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第30話

 遠見テツが目を覚ましたのは、模擬戦の次の日だった。一日はすでに終わりの準備を始めており、半開きにされた戸は西日に照らされている。空気に蓄えられていた熱が少しずつ失われていって、清々しいほどの麗清さを帯びてくる時間帯。


 閉じられていた瞼が開かれるのをミコトは確認する。彼女の姿を認めたあと、辺りを探るように視線を走らせたテツは、「ここは?」と少ししゃがれた声でたずねた。本人は予想外の声を発したことに気づいて目をしばたかせている。


 木製のテーブルに置かれていたグラスから水を注ぎ、ミコトはコップをテツに手渡した。水面に映る自分の顔をしばらくの間眺めていた彼は、最高の酒でも味わうかのように水を口に含んだ。


 彼らがいるのは城の一角に設けられた部屋である。怪我人を一時的に収容する部屋だと告げると、テツは納得して頷いた。負傷した顔の右側面が手当てされているので、ここがどこか予想がついたのだろう。


 「丸一日眠っていたのよ」


 「どうりで寝起きが爽快なはずです」


 テツは少しも晴ればれとしていない表情で皮肉をいった。顔色はあまりよくない。身体の中の、何か大切なものを燃焼させていたような疲労感が現れている。それはきっと命のやり取りによって消耗されてしまったのだ。


 ミコトは彼の負担にならないよう、気遣いながら状況を説明した。あのあと倒れたテツは手当てするために運び出され、傭兵団は城に世話になっている。最後の試合が効いたようで、尾ひれどころか背びれがついた噂は城内を、領内を闊歩しているらしい。その大部分に共通しているのが、「城の隊長が傭兵団長に敗れた」「それらに劣らない少年剣士がいる」ということだった。


 「少年……」


 「まあ、ここの人たちから見れば、あたしたちはみんな幼く見えるらしいし」


 複雑な顔をするテツをフォローする。ミコトは弟分の微妙な思春期真っ盛りの心境を慮った。少年とも青年とも取れない半端な年代の男の子だ。実の弟も扱い慣れているとはいえないし、少々彼女の手には余る問題である。


 「これ以上変な噂が広まらなきゃいいけど」


 「娯楽が少ないせいか、噂話大好きだもんね、この世界の人たちは」


 傭兵団というごく狭いコミニュティの中でさえ、誰と誰が親密にしていたとか、険悪になったという話が話題になる。田舎の井戸端会議をさらに強力にしたようなものかもしれなかった。


 やれやれ、とかぶりを振ったテツは、再びベッドの抱擁を受け入れた。右腕で顔の半面を覆って沈黙する。


 「どうしたの?」


 ミコトは心配になってたずねた。


 「いや、もう少し粘れたんじゃないかって」


 「え?」


 「少し調子に乗り過ぎたのかもしれません。フェイクを利用した攻撃は団長の十八番だったはずなんです。それに思い立ってながら、わざわざ罠にはまりにいくなんて。馬鹿な真似をしたもんです」


 肉食獣のような眼光を目の当たりにしてミコトは言葉を失った。目を覚ましたばかりだというのに、テツは昨日の試合を省みている。まるでそれしか興味のないように。


 そしていまになって気づく。顔つきの険しさが抜けきっていないのだ。これまでならば、剣を手放せば戻っていた表情が、こびり付いて離れていない。本人はそんなことに一切関心を払わずに、ブツブツと反省点や改善点を述べている。


 「て、テツ。目が覚めたばかりなんだから、少しは休むことに集中しないと駄目だよ」


 「目に焼き付いているうちに剣を振りたいんですよ。あの感覚を覚えているうちにモノにしたい。姉さんだってわかるでしょう? 貴重な経験っていうのは、再び味わえるものじゃないってこと」


 「それは、そうだけど……」


 ともすれば剣を振りにいく、とでもいい出しそうな雰囲気だった。もしそんな妄言をいうようならば、ベッドに張り付けてでも休ませるつもりだった。


 ミコトの決意を読み取ったのか、それ以上話題を蒸し返すことはしなかった。それでも、テツの目付きは戻らないままだ。心なしか、瞳の色が淀んでいるように感じられた。


 なんてことだ、とミコトは暗闇に突き落とされた錯覚に陥った。あの団長との死闘は遠見テツをさらに歪めさせてしまったのだ。剣の魔力に囚われてしまったのだ。危ういところで持ちこたえていたテツの立ち位置を一気に向こう側へ連れ去ってしまった。


 おかしいと思っていたのだ。城の謁見にキョウイチとテツを連れたって行ったときから。間違いなくこれは団長がはかったことだった。キョウイチも、ガーティも傭兵団のみなも利用されたのだ。


 遠見テツを剣の道に引きずり込むという目的のために。この弟分の何をもって狙いを定めたのか、いまならばおぼろげにわかる。きっと団長は遠見テツに自らを見たのだ。性格や剣術ではない。


 貪欲さだ。剣に対する貪欲さだ。


 団長とテツが剣を合わせているとき、まるで同じ気配が戦っているようだった。団長は悠々としていたが、テツの方は得体の知れぬ激情に駆られているようだった。それはきっと同族憎悪に似た感情だったのかもしれない。


 こんなのは、いけない。


 そう確信はできても、ミコトに彼をどうすることなんてできそうになかった。身体を差し出したとしても彼は拒む。きっと愛を告げたとしても。


 ぐ、と歯を軋ませる。テツのことは誰よりも心配だった。そして好意を持っていた。けれどもそれは、状況を好転させる材料にはならないのだ。遠見テツは、「愛」では動かない。変わらない。変えられない。


 ならば―――――残された方法は限られる。


 「ともかくさ、早く体調を戻しなよ。お城のみながテツに会いたがっていたよ」


 「げ」


 「そんな嫌な顔をするんじゃないよ。ガーティ様も偉く感心していたわ。『あのような若者がいるとはな……!』とかいっててね」


 「この通り、ぼくはメタメタに叩きのめされたんですよ? 何で持ち上げられなきゃならないんですか」


 理解できない、とテツは首を振った。


 「そりゃあ、あの団長と五分、じゃないな。三分くらいの戦いをしたからよ。傭兵団員だって、まともにやり合えるのは副団長くらいらしいわよ。あのクリスティナまで見舞いに来るんだから、傭兵団員の株式会社テツの株はうなぎ登りなわけ」


 「すぐに暴落しそうですけどね……」


 みんなの前で裸踊りでもすれば暴落するかな、と真剣な表情で検討する彼を「お願いだから早まらないで」と落ち着かせる。どうしてこの子は他人の賞賛を素直に受け取れないかな、と何度目になるかも知れない不満を思う。昔から褒められても嬉しそうにしない男の子だった。彼くらいの年齢ならば、異性はもちろん、同性にだって褒められても調子に乗るはずなのに。


 その彼が満面の笑みで嬉しそうにしたことなんて、と。そう記憶の海を探って気づく。何か大切な記憶だ。喉に小骨が刺さったような気分になった。彼女にとって、大切な記憶だったはずなのだ。


 「どうかしましたか?」


 「あー、ううん。なんでもない」


 釈然としないまでも、思い出せない記憶にずっと患っているわけにはいかない。ミコトは気を取り直してテツの横たわるベッドに腰掛ける。ギシ、と彼らを支える木製の脚の声が聞こえた。


 「壊れないですかね」


 「そういうこといわないっ」


 テツの腹にグーパンを叩き込む。彼は「ぐほ」とむせて、恨みがましい目をミコトに向けた。


 「ぼくは怪我人ですよ?」


 「わたしは女の子ですよ」


 白けた顔になった男を目からビームを出して威嚇した。恐れをなしたその男は、慌てて首を壊れそうなくらい上下させた。


 「どうしてそんなに歳を気にするんですか。ぼくと大して離れてないのに」


 「テツはわかってない。わかってないのよっ。二十歳を超えてからの1年は2倍にも3倍にもなるんだからねっ」


 「なんという格差社会……」


 「高校生にとってひとつ上ってだけで全然別世界の人間じゃないの。ましてや5歳年上なんて。あんたたち、わたしのこと年増だとかオバサンだとかいってるに違いないわ。影で。きっと!」


 「偉い被害妄想です」


 バシバシとテツの太ももを叩きながら22歳のお姉さんは慟哭している。彼女にとって、年齢の問題は消費税問題の次に重要かもしれなかった。


 一通り鬱憤を晴らすと、


 「少し寄って」


 「ちょ、狭いですって」


 もそもそと這い上がってテツのベッドの半分を占領する。転げ落ちないよう気を付けながら振り返ると、困った顔の弟分がいた。こうして近距離から見ると、特徴のない顔だなあ、と苦笑せずにはいられない。変わってしまった雰囲気のせいで、少しワイルドになったのは幸か不幸か。


 「ベッドから落ちるな生き残りゲーム」


 「やりませんっ」


 「なんだよ、意気地のないなあ。チン○ついてるのか?」


 「ええ。幸いなことに、先の戦いで斬り落とされることはありませんでしたよ」


 呆れた表情でいって、それからテツは黙り込んだ。


 真剣な眼差しにドギマギする。ミコトは内心を悟られないか心配でならなかった。動揺し過ぎて、さらにきわどいエッチトークを放とうという瞬間、彼は故郷の両親でも懐古しているかのように呟いた。


 「なんか久しぶりに聞いた気がしますよ、姉さんの下ネタ」


 「そのネタを懐かしまれても複雑なんだけど……」


 ミコトは子供が生まれてから、その子の前で若き日の黒歴史を親に暴露された気分になった。


 「いま思えば、こんな風に馬鹿なことをいってられる時間がとても貴重なんだなって」


 視線を真上にしたテツは、灰色の天井に何かを探していた。きっと壁を突き抜けて、成層圏の向こうまで行っても探しものは見つからないに違いない。すでに失われた風景を彼は探していた。


 そんな彼の横顔を見つめ、「そうだね」と消え去りそうな小声で答える。ミコト自身、元いた世界でのものと、この世界でのものとでは、冗談にしても使い方や状況は異なっていた。どこまでも落ちそうになる不安を振り払おうと、空元気のつもりで彼女は冗談を口にする。


 「エッチトークは嫌い?」


 「ミコト姉さんのは、どちらかといえばエロ親父的な臭いがするんですよね」


 危うく「ガビーン」と口に出しそうになった。それは古いぞ、と自重しなければ絶対に口走っていた。それほどショックだった。恐る恐るミコトはテツにたずねる。


 「もしかして、そのせいでお姉ちゃんへの好感度ガタ落ち?」


 「そんなことないですよ。むしろ安心するっていうか、ミコト姉さんの下ネタに突っ込まないと調子が出ないっていうか。とにかく、好感度には影響しないので安心してください」


 「まことに?」


 「なんで時代劇口調……。まことですよ。まこと」


 それはよかった、と半分起き上がっていた身体の力を抜く。空気で布のめくり上がる音がした。ミコトは穏やかな気分で薄暗くなってきた部屋の天井を見つめた。


 どこからか鈴を鳴らしたような音が聞こえてくる。この世界にも鈴虫はいるのだろうか、と彼女は疑問に思った。


 鑑みれば、不思議なことだらけだった。違う世界なのに通じる言語。単語。自分たちと明らかに容姿が違うのに追求してこない周囲の人間。様々な人種が入り交じった社会形態。


 でもちっぽけな自分には関係ないか、と思考を切り止める。自分の身の回りのことだけで精一杯なのだ。世界とか社会とか、そういったスケールの話は適役な人間に任せておけばいい。


 思い切ってテツの手を握ってみた。拒否されないことを確認すると、より強く彼の手の感触を確かめる。ゴツゴツしているけど優しい。そしてあたたかい。それが失われようとしているなんて到底思えなかった。けれど彼の手は、自発的にミコトの手を握りしめてくれることは未来永劫ないのだ。


 それが悲しくて、悔しい。どうしようもなく。


 「静かだね」


 「うん」


 「眠くなってきた?」


 少し遅れて「うん」と辛うじて返事される。まだ疲労が抜け切ってないテツには、この薄暗い空気が心地いいらしい。ゆっくりと睡魔に身を委ねようとしていた。


 近くから愛おしげに彼を一撫ですると、静かにミコトは立ち上がった。それから堪えきれない欲求が彼女を襲ってきた。その感情に抵抗するために二度三度と頭を振る。早く退散した方がいいと自覚した彼女は、最後にテツの寝姿を目に焼き付けて部屋を出た。


 扉を閉めて目を横にやると、見慣れた人物と鉢合わせする。他でもない我が弟である。当然のように付属しているフードのふたりもいた。


 キョウイチは姉の姿を認めると歯切れの悪い笑みを浮かべた。あの団長との模擬戦以来元気をなくしていたのだが、いまだに引きずっているようだ。スイと一緒に元気づけようと苦戦した結果は著しくない。


 テツの眠っている部屋の前で何かを考え込んでいる。キョウイチは扉に手をかけようとはしなかった。


 「テツは?」


 「一度目を覚ましたけど、また眠っちゃったわ。疲れてるみたい」


 キョウイチは、さもあらんという顔をした。彼自身、模擬戦の日はそれから起き上がれなかった。いままで経験した中で一番疲弊した模擬戦だといえる。なぜならそれは、模擬戦という名の死合だったからだ。


 「他のみんなはどうしてるの?」


 ミコトがテツの部屋を訪れる前、盛大に酒盛りしていたのを思い出す。ガーティのきもいりで行われているその酒宴は、贅沢の限りを尽くして行われた。シンシアをはじめとした傭兵団の女たちは喜色満面でご馳走に群がり、男たちは少し引き気味だった。


 それも無理はなく、普通裏方の女たちが城に招かれるようなことはない。初めて体験する城での出来事は、夢の中みたいに思えることだろう。


 「さすがに勢いを弱めたけどね。まだ続いてるよ」


 逃げ出すついでにテツを見舞いに来たんだけど、とキョウイチは言葉を濁した。


 「眠ったなら仕方ないな。アイツは頑丈だから、ちょっとやそっとじゃ怪我の内にも入らないだろうし」


 苦笑して彼がいうと、スイも同じような顔をして同意した。幼なじみは共通してテツの頑丈さに造詣が深いらしい。


 ミコトもその点については賛同できる。身体のタフネスさでいえば、知っている人間ではトップクラスであるのだ、遠見テツという人間は。無能力というハンデを持ってして剣を振り続けられたのは、この長所によるところが大きい。


 「それにしても」


 腑に落ちないと暗喩の意味合いを込めてフードを仰ぎ見る。


 「あんたたちまで見舞いに来るとは意外だったわ」


 「それは誤解というものです。わたくしたちはお見舞いに来たのではなく、キョウイチ様に付いてきただけですので」


 「なるほどね。そうですね。そうだと思いましたよ」


 恒例ともいえる仲の悪さを遺憾なく発揮するふたり。キョウイチは胃の痛そうな顔をしている。


 ティアは扉の向こうにいる人物を推し量るような目を向けた。


 「あの男……失礼ですが、ミコト様よりも腕が立つのでは?」


 「―――――そう、かもね。もしかしたら、わたしたちの中で一番強いかもしれない。ううん、きっとそうよ」


 キョウイチは目を伏せた。スイはどこか遠くでも見ているような目だった。三者三様に思いがあった。それは能力者ゆえの煩いともいえる。剣術を志してきた人間にとって、「強さ」というものは、非常にわかりやすいパラメーターなのだ。それが突然狂った影響は小さくない。


 常に先頭を走ってきた弟には激痛だっただろうな、とミコトは思った。同じ草切姓としてわからないこともない。けれど元来、彼女は人との優劣にそれほど執着しない性格だった。競争心がないともいえる。剣士にとってそれは欠点であるらしく、彼女が草切の当主には相応しくないとされた要因でもある。


 キョウイチもその傾向はあったものの、気づいた頃には負けず嫌いの少年に育っていた。昔はなんというか、もっと淡白だった気がするんだけど、とミコトは思い返す。


 「ですがあの剣は邪道です」


 「なんですって?」


 「ミコト様もご覧になったでしょう。あの禍々しい形相を。そして恐ろしいまでの虚無感を。まるで自分の命など興味のないように剣を振っていたではありませんか。それを邪道といわずして何というのです」


 反論したいことは山ほどあった。それでも、この少女に何をいったところで通じることはないのだろう。遠見テツを知らない人間の多くが彼女のような考えに至っても不思議ではない。特に、剣を握ったことのない人間は異口同音に辛辣な感想を述べるはずだ。


 この城の浮かれた空気は特殊なものだった。それは相手が団長だったこともあり、事前にキョウイチが負けていたことがある。それによってテツはヒーローに祀り上げられているのだ。


 ふと、この喧騒の影に団長の気配を感じた気がした。ミコトは目をつむって下手な憶測を追い出す。一度疑心暗鬼になると思考が固まっていけない。


 「ティア。その話をしにきたわけじゃないだろ」


 「う……その通りです。申し訳ありません」


 キョウイチに窘められたティアはしょんぼりと肩を落とした。


 「ゴホン。ミコト様にお話ししたかったのは他でもありません。例の件についてです」


 辺りに人影のないことを確かめ、彼女は説明する。


 「幸運なことに、いま城は浮き足立っていて警備にも穴ができています。これは絶好の機会といえます。さらにいえば、ダグラスから準備が整った旨の連絡がありました。我々が行動に移せば、すぐにでも対応してくれるそうです」


 「なんともタイミングのいいことね」


 聞く限りでは不安要素もなく僥倖と評価できる話だった。ティアのいう通り、行動に移すなら、このときをもって他にはありえない。反対する要素が見つけられないミコトは、賛成しか口にできないと悟った。


 「けれど大丈夫なの? 確実に追っ手はかかるだろうし、手引きしてくれるのは、城から出ることと脱走先の確保だけでしょ? ということはつまり」


 「合流場所に辿り着くまでは、我々が自力でこなさなければならない、ということになりますね」


 それがどうしたのか、といわんばかりの表情を見て、ミコトは逆に不安に駆られた。彼女が懸念しているのは脱走手段でも脱走先の事情でもなく、「団員に気づかれずに脱走できるか」だった。


 見つかれば戦闘になるわけだが、キョウイチ、スイと違ってお嬢様方は守ってやらねばならない。戦力は確実に削られ、それどころか足手まといになる可能性が高い。守りながら戦うことの困難さを説いてやろうか、とミコトは歯噛みした。


 「簡単な計画だとはいいません。我々にできることは少しでも自力でなさなければならないのです。危険は承知の上だということをミコト様にもご理解して頂ければ」


 「そうだね。無粋な横口だった。臨機応変に対応する他にないってのに」


 ミコトが詫びると、少女は「いいえ」と大げさに否定した。決してミコトの懸念が正しくないわけではなく、どちらかといえばどうしようもない問題なのだと述べる。ある意味で割りきって考えなくてはならない問題なのだ。


 その口調は弁解するものでなかった。ミコトはそれに満足して少女の計画に乗っかる最後の決心をした。もう後戻りはできないぞ、と自らに確認を取る。身体のどの位置からも反対されないことを確かめて、彼女は顔を上げた。


 「決行は?」


 「明後日の晩です」


 ティアは緊張した面持ちで宣言した。それを聞いて内心安堵する。よかった、わたしにはまだ時間が残されてるみたいだ、とミコトは胸をなで下ろした。


 明日は長くて短い日になりそうだった。


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