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5話 帯に短し襷に長しですよ!?

 どうして前世の記憶が残っているのかな?

 なぜ生まれ変わった時点で、私は忘れてしまわなかったのだろう?

 ごく平凡だった人生を憶えておく必要なんて、どこにもないように思えるのに。しかも、それは短命だったうえに、所詮は博学でもない凡人の記憶なのだ。主観的にはともかく客観的に考えれば、わざわざ憶えておくような価値などないに違いない。

 わずかでも世界を変えたりするほどの何かが、私のなかに欠片でもあるという訳ではないのだから。

 現に、前世の知識は今の生活には全然役に立っていない。

 それなのに十五歳少女の自我を失わなかったせいで、いま置かれている環境が異様に感じる。いやでも無意識に生活様式などを前世のものと比べてしまうし、ひどい違和感で落ち着かない。

 言葉ひとつを覚えるにしたって、前生の母語であった日本語が習得の助けになることもない。

 肝心の会話が解らないから、今が何年いつか分からない、ここが何処の国かも判らない。

 前生の記憶などない普通の幼児だったら、こんな思いを味わわなくて済んだのに。

 何も知らなくて当たり前で、自分が知らないと気づくこともなければ、疑問を抱いて不安になりさえしない。

 そう、十五歳の精神こころなんて、幼児には過ぎた代物もの。こんなの要らないよ、本当に。

 はあ、自分のことながら自棄になってるなぁとは思う。

 こんな風に落ち込んだって良いことはないと、理屈では知っている。自分が実は恵まれているんだって、理性では分かっている。

 ただの幼児ならいざ知らず、それくらいは十五歳なら理解できる。

 前世の便利な暮らしとは違うけれど、衣食住の不自由はない。家族も優しく面倒をみてくれる。周囲の人から貰えるものは全て、いつも当然のごとく与えられている。

 だから、それ以上を望むのならば、文句を言うばかりでは何も変わらない。自分で頑張らないといけない。

 でも、なかなか成果が身につかないと焦れったくて、堪らない気持ちになる。

 人の呼び方、物の名称を覚えるのがやっとで、周りの人々のお喋りを聞き取れないのがもどかしい。

 何がなんでも話せるようにならなければ!

 抑えようとしても、どうにもこうにも想いばかりが先走ってしまう。

 だって言語さえ覚えれば、ここがアジア圏の国でこの家が華僑であれば、少しはこの記憶を活かせる筈だ。日本文化の中には中国から伝わったもの、影響を受けたものが数多いのだから。

 それに、筆記は漢字を使用しているようだから、字を覚える方は簡単そうである。もとは同じ文字なんだから、きっと何とかなる!

 そうすれば、また大好きな読書ができる。

 本を読めるようになったら、まずは自分の住んでいる国のことを調べてきちんと知っておきたいし、それ以外にも役に立ちそうな知識ならどんなモノでも欲しい。

 ううん、たとえ何の足しにもならなくても娯楽として楽しめれば、それでもう良いの。

 只今の状況は、前生で活字中毒者だった私には辛くて凹む。地味にストレスが溜まって、じわじわと禁断症状が出てくるんだよね…。

 ああ、何か物語が読みたいよぅ…。

2013.6.5

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