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第五話 お約束な展開は殆どがマジ勘弁だよね?

 お約束の展開というものに、着替え中に鉢合わせして主人公が痛い目、まぁ、頬に紅葉マークとかをされるシーンがよくある。見てる視聴者としては「サービスシーンキター!」とか感想トピで叫び、画像がネット上でアップされるのは日常茶飯事の光景だ。

 まあ、アキバ系を自負する俺には、それについては文句を言うつもりもないし、共感出来る所も多々ある。

 ただ、言いたい事がひとつだけあるのだが、見てしまった男子が百パーセント悪いと謝るのはいかがなものかと思う。

 女の子も、着替えるなら所定の場所、もしくは見られないだけの万全を期して欲しい。更衣室に行くとか、鍵をかけるとか。

 やれ、「直ぐに済むし、誰もこないよね」などという安易な考えで軽はずみ事は避けるべきだと声を大にして言ってやりたい。

 そんな、「ここなら大丈夫」などと言う勝手な判断と不注意で悪人にされるのは傍迷惑だと、主人公に代わって代弁してやりたい。

 つまり、何が言いたいのかと言うと、そんな状況にリアルに遭遇するとか勘弁して欲しいって事だ。

 「バイオリンなんか(中略)事件」の後、下がった評判を中の下(触れなければ何もしない)程度までは戻そうと、放課後、担任教師の頼みで、授業で使った資料を図書準備室に戻してくれとに来た訳だが、ドアを開けた瞬間、目に入ったのが下着姿の近江先輩ってどういう事よ?

 脱いだ直後なのか、着ていたであろうブラウスを右腕に引っかけたまま、こっちを見たままで固まってしまっている。そりゃ、まぁ、そうなるよね。事故とはいえ、着替え中に人が入ってくるのは想定外だろうし。

 いや、まぁ、しかして近江先輩、なかなかのスタイルしてるなぁ。メリハリのついた体型から生まれた流れるような曲線美、シミひとつない肌に、ブランドは知らないがパステルピンクの落ち着いた下着、うわ、上には谷間、下は紐パンかよ。破壊力半端ないなぁ。いやぁ眼福眼福。

「藤崎君……」

 現実逃避に陥っていると、近江先輩は持っていたブラウスで前を隠し、にこりと此方を見てきた。満面の笑顔で。

 そう、満面の笑顔でだ。

 何故だろう。笑顔なのに物凄い圧力がある。

 次に来るのはなんだと予想してみる。

 一、いつまで見てるのよ!(ラノベ系主人公お約束の紅葉マークのフラグ)

 痛いのは勘弁だなぁ……

 二、電話を取り出して「お巡りさんちょっといいですか?」

 社会的に痛いのも勘弁だなぁ……

 三、「練りに練り上げたこの身体、存分に見てくれて構わないわ」

 ないわぁ……、これはないわ……

 痛いのは勘弁な一、もっと不味い社会的に終わる二、大穴の三……、いや、三は来たら全力で逃走するよ。痴女相手に据え膳よろしくってそれはエロゲのなかだけで充分だって……

 あれ、これってどれ選んでも最悪な未来しか見えなくない?

「藤崎君、聞こえてる?」

「は、はい!」

 どうしようと脳細胞を高速回転する事、十数秒、二度目の問い掛けに、打つ手が見つからず、咄嗟に身構える。

「とりあえず、後ろのドアを閉めてくれる?」

「あ、あぁ、それじゃこれ置いて、さっさと退散しますね」

「じゃあ、それを置いてから後ろを向いてドアを閉めてくれる?」

「ですから、これを置いたら」

「待っててくれるわよね?」

 有無を言わさぬ口調で逃げ道を塞がれる。首をこてんと傾げる仕草に恐怖を感じるのは生まれて初めての経験だ。

 大人しく近江先輩の言葉に従い、抱えていた資料を壁側の空いた場所に置いてから入口の引き戸を引くと、着替えを再開したのか衣擦れの音が耳に入ってくる。

「もういいわよ」

「そうですか」

 平静を装いながら振り向いて、恐る恐ると振り向くと、ジャージ姿に着替え終えた近江先輩が目に入る。

「何か言う事はあるかしら?」

 腕を組んで先ほどから浮かべたままの笑顔での問いに、内心、冷や汗をかきつつ、脳細胞を高速回転させて対策を練る。先手を取られたが、まだ挽回可能の筈だ。さっさと謝って退散。ほとぼりが冷めるまでオアシス(図書館)寄り道を避けるに持っていかないと。

「あぁ、すいません。大変素晴らしいモノを見せていただいて」

 だからこそ、謝罪と礼を言って開き直るという荒業に踏み切る。

 軽く下げた頭をあげると、近江先輩は一瞬の空白を置いて呆気に取られた顔になった。予想の範囲を大きく越えた態度が、そうさせたようだが、それも一拍、平静を戻したようで、表情を元に戻してきた。

「成程、反省の意志は無いって事かしら?」

「勿論、申し訳ない気持ちもありますが、男子禁制の女子更衣室なら兎も角、誰もこないだろうとたかを括り鍵も掛けずに、着替えに及んだ近江先輩にも過失はあったのではないかと思いますがねえ」

「……ッ」

 思うところがあったのか、近江先輩は左の目許を僅かに歪ませる。内心、痛いところを突かれたと思ってくれてれば御の字だ。

 ばつが悪いのを誤魔化すように腕を組み、視線を外した姿に小さくガッツポーズする。

「……一発位、ひっぱたいておけばよかったわかしら」

「あぁ、やるならどうぞ。全力で避けますよ」

「そこは、敢えて受けるべきとは考えないの?」

「冗談。そういうのは愚弟相手にどうぞ。あれになら顔の形変わるまで殴ってもらっても結構ですから」

「あなたねぇ……」

 非難の視線と言葉に、肩を竦めて返す。

 留学前、あの愚弟は家に泊まりに来ていた妾要員相手に何回もあったからな。最も、妾要員がわざとやっていた節もあったようで、悲鳴を挙げて、据え膳狙ってたらしいけど、そこは純粋培養の愚弟、涙ながらに謝り、むしろ相手の罪悪感を煽る事になって謝り返す茶番劇が繰り広げられてたけど。

 泣いて喚くし、煩いって文句を言ったら「裸を見られた彼女達の事を可哀想に思わないのか」と逆ギレされ、こっちを悪者扱いされるっておかしいだろ。

 親も止めろよって考えたけど、高校上がる前の男子の家に女子が複数で泊まりに来る事を止めなかった時点でこの親にしてこの子だなと、肉親ながらいい人生の勉強になったと諦めたからな。

「ま、まぁいいわ。確かに鍵を掛けなかった私にも問題があったのは間違いないから」

 視線を反らして出た言葉に、相手が非を認めた事に内心でガッツポーズをする。

「そうですか。では、今後は私も気を付けますので、先輩も頼みますよ」

 後は撤退だ。事故の後の和解はさっさと済ませて退散する。これ以上の関係悪化はオアシスを失いかねないからね。

 回れ右をして、ドアに手を掛けようとしたところで「ちょっと待って」と近江先輩から止められる。

「な、なんでしょうか?」

 撤退成功直前の呼び掛けに恐る恐る振り向く。

「確かに見られた事はもういいけど、見たものについてはまだ許してないんだけど」

「見たもの……あぁ、ちゃんと礼を言ったつもりですがね。大変素晴らしいモノをって」

「えぇ、立派なものだったでしょ?」

「えぇ、確かに」

 無難に答えて出方を伺うと、近江先輩は不敵に笑みを浮かべる。

「立派なものを見たんなら閲覧料は取られても可笑しくないわよね?」

 そう来たか、と心中で息を漏らす。

「私の格好見て何か気付かない?」

「え~っと……」

 俺に見せるように、両手をジャージ姿をアピールしてくる。

「人気のない部屋でエロゲ的な何かでもするつもりですか?」

「今すぐ押し倒されて襲われるのがお望み?」

「冗談ですよ。何やるつもりですか?」

「……」

 切り替えの早さに、近江先輩が何かを考え込むように黙り込んだ。生憎、据え膳よろしく等というそんな展開はお断りだ。そういうものは愚弟にやらせとけ。

「……ちょっと力仕事を頼まれてるんだけど手伝ってくれないかしら?」

 十数秒の沈黙の後のお願いに、まぁ、代償がビンタでなければよいかと、「分かりました」と答えた。

 

 


 


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