02
事実は小説より奇なり。
出会いはどこに落ちているか分かりませんよね、もっとも全て見逃してしまった気もするが……
02
「しかし、どうしたものかな」
店を出た後すぐに腕時計を確認する、少々店を出るのが早すぎたかな、と思ったが。よくよく考えてみると、これ以上あの腐れ神父と一緒の卓を囲むのは死んでも御免だったので、まあよしとする。
「ま、時間までブラブラしてようか」
手元で先ほど店内から持ち出してきたペーパーナイフをクルクル回して遊ぶ。
こんなおもちゃでも暇つぶしぐらいにはなるかな、と思いつつ空を見上げる。
冬の空なんてロマン溢れる響きだけど、目前にはどんよりとした曇天しか見えない。
「あーあ、今日も星は見えないかー」
誰に聞かせるでもなくそう呟いて支倉亮は駅のほうに足を向けた。
誰にでも厄日ってのはあるようなもので、少なくとも神父に会うのが今日だったら僕にとって今日は厄日だろう。
いつも通りの駅前で、いつもとちょっと違うことが起きていた。
女が男に因縁を付けられている、漫画じゃあお馴染みのパターン。
周りの通行人は彼らを避けるようにして歩くため、どうしても円形のスポットライトが当たっている舞台のようだ。
男たちは興奮するようにして捲し立てているため怒鳴り声がこっちにまで聞こえる。
一瞬、他の通行人のように彼らを避けて通ろうか考えたが、やめた。
「見ちゃったし、聞いちゃったし、なにより……美少女だ」
結局のところ何よりも即物的な僕は厄日に自ら首を突っ込む羽目になった。
息を吸ってスポットライトに当たりに行く。
ヤジ馬たちを掻き分けてどうにか前に出ることができた。
「すいません、どうかしたんですか?」
未だに腕を掴まれてる女の子をちらりと見ながらそう男たちに聞く。
「あんた何だ? この娘の知り合いか?」
少女の腕を掴んでいたスキンヘッドの『いかにも』そうな男がドスをきかせてくる。
「いや、そうじゃないけど……見た感じ彼女困ってるじゃない。何かあったの?」
あくまで平静を保って聞く。向こうが興奮しているので、もはや話し合いになりそうもないけど、最低限ヤジ馬には僕は『大人な対応をして話し合おうとする男』に見えることだろう。
しかし僕の返答に何が気に食わなかったのか、もう一人のひょろっとした金髪の……これもまさにいかにもそうな『チンピラB』が怒鳴る(ちなみにスキンヘッドは即興で『チンピラA』に任命した)。
「あぁ! なら手前に関係ねえだろ! すっこんでろ!」
ちょっとカチンとくるが、何とか堪える。
そんな僕にはもう興味を失ったのかチンピラA・B両名は女の子に「だから、どっかで一緒に遊んでくれりゃあ許すつってんの! わかる?」なんて明らかなナンパを繰り返してる。
それは、今更サルでもやらなそうなナンパだぞ……。
何とゆうか、『キング・オブ・チンピラ』みたいな奴らだ。
ふーっ、と息を吐いて横目で女の子を確認する。
……何というか、こっちはこっちで絵に描いたような美少女なんだよなあ。これじゃあ原人レベルの奴らが群がるのも無理はない、僕もその一人かと思いついて悲しくなる。忘れよう。
「やれやれ……これも巡り合わせってやつ? だったら勘弁してもらいたいな」
困り顔でさえ絵になるような女の子を助け出すために、少々荒い方法をとらせてもらう。
カッコつけたがり男子の真骨頂だ。
「あぁ、何だてめぇ。まだい――ぐはっ」
「てめぇ、よく――がっ」
Aを合気道の要領で投げる。そして興奮するBに当て身を喰らわせる。
ここまでざっと十五秒……やっぱり場数踏んでるほうが強いよなあ。
「ほら逃げようよ早く、せっかく王道的展開に持ち込んだからさ」
痛みでうずくまってるA・Bをトドメとばかりに蹴り飛ばして振り向く。
「???」
未だに何が起こったのか分かってないのだろう、女の子は呆けたようにこちらを見つめる。
「ぐっ、てんめぇ待てやゴラァ!」
「ただで済むと思ってんのかぁ」
意外と回復の早いチンピラキングの二人がもそもそと起き上がってくるのを見て女の子の腕を掴む。
「おーおー、お決まりのセリフですこと……逃げるよ、ほら」
「ぁ……」
そのまま一目散に駈け出した。
「ぜーはーぜーはー、ここまで逃げれば追って来ないだろ」
どこをどう走ったかは覚えていないが、ようやくチンピラズを撒いたようだ。
その場に二人して座り込む。
「ぁ……ありがとう……ございます」
「あーと、どういたしまして、かな?」
女の子は息ひとつ切らせてはいない……やっぱり運動不足なのかな。
しかしやっぱり落ち着いてみると中々の上玉だ。
まるで異国から抜け出してきたお姫様のような雰囲気すらある。
「…………」
ふと、眺めていたのを気付かれたようだ。視線がぶつかる。
「あ、わり……」
「い、いえ……」
二人して赤くなって俯く。これが誰か他人なら「くすぐったいぞ」なんて言ってからかってやるのだが、女づきあいの乏しい自分となると勝手が違った。
ごまかすようにして捲し立てる。
「まあ何にせよあそこはお嬢様が一人で出歩くような場所じゃないよ。連れは? いないのか?」
ふと、話しているうちにいやな予感がする……しかも、結構近場で結構当たるほうで……。
ちらっと女の子のほうを覗いてみると……。
「…………」
あ、やっぱり。絶対にワケありの匂いがぷんぷんする。
僕は自分で思った以上にまずい事態に首を突っ込んだらしい。
「あぁ、何だ携帯とか持ってるだろ? それで連絡取れ、……じゃあ俺はこれぐらいで……」
所詮、美少女でも曰くつきにはあんまし関わり合いになりたくない。
そんなへたれ根性丸出しで逃げだそうとしたその時……。
グゥ~~~~~。
「…………」
「…………腹、減ったな」
恥ずかしそうに俯いている、この分だとどうせ金なんて持ってないのだろう。
「ご飯、食べに行こうか?」
「……!」
これもかなり古臭いナンパのセリフに聞こえるがまあ、喜んでくれたので気にしない方針で。
結局僕は見ず知らずの女の子のために自腹切ってまで飯を奢ることになったのだ。