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第7話

 意外なことに、水汲みの働きが評価されたようで、テツたちは待遇の改善が実現されていた。手足の拘束はされなくなり、ある程度の自由が許されるようになったのだ。


 仲間たちは手足の不自由がなくなって喜んでいたが、逆にテツは何らかの思惑を感じずにはいられなかった。とはいっても、一介の学生剣士に過ぎない自分たちを手懐けようとしてもメリットは大きくない。そこまで人手不足なのだろうか、と集団の顔を探す。


 行動を共にしているうちに、男たちはただの野盗などではなく、戦闘集団であることがわかってきた。いまだって剣を振るっている者がいるし、各自に己の鍛錬をかかしていないようだった。


 その一方で、どこかの国に属しているとも思えず、テツの頭の中を検索して出てきた単語は「傭兵団」である。荷馬車からしても、定住せずに移動を続ける装備一式であるのは間違いない。裏方といえる女たちは、暇があれば裁縫や武具の手入れを手伝っている。


 この大きいとはいえない一団の中で、ある種のコミュニティが出来上がっているのだ。


 中心となっているのは、騎士の身なりをしている7人であり、リーダーはいうまでもなく「団長」と呼ばれている大男。その下に神経質そうな壮年の男、恐らくナンバー2であろう者がいる。以下は同位、あるいは年功序列でやっているように見える。


 サポート役は10人ほどの女たちが任されているらしく、その中でも、テツをして抜け目ならない女と思わしめたシンシアは中心人物であるようで、きびきびと指示を出している様子をよく見かけた。


 食事事情も余裕がないのは明らかながら、以前より改善されてきている。


 男達は戦闘訓練をかねて狩りを行う。それに同行を命じられるようになったテツは、まだ自分で獲物を狩ったことはないものの、追い詰める役割としては、十二ぶんによく働いた。


 生来の俊敏さに加えて、確かな基礎訓練で育んだスタミナがある。森の中を縦横無尽に駆けまわる姿には、団員も舌を巻いたほどだった。


 大和人特有の諦めの良さというか、順応の速さというか、その生真面目さが理解される頃には、テツの名前はそれなりの価値をもって団員に記憶されるようになった。


 とはいっても、道場生の中には反目的な者もいるし、自らを捕らえたやつらのいいなりになるテツを快く思わない人間も存在していた。


 仲間のひとりを惨殺されているのだ。当たり前の話だろう。


 彼らの心境を理解しながらも、テツはなるべく逆らわない方がいいと考えていた。それから、なるべく役に立つと思わせるべきだ、とも。


 最初に反抗したひとりを切って捨てたのは見せしめのためだった。団長と呼ばれる男を観察し続けてそう確信した。あの大男は全身筋肉の脳筋だと思わせる出で立ちだが、わかったのは恐ろしく合理的に動くということだった。


 集団をシステマティックに動けるようにしたのもこの男の功績だろう。例の指揮系統をはじめとして、見張りの交代制から狩りの当番、必ず誰かが警戒任務につけるシフトを組んでいる。


 信賞必罰も徹底していて、働きのあった者には褒美を取らせる。それは食料であったり、自由時間であったりした。働きがよければ、団長である自分よりもいい飯を食わせた。一方で、彼自らが見張りや狩りにも参加した。それでいて、玉座に座っているようなふてぶてしい装いは崩さない。なめるやつは容赦しないという、殺気じみたオーラは常時展開されていた。


 団長は団員からも恐れられているようで、実際、狩りや見張りでコンビを組まされることが多いポールなどは、いつも団長を悪魔のごとく恐れていた。感心したのは、こうして恐怖されながらも、同時に尊敬されてもいることだった。畏敬の念、というべきだろうか。


 戦闘を生業とする集団において、親愛や友愛では人をまとめることはできない。死地に向かわせるのは上の人間の権利であり義務なのだ。変わって、主のために死ぬ、というシチュエーションは素晴らしくもあるが、それに至るまでのコストがよろしくない。


 恐怖という道具は、もっとも効率のいい統率用具だ。それにプラスアルファを加えれば、さらに使い勝手のいい代物になる。テツの目から見て、団長はその代物をいかんなく使いこなしていた。


 「よお、テツ」


 ポールが昼飯をもって声をかけてきた。ひとり考え事をしていたテツは、礼をいって自分のぶんを受け取った。


 この気のいい男は、集団では一番若手だったらしく、新たな使い走りであるテツたちを歓迎している様子だった。偉そうに威張り散らしながらも、憎めないひょうきんさを垣間見せる人徳もあった。テツもこの青年が嫌いではない。むしろ道場生たちよりも話しやすい存在であるかもしれない。


 人間というものは、ふたり以上集まれば派閥ができる。テツたち道場生も、例に漏れずふたつのグループにわかれていた。あくまでも、ゆるやかに、ではあるが。


 気に入らないのは、そのグループのひとつの筆頭にテツが据え置かれていることだった。彼からしてみれば、打算もなく食い残した食料、水を融通してやっていただけなのだが、いつの間にか取り巻きのような人間ができあがっていた。


 この世界に迷い込んで、相対的にテツの実力は彼らを凌駕した。その事実は、元能力者に彼を遠ざけさせる要因になると思われたが、現実にはプライドよりも飯の種を問題にした人間が多かった。


 そんな利を求めて近づいてくる人間など信じられるか、というほどテツは青春しているわけではない。むしろ打算的に動く彼らを自分に重ね合わせた。もしも自分に力がなく、誰かの腰巾着になるしかなかったとしたら、きっと同じような行動に出ただろう。


 だから邪険に扱うことはなかった。その上で、きちんと働くようにいい聞かせて指示を出した。各自バラバラになって動くよりも、指揮されて動く方が効率のいいことは、いまさらいうべきことではない。確実に結果を出せば、そのぶん褒賞ともいえる物資が手に入る。いわば、テツたち以下数名は「従順組」ともいえた。


 「なんというか、いつもおまえはシケた面してるよな」


 「よくいわれるよ」


 苦笑いする。


 ポールは気の許した相手に敬語を使われるのが気持ち悪いらしく、少し前に「敬語は面倒だ」といって、テツにくだけた話し方で接するようにいい含めていた。この一件もあって、敬語を使わずに話しているテツの評価が「認められている」として道場生の間で高く見られる結果となる。


 「おい、シンシア。女たちつれてこいよ」


 「わかったわ」


 ポールはコンパニオンでも注文する調子でいった。事実、侍らすために呼びつけるのだから、あながち間違っているともいえない。


 気乗りしない顔でスープをすするテツは、今朝方狩った野鳥さんの冥福を祈りながら、とりとめもなく現実逃避に精を出す。団員の男たちは女を侍らすことをステータスと考えている節があって、現代に生きる草食系男子を自負するテツとしては、イデオロギーの対立を感じずにはいられなかった。


 もっとも、道場生の中には、彼らを真似してみようとする挑戦者もいないわけではなかったが、いち小間使い兼奴隷的立場の男子では、侍ってくれる女子がいなかった。


 「おまたせ」


 「やっほう、少年。お邪魔するよ」


 シンシアが連れてきたのは、ミコトをはじめとする女性3名。顔見知りの女子も見える。


 「わたしを指名してくれるとは嬉しいよ、テツ。この色男め」


 「食傷気味のこの顔を見てください」


 げんなりと返すと、ミコトは不満げに隣の女子の手を取って腰をおろす。ふたりに挟み込まれる形となったテツは、居心地悪そうに縮こまった。


 ポールはその様子を満足げに見ている。よもや、これを楽しむためにミコトを連れてきたのではないか、と邪推してしまう。


 「さあ、これを見ろよテツ。おれ様の秘蔵の品だぁ」


 もったいぶって差し出されたのは、香りからして林檎の果実酒だろう。てっきり、この世界の住人はワインしか飲まないものだと思っていたから、なかなか興味をそそられるものだった。とはいっても、酒の類に恋するには若すぎる彼である。あまりよろしくなかった反応に、拍子抜けしたポールは調子を崩した。


 「ふん、まだお子様かよ、ったく」


 「あはは……」


 シンシアがポールに果実酒の配をして、残りを受け取ったミコトがずい、と身体を寄せてくる。


 顔を赤くしたもうひとりの少女も、先輩に続け、といわんばかりに幅寄せを試みる。


 「……」


 とても居心地が悪い。ちょっと離れてよ、といったら、空気の読めない男として末代まで語り継がれることになろう。いくら大草原のトムソンガゼルを自称するテツであっても、目の前に異性がいれば、DNAを残そうと考えることはなくもない。ただ、普通の男よりも自制だとか理性だとかが占める割合が大きいだけである。


 ごく一部の学者先生いわく、それは「ヘタレ」なる属種らしいのだが、テツには全くもってわけがわからない。


 「どう? お姉さんの色香は。アソコたった?」


 「ええ、たちました。腹がたちました。ありがとうございますっ」


 ヤケクソ気味に、一気に酒をあおる。片方の女子は「あわわ」と剣幕に驚いてしまって、テツはバツの悪い顔で謝った。


 ミコトと一緒にいても見劣りしない女子だった。名前は確か、サツキといったか。ぽんやり、という擬音が似合いそうな雰囲気で、この殺伐とした世界には似つかわしくない人種だ。


 テツはこの可愛らしい女子にも、元の世界では敗北している。「やあ」という日曜の早朝に放送していそうな少女向けアニメキャラ声と共に繰り出される剣戟は、テツの身に恐怖をもって記憶させるだけの破壊力があった。


 だからというべきか、身体は自動的に防衛体制を取ってしまいそうになる。いけない、いけない、と意識して身体の力を抜く。


 「おまえさん方、仲がいいよな。もしかしてアレか?」


 鼻の下を伸ばしてたずねる男は見苦しい。「あー」と半目になって、


 「残念ながら違うよ。ミコト姉さんには別に男がいるし。でしょ?」


 「え、うん。まあ」


 歯切れ悪い調子でミコトは答えた。


 「でも、あの男連中の中にはいないんだろ?」


 キョウイチを含めた数人は、離れた位置で食事をとっている。幾人か、チラチラとこちらに興味を示しているのが見て取れた。


 「そうですね」


 遠い目をしているミコトを見て、テツは不憫に思った。両親に会えない、友達に会えない、恋人に会えない。そんな状況に彼女は置かれているのだ。


 異世界という概念さえ理解して貰えるとは思っていないので、出身地は包み隠さず「大和」とだけ話してあった。下手に嘘をついても悪い結果しか招きそうにない。ならば、真実であるがゆえに説明をつけられる事実を話した方が無難であろう。そうテツたちは決めたのだった。


 「ならさ、問題ないだろ。テツも出すもん出さなきゃスッキリしないだろうさ」


 ポールは、それが人類普遍の真理とでもいうように力説する。その相手だろうシンシアも、当然とばかりのしたり顔だ。というか、彼らはいつよろしくやっているのだろう。馬車の中は共用だし、いくらなんでも、みなの前でギシアンするわけにもいくまい。


 「まあ、無理にとはいわんがね。だがいつ死ぬとも知れない身の上だ。やりたいことやっておかなきゃ損だろうに」


 いいたいことはいった、とばかりにポールはシンシアとイチャつき始める。完全に蚊帳の外に置かれたテツは、ため息をついて身近なふたりに向き直るしかなかった。


 ポールの言葉はある意味真理ともいえた。こうして酒をわけてもらえる状況自体、奇跡のようなものだ。運が悪ければ、両断された男子と同じ運命を辿っていたかもしれないのだから。


 この世界には警察なんてものはいないし、最低限度の人間らしい生活を保証してくれる国家もない。人権を尊重してくれなければ、自由を保証してもくれない。


 大きな力に出会ってしまえば、それに蹂躙されるしかないのだ。ぼくらの命は、パンのひときれよりも安いのかもな、とテツは内心毒づく。


 「いつ死ぬんだろうな、ぼくは」


 「何いってんだか。どこか欝っぽいよね、テツは」


 「別にいいでしょ。誰にも迷惑はかけていませんし」


 世迷言をいうのは、きっと酒のせいだろう。ミコトの指摘にそう勝手に納得する。


 「もっと希望を持ちなさいよ。童貞のまま死ねるかっ、とかさ」


 「別に童貞のまま死んでも地獄に堕ちるわけじゃないでしょうに。それに、新兵のまま人生を終えるモテナイ種はいくらでもいますヨ」


 口をへの字に曲げて、


 「それにぼくは童貞じゃありません」


 「―――――嘘」


 「ええ嘘です」


 ゆらり、とミコトは無言で立ち上がった。訝しんで見上げると、表情が前髪に隠れてよく見えない。機動兵器の起動音よろしく「ヴォン」という効果音と共に両目が光った気がした。


 素早い動きでテツの背後に回ると、チョークスリーパーが音もなく決まる。


 「ぎ、ギブギブっ。苦し……あと、おっぱい当たってますっ、おっぱい」


 「当たり前でしょ! わたしはDカップよっ」


 横であわあわしていたサツキは、「わたしはCです」と補足情報を付け加えた。特に意味はない。


 「まじで苦し、おちる、おちちゃう」


 顔を真っ赤にして降参を主張するが、新選組嫌いの長州人みたいな勢いで白旗はなぎ倒される。


 「わたし、笑えない冗談は嫌いなのよね」


 「いつも、笑えない下ネタいうのは、どの口ですか……」


 なんやかんやで開放されたテツは貧欲に空気を求めた。有史以来、こんなうまそうに空気を吸ったのは、ぼく以外いないんじゃないか、と彼は思った。


 涙目になって抗議の視線を向ける。ミコトは鼻息を荒くしながら、同じように目を潤ませていた。派手に騒いでいるのは不安を紛らわかすためだろうか、少々空元気にも見て取れた。


 無理もない、とテツは思う。すでにこの集団と行動を共にして数週間になる。元の世界、と呼んでいいのかいまだに不明だが、元居た場所に帰る算段は全くついていない。


 ときおり与えられる情報は聞いたことのない地名のものだし、そもそも情報源は数人の団員や女たちでしかない。情報網がコミュニティの内部で完結してしまっているのだ。これでは外部の状況が掴めない。


 もっとも、それがテツたちの手綱を握るためであるのは予想できた。情報を与えないことによって、反抗しようと考えさせない。支配者の他に寄るべきものがいない状況を創り上げる。


 彼らからすれば、テツたちなど奴隷の価値以外ないようなものだ。それに対して、用心深すぎるほどの用意周到ぶりだ。団長の方針なのか、それともただの考え過ぎか。


 ミコトはしんみりと鼻をすすった。テツも、サツキも彼女の気持ちは痛いほど理解できていた。理不尽を感じつつも、どこにぶつければいいのかわからない。途方にくれる、とはまさにこのときのために用意された言葉だった。


 あれこれと、持ち得ている情報から推測するが、それが十中八九、役に立たないことは明白だった。いざというときに、考えすぎるやつはあっさりと死ぬ。その意味からすれば、あの団長に斬り殺された男の行動も馬鹿にはできないものがある。少なくとも、苦しまずに死ねたのは確かだろうから。


 「ねえ、陶片木」


 「いきなり悪意に満ちた名称にするのはやめて頂きたい」


 ぐす、ぐす、と鼻を鳴らしているミコトは、腫れぼったい目を向けてきた。


 「だって女の子が泣いちゃってるんだよ? そこは抱きしめて慰めてあげるのが筋ってもんでしょう」


 「それはまた」


 シンジラレナイ、と外国人風のイントネーションの感覚で、


 「求める相手が間違っているでしょう。それとも何ですか。ミコト姉さんは、少し参っただけで恋人を乗り換える人だったんですか」


 「違う」


 「違わなくないですよ。だって」


 「違うよ!」


 そう怒鳴ると、ミコトはどこかに行ってしまった。わけがわからない。困惑していると、サツキまでもが「きっと違うんですよ」といって、トテトテ逃げていってしまった。両手に花の状態から、一気に独身貴族にジョブチェンジしたテツを、ポールたちは気色悪い笑顔で見物している。他の離れて見ていた連中も同様だ。


 娯楽の少ない世界では、人間関係のもつれも格好の飯の種だ。いろいろと、あることないこと噂されるに違いない。頭が痛くなりそうだった。


 「おい、おまえ」


 頭を抱えていると、目の前に大きな影ができているのに気づいた。顔を上げると、団のナンバー2、副団長ガヴァンが仁王立ちしていた。慌ててテツは姿勢を正す。基本、団員メンバーには逆らってはいけない。不文律ながら、道場生たちの間で守られている決まりごとだ。


 「なんでしょうか」


 「おまえは剣術をかじったことがあるそうだな」


 確かに、そうもらしたことがある。それに、元々テツたちは各々が帯剣していたところを捕らえられたわけだから、ガヴァンにしても事実確認する意味合いでたずねたのだろう。


 狩りをするときに用いるのは、もっぱら弓矢だ。広く武芸に手を出していたこともあって、テツは人並みではあるが弓を扱える。さすがに、動いている野生動物を射るような腕前はないが。


 「近々、戦がある」


 「……そうでしたか」


 ポールが生き死にの話をしたのも、こういった訳があったのか。納得して頷く。


 「団長とも話し合ったのだが、その戦におまえたちの中から数名、使うことになった」


 ガヴァンは神経質そうな顔をしている。身体も、どちらかといえば細身だし、目元もつり上がっていてきつい。年齢は30前後に思えた。話し方も抑揚を欠いているが、このときばかりは不満げな様子が伝わってきた。


 「すでに決まっているのは、おまえ」


 それから、あの男、とキョウイチを差していう。その当人は引きつった顔で、向けられた指を閻魔大王の笏でも見るかのように凝視している。おそらく自分も同じような顔をしているんだろうな、とテツは思った。


 「我がセブンス傭兵団はエメロス伯爵側につく。近く出立するので」


 ガヴァンの顔には呆れた様子があった。団長に逆らえないのは彼も同様らしく、この采配を決めたのはどうやらあの大男らしい。


 「残り2名を選出して参加させるように。これは決定事項である。意義は認めない」


 「戦に紛れて逃げるとは考えないので?」


 ふん、と見下した目でテツを見据える。


 「残った者は人質だ。それくらい貴様も理解しているだろう」


 「人質が人質たる真価を発揮するには、前提条件が必要ですが」


 「貴様には人質を取る効果がないとでも?」


 「……仮定の話です。あくまでも」


 なるほど、とガヴァンは少し見直した様子だった。ごみ山の中から、まだ使える品を見付け出したように、


 「責任は連帯して取らせる。それが方針だ。だが曲りなりとも戦果をあげられたのなら、わたしとしても、評価しない訳にもいかない」


 「あくまで、逃亡せずに、戦果をあげられたら、の話ですか」


 「ああ、仮定の話だ」


 戦に参加させるだけ参加させて、何も褒美をもらえない事態は回避できそうだった。拒否すれば殺されそうだが、参加したところでメリットがなければ戦などしない。戦場に出れば、傭兵団員に殺される前に死ぬことなど容易なのだから。


 用事を済ますと、ガヴァンは幽鬼のような足取りで去っていった。この傭兵団には化物のような雰囲気の団長と副団長がいるのである。きっと本当の団名は「幽霊兵団」とかいうに違いない。


 「下手すれば、ぼくもお化けの仲間入りか」


 この世界の宗教に、幽霊なんて概念があるかどうかは知らないけれど。


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