第一話 自堕落高校生のとある一日
オリジナル新作第二弾の投稿です。
「あんた仕事中じゃないの?」というツッコミは不許可でお願いします。
「天才は1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」
エジソンはそんな事を言ったらしいが、本当は「1%のひらめきがあれば、99パーセントの無駄な努力をしなくてもよい」と言ったらしい。全くその通りだと思う。
どんなに努力しても、天才には敵わないなら努力なんかするだけ無駄だ。
両親の期待は頭脳明晰、スポーツ万能で、音楽の才能に恵まれ「天才ヴァイオリニスト」と呼ばれた弟に注がれ、俺には全く見向きもされなかった。
極めつけは、中一の学年末の保護者懇談会の後だった。
「あんたになんか別に期待してないから」
両親は成績表どころか通信簿すら目を通さず、「印鑑の場所くらい分かるでしょ」と成績表を突き返された。両親にとって一桁代の順位を取った事すら価値ですらなかったのだ。
そして、私は「努力」をする事と「両親に認めてもらう」というのを諦めた。
以来、俺は家族に心を閉ざし、風に揺れる柳が如く、川に流れる木の葉のように惰性に身を任せて開き直って生きる事を選んだ。
それは、一人になった高校生になっても続くはずだった……
しかし、俺の運命はとんでもない方向へと向かっていた。
例えて言うなら、獅子座から地球に来た戦士が、光の国の戦士と出会うような、そんな出会いを果たしてしまうのだった。
それはまさに波乱に満ちた日々の始まりだった……
「よく寝た」
私こと藤崎翔の朝はかなり遅い。
八時半登校で、通学に十五分かかるのに、起床は八時という我ながら素晴らしい自堕落ぶりである。
一ヶ月前までは、多少は注意していた両親と弟がいたが(とは言っても全て無視したけど)、春休み中に弟のウィーン留学が決まり、一人では不安だろうと付き添いで両親がついて行くという過保護を通り越した親馬鹿ぶりに呆れると同時に、これでやっと「天才の弟」と一緒にいるという苦痛から解放されると、喜んで送り出した。あまりの嬉しさに空港で万歳三唱をしたのはいい思い出だったな。弟達は「はなむけ」だと思って涙を流していたみたいだけど……
結果、多少なりとも歯止めのかかっていた翔の自堕落のリミッターは外れ、春休み中はゲームやネットサーフィンによる徹夜と、昼までの惰眠を貪り、どんどんダメ人間へとクラスチェンジを重ねていったのだ。
八時に合わせた目覚ましを止めて、布団からもそもそと這い出ると、洗面所に向かい顔を洗い、最低限の身だしなみを整えると、次に台所に向かい食パン(六枚切り九十八円)を二枚、取り出してオーブントースターに入れてつまみを三分のところに合わせ、その間に制服に着替える。ちなみにこの間にかかった時間は十分。我ながら見事な無駄のない行動だ。残り五分で食パン二枚の朝食と食後のはみがきを済ませて家を出るのが高校に入学してからの俺の日課だ。
「眠い……」
遅刻ぎりぎりで慌てて走っている学生を尻目に、何も入っていない鞄を肩に抱えて、あくびをかみ殺しながら歩いて登校(この時間なら歩いてでもまだ間に合うので)する。
昨日の3時(昼ではなく深夜)にやってたアニメを見たせいで眠気が取れん。ネットで面白いと言われる作品ほどなぜ深夜枠になるのか謎だ。夕方七時のゴールデン枠にすればいいのに……無理か。ヒロインの変身シーンきわどいからな。間違いなく苦情が殺到するね(主に教育に自信のない親から)。……念のために言っておくが、あくまでネットで面白いとすすめられたから見てるんであって、そこまでのめり込んでないから。
そんなくだらない事を十五分ほど考えながら校門をくぐり、玄関の前で生活指導の先生(ジャージ着用の体育会系)の挨拶に惰性で挨拶を返してから教室へと向かった。
翔にとって授業というのは念仏を聞いてるようなものである。ほぼ一時間おきに違う宗派(科目)の「南無阿弥陀仏」って聞いてる感じでしかない。
最後に「どじょう屋」って言う念仏なら聞きたいけど……って、あれは落語だったか。ちなみに体育は念仏と関係ないんじゃないかって? 踊り念仏ってのがあるでしょ。まぁ、授業なんて教科書を多少読んでおけば最低限の点数はとれる。これは受験でも成功した実績のある方法なのだ。
そんな事を考えたりしながら日替わりの六宗派の念仏(六時間目の授業)を聞き終わり、最後に和尚さん(担任教師)のありがたい言葉(SHの事)を聞き終えると放課後となる。
「さて、帰るか」
座りっぱなしで固まった筋肉を解すように背伸びをしてから席を立つと、机の横にかけてある鞄を掴んで教室を出ようとする
「おい、藤崎」
出かかったところで和尚さん……ではなく、担任教師(確か酒井って名前だったかな)から止められた。
「君だけまだ部活動の入部届けが出てないんだが……」
「入部届け……ですか?」
すっかり忘れてたな。
「あ~、私は帰宅部やろうかと思いますんで出さなくていいですか?」
既に帰り道に週刊誌の立ち読みする気でいた思考に切り替わりかかっていたのを抑えて、翔は少し考え込んでから、愛想笑いを浮かべて答えた。
「何言ってるんだ。一年生は原則的に全員どこかの部に入部なんだ。お前だけ特別扱いできるわけないだろ」
即、却下された。まぁ、当然と言えば当然か。それが許されれば校則なんて、未だにばれてないと思い込んでいる校長の鬘のようなものだ。誰でもいいから「もう鬘だって、みんなにばれてますよ」って教えてあげようよ。現実を突きつけるのも時には優しさだよ。
閑話休題、今なすべき事はこの面倒くさい状況からどう逃げるかだ。
「とにかく、今月中に早く出せよ」
「はぁ……、あんまり面白そうな部がなさそうなんですけどね」
担任の言葉に、思わず愚痴るが、これがとんでもない事をしでかしたと数分後に激しく後悔することになる。
「面白いかなんてやってみなきゃ分からんだろ。そうだ、藤崎は弟がヴァイオリンで有名なんだろ? 吹奏楽部でも入ったらどうだ」
「ふざけるな! 冗談じゃないわ!!」
恐らく俺と同じ学校出身の人間は「やっちまったな」と、間違いなく思っているだろう。
相手のためを思って言った事が相手にとってはいらぬお世話と言うのはよくあるが、今の担任の言葉は間違いなくそれだった。それも、打てば間違いなく福岡ドームで場外ホームランという直球のど真ん中である。
「音楽なんてな、あんな奴がやっているのと同じものを誰がやるか! 死んでもごめんだ!!」
勢いに任せて翔は、感情を露わにして担任にまくし立て、その姿に釘付けになっている同級生に気付くと、
「ヴァイオリンなんてな、なくなっちまえばいいんだよ!!」
吐き捨てるようにそれだけ言うと、勢いにまかせて逃げるように教室を出た。
結局、その日はそのまま家に帰り、布団に倒れ込むとそのまま寝入ってしまい、そして翌朝、「やっちまった」と、自分のした事をはげしく後悔したのだった……。
三人称での書き方に慣れているので、一人称の書き方に戸惑っている作者です。
色々と試行錯誤を繰り返して続けていきますので、感想や指摘などお待ちしております!