の子です
亮は大学生
もっとも小説内で出せる努力をしなくては……
03
「しかしよく食べるね、よほどお腹が空いていたの?」
目の前ですでに三枚目の『季節の野菜特選ハンバーグ』の皿をどかしながら、次の皿に取りかかってる謎の女の子に聞く。
金が足りなくなる心配特大だが……僕だって男だ、女の子の前ではどうしても甲斐性を見せたくなる。地獄の階段をただいま絶賛駆け上がってる。
やけになってコッチも定食セット頼んだのだが。
コクリと頷く少女に、そういえばの質問をぶつける。
「そういえばまだ名前を聞いてなかったね、僕は支倉亮。お宅は?」
「…………」
案の定というか予想ずみというか……黙り込む。
「あー、教えたくないならそれでもいいけどさ。いつまでも『お嬢さん』ってのは不便じゃない?」
必死に自分には害意が無いことを身振り手振りで伝える。
「……ユキ」
ようやくポツリと教えてくれたが……ユキって悪いが絶対偽名だろ。
しょうがないのでユキで通すことにするが。
「えっと、ユキ……さんは迷子?」
「ユキでいい……違う」
さんづけはあっさり拒否された、迷子でないとなると家出ぐらいしか思いつかない。
「じゃあ、どこから来たの?」
「……」
黙り込む、灰色かかった髪が隠していたので注意してなかったがどうやら右目に眼帯を付けているみたいだ。
かなりのワケありなのだろう、ただの中二病じゃないことを祈るばかりだ。
「帰るところは?」
「……」
「パフェ、食べる?」
「食べる」
コンマ数秒で即答された、店員さんを呼んで『カーリーおじさんのなめらかプリンパフェ』を二つ頼む。
そろそろ出費がやばくなってきたぞ?
はんばヤケなのだが冷静になってみると相当な出費だと思う。
「おっと、これ食べる代わりに一つ教えて。あんなところで一人でなにしてた?」
運ばれてきたパフェをちょっと持ち上げながら質問する。
等価交換だ、謎のままで終わらせるわけにはいかない。
「餌付けは卑怯……」
恨めしげにこっちを見てくる眼と視線がぶつかってドキッとする。
あれ? …………。
前にもどこかで……。
「あいむ、ひっとまん」
「は?」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
意識を現実に戻す。
「…………」
気が付いたらパフェはすでに少女に奪われていた……しかも二個とも……。
「なあ、気のせいかもしれないんだけど。前にどこかで会ったことないかな?」
今、感じた質問をぶつけるとピクリと動きが止まった。
「……どうして?」
またも視線がぶつかったが……。見てはいけないものを見た気がした。
「ああ、気のせいならいいんだ」
あわてて視線を逸らす。絶対に気のせいだろう。
ちょうどその時、僕の携帯電話がなった。
個人着信音を『ジョーズ』のテーマにしているのは一人しかいないのですぐに誰だかわかった。
「ちょっと失礼」
少女をその場に残して、トイレのほうへ歩いて行った。
「はい、もしもし」
『荒揶だ、そろそろ時間になる』
いつもの通りの抑揚のない声だ。
手洗いの時計を見ると、そろそろ夜の九時をさしていた。
「あ、しまった。写真貰ってなかったな、悪いけどどこへ行けばいいのか教えてくれ」
ポケットをまさぐって失敗に気がつく、迂闊だった。
『後ほどメールで送る。それよりも気を付けろ、どうやら九龍が動き出すのは本当らしい、榎本の弟がやられた』
「何かの間違いってことは?」
急な展開に戸惑う、つい今さっきの出来事なのにすでに渦中にほうりこまれたようだ。
念のため確認する。
『現場で奴ら特有の二頭紋が見つかった、しかも相手は女だ』
二頭紋、双頭の蛇を模した『九龍』特有のマークだ。
「…………」
軽く目眩がする、誰も気にしてないようだが一応僕は未成年に当たるわけだ、人殺しの相手に向かないのは明白すぎるのに……。
自分の境遇に泣きそうになった。
『奴らの向かい側のビルの監視カメラが、偶然にもライフルを持った女を映している、十中八九この女だ。後ろ姿だけだがな』
女工作員か、どっかのスパイ映画みたいなもんかな。
どちらにしろこっちを襲ってくるのは変わらないだろう、気が変ってくれることを神様仏様地蔵様に祈るばかりだ。
「そりゃ、大した大手柄だな。理解した準備してくる」
皮肉を言って電話を切る、トイレの便座に座ったまま三分間動かずに思考を巡らせる。
何を考えてもとりあえずは無駄だろう、特大のため息をついて洗面所から出る。ため息一つで幸せが逃げるらしいが、そんなものとうに持っていない。
とりあえずは少女をどうするか考えようと席に戻ろうとするが……。
「あれ?」
居ない、食べるだけ食べて帰ったのかな?
それならそれでこちらは助かるのだが……。
「お客様」
ウエストレスが伝票を持ってくる。
…………………………。
結局、泣く泣く僕はレストランの店長とコンビニのATMに駆け込む羽目になった。