あとがき
あとがき
超長編の物語が自分はあまり得意ではありません。読むことも、書くこともです。かといって短編では尺が足りない。この「異世界で能力者は踊れない」は、だらだら展開をばっさりなくしたスマートな話を心がけたのですが、あまりうまくいきませんでした。
読者の方々の中には気づいた方も居らっしゃったかもしれません。この物語には必要不可欠である「強大な敵」がいないことに。ファンタジーにおいては、それは「魔王」であったり「敵対国家」であったりします。
終始立ちはだかっていた団長に対しては、物質面では超えられなかったものの、精神的要素で打ち勝ったという結末なので、ラスボス的な存在である「強大な敵」とはちょっと異なります。
さて、必要要素が欠けていたのは物語の終末を、「テツのセブンス傭兵団入り」で閉めようとしていたからであるわけですが、そのせいでいまいち起承転結の「転」が弱かったといわざるを得ません。「転」の部分はキョウイチたちの脱走に当たります。
改めて読み直してみても、感じるのは脱走計画に至るまでの薄弱さでしょうか。ショッキングな事件(略奪加担)があった→脱走だ! という流れの中で、脱走計画が当人たちの手ではなく、外部によってもたらされたものであることがその一因であるのかな、と鑑みて思いました。
当初は文庫本一冊ぶんの分量で終わらそうと考えていたものが、いまの大きさに膨らんでしまって、力量不足を痛感しています。戦闘イベントの後に日常パートを入れる構造にすると、どうしても分量が増えてしまいました。かといって日常パートを削ると、キャラが立つ前に話が進んでしまって納得できない……そんな歯がゆさに悩まされました。構成の難しさを再認識させられる結果でした。
物語に必要なシーンだけを入れるって難しいのですね。世界観の説明も入れようかな、とも考えたものの、ただのネタ披露になってしまうし、物語には全く関係してこないのでカットしました。おかげで広げた風呂敷が畳めていない部分もありますが、それもまた自分の力量不足ということなのです。
話の骨格は、「テツとミコトの悲愛物語」。そこに戦闘をスパイスとして効かせたつもりです。
能力者たちが弱体化し無能力者が頭角を現すというアイディアは、それなりに昔からあったのですが、自分は戦闘モノを書いた経験がないし、最後まで書ききれるのかという不安もあってアイディア止まりでした。
それが、様々な戦争小説やファンタジー映画を見て、大作とはいかなくても、戦闘の中で変わっていく人間や関係を書きたいなあ、という漠然とした想いが湧き上がりました。
結果として書き上げた「異世界で能力者は踊れない」は、異世界転移から望まぬ殺人、そしてテツが傭兵団に迎い入れられるまでを描こうと思っていたので、何とか目標としていたストーリーを書ききることができました。
一番迷ったのは、キョウイチたちの脱走の成否を描くかどうか。ミコトを犠牲にして逃げ切るのか、それとも途中で失敗して無様に命を散らすのか。シーンを入れる場所に困るし、とても蛇足的になってしまうので彼らの結末は書きませんでした。
自分は週刊連載といった間隔を開けての執筆しながらの更新は、とても無理だという自覚があったので、本作は書ききってから、修正しつつの発表となっています。執筆途中で何度か挫折しそうになりましたが、こうして皆様に読んでいただけることになったのは、とても喜ばしく思います。
登場人物は、執筆しているうちにいろいろと愛着をもつに至りました。スイは自己中心的ですが、そうでなければ生き残れなかったでしょうし、キョウイチはテツを潜在意識で恐れていましたが、そうでなければ尊敬もせず友達にもならなかったでしょう。アリアはアリアで、テツを盲信することも全肯定することもないですが、そうでない心優しいだけの少女であったら、他の捕まった村人と共に売られていたでしょう。ミコトは優柔不断で勇気やバッサリ感が足りないですが、そうでなければテツを最初から恋人にし、テツはテツで、ただの無能力者として劣等感まみれの人生を送るだけだったでしょう。
そして、ひねくれテツがまっすぐの好青年だったならば、そもそも剣術を辞めていたことでしょう。ひねてない誠実な人間は、あの世界では違う道で立志しようとしますからね。
何がいいたいのかといえば、みんながひん曲がっていたからこそ、絡み合ってストーリーが出来上がっていたのだなあ、ということです。自分自身、もう少しまっすぐなキャラにしてもいいかなあ、とは思うことがしばしばだったものの、そうすると先の展開が作れなくなるのです。なので、これはこれで珍味的な味があっていいのかもしれないと思うようにしました。
さて、読者の皆様方からいただいた感想やご指摘は、非常にありがたいものでした。物語の良い点、悪い点、両方からのご指摘は、次回への改善点を探る上で非常に有意義なものとなりました。
まず「能力がわかりづらい」「元の世界がわかりづらい」という点。これは自分の構想力不足からくるものでした。遠見テツと能力者たちの差別化をはかる点で「気」という概念があったのですが、自分はそれを差別化のためのアクセサリー程度にしか認識しておらず、それが作中にて露呈する結果となってしまいました。
ファンタジーである以上、世界観、特殊能力は練りに練らねばならない部分だというのに、おざなりにしてしまったのは大きなミスでした。
また、異世界に転移した以上、元の世界の描写は回想など必要最低限にしようとした結果、描写不足として相成ったのは痛恨の極みです。こちらも前者と似たような理由が根っこにあるので、重要な反省点でありました。
次に「道場生の残りが生かしきれていない」という点。男子道場生たちは役割を果たした(?)のではありますが、女子道場生は、ミコト、スイ、サツキ+αみたいな結果になってしまいました。
名前さえ出なかった残りのお二人様の出番のなさは、キャラが薄いどころの話ではありません。人数配分を誤ったということです。これも反省点でした。
以上、このように至らぬ点は、挙げれば枚挙に暇がないほどです。その一方で、お褒めの言葉もたくさん頂きました。また、トッティー様、在形 直様の両名には、レビューも書いていただきました。皆様方の感想、ご指摘に対して、この場でお礼を申し上げます。
異世界で能力者は踊れない―――――けれども無能力者は踊り続ける。
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。