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第4話

 こうして、元の場面に戻る訳だが、俺は未だに状況がのみこめていなかった。

 とりあえず状況を整理してみよう。目の前には同様に事態に付いていけずに間の抜けた顔をしている不良三人組(ある意味レアな光景だ)、後ろ……というか俺に寄り添い、肩に手を置いて、不良から身を隠す女の子、そして、折角へし折ったと思っていたフラグを無理やり立てさせられ、挙句、「見ず知らずの女の子の彼氏にさせられる」という厄介事に巻き込まれたかわいそうな俺、どんな名探偵でも一目見ただけでは真実にたどり着くのは困難だろう。

 ……とりあえず「お前等、誰の女に手を出してんの?」って言って睨みつけた方がいいのかね?(勿論、やるつもりはないけど) それとも「は、何言ってるの?」とでも言って、さっさとこの場を去ろうか……

 今まで得てきた知識(主にエロゲとアニメとラノベ)から、こんな場面の時に、主人公がやっていた行動を思い出つつ、どの行動を取るべきか頭の中のギアを高速回転させて考えてるが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。

「もう、こんな美少女を待たせるなんてどういうつもりよ! 罰として今日のデートはあなた持ちだからね」

「おい、ちょっ……」

 自称美少女ちゃん(仮名)は、翔の腕を掴んで、その場から離れようと強引に引っ張るように歩き始めた。

 どうやら、「学校帰りのデートに遅れた彼氏」というポジションに翔を落ち着けたいらしい。

 このシチュエーションでこの対応、いくらなんでも強引過ぎるぞ。

 その不安は、裏切られる事なく

「ちょっと待てよ!」

 自称美少女ちゃんは呆気なく不良その一によって、翔から引き離されて捕まった。

 まぁ、当然といえば当然か。

「ひどいなぁ、こんな通りすがりの見ず知らずの奴を『彼氏』って嘘をついてまで俺達と遊びに行くのが嫌なのかよ?」

 いやいや、君達も『見ず知らずの奴』なんじゃないのかい?

「なに言ってるのよ! 私、あなた達の事なんか知らないわよ!」

 自称美少女ちゃんが、不良その一の腕から逃れようと腕をばたつがせて必死に抵抗する様子を、なんだ、自分が心の中でツッ込んだ状況と同じ状況じゃないか……と翔は遠巻きに眺めていたが、いかんせん男と女、腕力の差は否めず、

「さ、皐月さつきちゃん、俺達と遊びに行こうぜ」

「ちょっと! 放してよ」

 最初と同じ押し問答が再開された。

「仕方ない……」

 蚊帳の外で振り出しに戻ったやり取りを見ていた私はそう呟き、近くの家のインターホンに目をやると、躊躇する事なく、それを押した。

 雰囲気に合わない間の抜けたインターホンの音に、一同、私が取った行動に呆気に取られているのを確認してから、

「逃げるぞ」

 不良三人組のわずかな隙を突くように自称美少女ちゃん改めて皐月ちゃん(仮名)の腕を掴んで、来た道を走り出した。

 生憎と、「全員を返り討ち」という暴力主義な選択肢は持ち合わせていないので、地の利を生かして逃げるしかない。兎に角、大通りに逃げれば追いかけて来ることはないだろう……

「待てコラァ!」

 ってしつこいなぁ。しつこい男は嫌われるよ……ってもう手遅れか。

 後ろを確認しながら追い掛けてくる不良三人組を見ながら……おい、かなり追い付いて来てんじゃないの!?。成程……普段、女の子に絡んでいる不良を全員返り討ちにする理由って余計な体力を使いたくないからなのね。本当こういう事はやってみなけりゃ分からないって本当だわ。

「ちょっと、どうするのよ!?」

 腕を掴まれて引っ張られるようになっている皐月ちゃん(仮名)が喚くように聞いてくる。

 五月蝿い。誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ! 俺はインドア派だぞ!

 怒鳴り返したい気持ちを抑えつつ、再度、後ろを確認する。

 マズいな、だいぶ距離が詰まってきてるな。こりゃ捕まるのも時間の問題だぞ……。仕方ない、確かこの先を曲がった先はT字路だったな。

 通り慣れた道の先を思い出して、ある策を浮かべる。有名な軍師がやった方法だ。実績はあるがいちかばちか、駄目だったらその時はその時だ。

 そうこうしていると、目的地の曲がり角を曲がり目的地に着いた。

 今だ!

 不良三人組から視界が遮られたのを確認すると、持っていた鞄を片側の道路に放り投げた。そして、反対側の道路を走り、一番近くの家の門をくぐり、息を潜めて様子を伺う。

「ちょっと、これって不味くないの?」

 皐月ちゃん(仮名)が不法侵入を咎めてくるが、今更なので無視しておく。というより、無関係の人間を巻き込んでおいて、そんな心配は手遅れなんじゃ……と言うツッコミはこの際、無視しよう。

「野郎、どこに逃げやがった!」

 塀越しに聞こえてくる声に聞き耳を立てる。

「おい、こっちに鞄が落ちてるぞ」

「じゃこっちだな」

 どうやら、目論見通りに見当違いの方に走って行ってくれたようだな。

 司馬懿仲達さんありがとう、貴方の逃走時の逸話が役に立ちました。今度発売する三國志を主題にしたエロゲ、仲達さんの名前の巨乳美女を最初にクリアするからねと、心の中で礼を言っておく。

 確か、石橋を叩き壊して渡る程の心配性が原因で引きこもった眼鏡っ子だったよなと、司馬懿仲達ちゃんに思いを馳せていると、不良達の声が聞こえなくなったようなので、外を覗きこんでいなくなっているかを確認して通りに出る。

 さてと、放り投げた冠……もとい鞄はどうやら無事のようだ。元々、何も入れてないし問題ないけどね。

「ちょっと」

 鞄に付いた砂利を叩いていると、皐月ちゃん(仮名)が 、声を掛けてきた。

「わ、悪かったわね。巻き込んでしまって」

「あぁ、全く、いい迷惑だよ」

「ちょっ、そこは別に構わないよ、とかじゃないの!?」

 なにこの子、自分の気持ちに正直に答えたらなんかとんでもない事言ってきたよ。どんだけヒロイン気取ってんの?

「古今東西、不良に絡まれた女の子を助けるなんてフラグ、立てると録な事が無いのは馬鹿弟を見て学習してるからね。特に君のような子には特にね」

「なっ!? あんた何それ、うぬぼれてんの」

「おっと、これは失礼。特級フラグ建築士取得済みの愚弟のおかげで常識がずれてたよ」

「特級……フラグ?」

 あれは日本にいた時、とにかくもてた。二枚目だの容姿端麗と言われ、写真の載った音楽雑誌や新聞は店から消えるという伝説まで作った愚弟は、「もてない要素がどこにあるの?」と聞きたくなる奴だった。そんな訳で当然のようにファンクラブが存在し、学校といい放課後といい家以外で愚弟の周りに女子がいなかった方が珍しかった位だ。しかも常に複数いたのだから始末が悪い。それもきっかけがちょっと優しくされて「ありがとう」と笑顔で答えられて陥落とか、曲がり角でぶつかったのが切欠とか、「お前、エロゲの主人公なの?」と聞きたくなるような出会いかたばかりだった。

 ちなみに、ファンクラブ誕生の切っ掛けは、愚弟を争って肉食系猛禽類女子約が乱闘(放課後、一緒に遊ぶ予定を巡り、最終的に五十人が罵声まじりで取っ組み合いになった)になった際に止めようとして「じゃあ海君が誰と一緒ならいいのか決めてよ!?」と迫られた際に愚弟が言った一言だそうだ。

「そんなの決められるわけないよ。僕は皆の事が好きなんだ。だからみんな仲良くしようよ」

 雌豹に睨み付けられたチワワが如く体を小さく震わせながら、うるうると涙目でそうのたまうと言う、逆ハー女主人公も驚く乙女系行動で肉食系猛禽類女子の保護欲を鷲掴んだ結果、愚弟はみんなで共有しようというファンクラブと言う名の集団が出来上がったわけだ。

 留学直前には、学校の三分の一がファンクラブに入っていたと言うのだから恐ろしい話だ。それも「二号でも三号でもいいから」と言い切る猛者も何人も居たそうだ(友人から聞いた話なので真相は定かではないが話によると二桁はいたそうだ)。

 彼女達は口惜しいとは思わないのかね。自分に好意を寄せてくれてる相手に対して、誰が好きかも決められないような男を好きになった自分がさ。

 まぁ、正妻戦争に私を巻き込まない限り勝手にやってろって感じだったけどね。なかには搦め手を攻めようと私に接触してきた人間にはそれ相応の対応をしてあげたけどね。ちなみに何をしたかって? その子の自信をへし折ってあげただけだよ。別に反省も後悔もしてないけど、三日休んだ後、学校に来た私を見て逃げ帰ったのを見て、ちょっとやりすぎた感はあったけどね。まぁ、反省も後悔もしてないけどね。大事な事なので二回言っておこう。

 中学時代の黒歴史を思い出していると。

「ちょっと?」

 皐月ちゃん(仮)が声をかけてくる事に気付いて意識を戻す。黒歴史はちゃんと封印しとかないとね。

「ねぇ、私の話聞いてる?」

「あぁ、これは失礼。自称美少女ちゃん?」

「ちょッ、なによその自称美少女ちゃんって、私には志摩皐月しまさつきってちゃんとした名前があるわよ」

 自分で言っておいて何を言ってるんだろうねこの子、顔とルックスはいいのに頭の方はちょっと天然が入ってるのかね。まぁ、それは流しておくとして、

「まぁ、別に気にしてませんから大丈夫ですよ」

「そ、そう……」

 溺れるものはなんとやら、危機的状況に陥っていたのを此方は無視したのだから非はこちらにあると対応する。それよりも問題は買い物だ。

「まぁ、これに懲りたら一人で裏通りを通るのは止めといた方がいいですよ。では」

「あ、ちょっと」

 そうそうに切り上げると、まだ何か言おうとしていた自称美少女ちゃん改め志摩さんを置き去りにして商店街のスーパーに向けて疾走する。時間が遅くなるのは死に関わる(主に財布の中身的に)、それだけは避けなければと向かったわけだが、結果、出遅れつつも挽回し、プラスマイナスゼロの結果だったとだけ記しておく。



 

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