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NoNoKa's 星空

 本当に楽しかった。

 私は由乃ちゃんと友里、柏木くんと黒田くんで誰もいなくなった部屋の忘れ物の確認をしてから、店を出た。私の家だけ、逆方向だからひとりになる。

 すると由乃ちゃんは言った。

「柏木、送ってあげなよ」

 え!? 私は驚いた。

 由乃ちゃん、今日はいつもにも増してお世話焼きだ。

「だ、大丈夫です。すぐ着くから」

「何言ってんの! ののかの家、歩いて二十分くらいかかるでしょ」

 友里が言った。

「柏木、自転車なんだし、いいよね」

「いいよ。桜田、行こう」

「え……う、うん」

 じゃあね、と手を振って歩き出した。

「桜田」

 柏木くんは言った。

「今日はありがとう」

「こちらこそ」

「……あのさ」

 彼は言った。

「楽しかった?」

 私は何度も頷いた。

「う、うん」

「来て良かった?」

 もう一度頷く。

「うん。柏木くんが来てって言ってくれたから、すごい……嬉しかったです」

 私は素直にそう伝えた。夜の暗がりが、私の背中を押してくれたみたいに、素直に言えた。

 ……今日は星が綺麗だ。彼と見上げる初めての夜空が星空で良かった。




「ただいま」

 私はリビングのドアを開けた。

「ののか、連絡くれれば迎えに行ったのに。心配したよ」

「ごめん、遅くなっちゃった」

 私はマフラーを外してソファに座る。

「いいんだよ。ただ、可愛いののかが悪い男に狙われてないかと、俺は心配だ」

「裕史兄ちゃん……」

 すると携帯が鳴った。

「あ、涼くんだ」

 私は通話ボタンを押した。


『こんばんは、ののかちゃん』

「どうしたの、こんな時間に」

『こんな時間? じゃあ聞くけど、なんでののかちゃんは、こんな時間まで連絡をくれなかったんだ』

 そして、はっとして涼くんは言った。

『裕史くんとデートしてたんだね?』

 始まった……

『ずるいじゃないか! 裕史くんとは、一昨日あたりに出掛けてただろう。俺は一週間、ののかちゃんと出掛けてない!』

「違うの、今日はクラス会で……」

 弁解も虚しく、半ば強引に次の予定を入れられてしまった。

 裕史兄ちゃんも、従兄弟の涼くんも、もう二十三歳だというのに……シスコンというやつだ。

 私に好きな人がいる、なんて言ったら柏木くんを殺しかねない。

 私も私で、今まで厳しく突っぱねていないから、どんどんエスカレートしていくのだけど……。そろそろ終わりにして欲しい。




 いつもと同じ授業風景。何にも変わらない。

 変わっているのは、私の携帯が鳴り止まないこと。――涼くんだ。

 今日は彼と出掛ける日。きっと素敵な夜景の見える高級フレンチレストランで食事をするんだ。

『今日は楽しみだ』

 たったそれだけのメールが、何通も送られてくる。サイレント着信が十分置きに光ると、うんざりする。

 とんっと机に丸めた紙が落ちた。ドキッとして柏木くんを見ると、いつかのように唇に指を当てて、笑った。

『どうしたの?』

 私は驚いた。

 彼を見ると、真剣にノートを取っている背中だけが見えた。

『ちょっと、いろいろ』

 私はそう書いて柏木くんに渡した。理由なんて言ったら、彼はどう思うかな。

 嫌われたりするんじゃないかって思うと、そう書かずにはいられなかった。

 柏木くんの向こうを見ると、愛内さんが見えた。

〈二人は恋人同士なの?〉

〈……そうね〉

 彼女は笑った。

 柏木くんに、愛の言葉を言われたのかな。好きだよって、抱きしめたのかな。

 すると柏木くんから手紙の返事が来た。

『今日、空いてる?』

 彼の背中からは真意は読み取れない。



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