NoNoKa's 告白
「ののか、打ち上げくるんだ」
友里は言った。
「意外だなあ。ののかって結構、わいわいするの苦手でしょ。なんていうか、引きこもり?」
「ひどいなあ。私だって、行きたいもん」
さっきの柏木くんとの手紙の事は言ってない。私が柏木くんを好きだって事も言ってないから。早く打ち明けたいけど、恥ずかしい。でも、言わなくちゃ。友達なんだから。
「あ、あのね! 友里、由乃ちゃん」
ん? と二人が見つめる。
「お話がありまして……」
真っ赤になった顔を両手で挟んで冷ます。
「あらあらあら。ののかのお話しって何かしら。なんでも言いな」
由乃ちゃんは、なにか面白いものを見つけたように、にやっと笑った。私は意を決して口を開いた。
柏木くんに片思い中です、と。
すると、二人はしばらく何も言わず、唖然としていた。
「ののか……由乃ちゃんと私が、気づいてないと、思ってたの」と。
その言葉に、今度は私が唖然とした。
「知ってたの?」
「大丈夫、柏木の事、否定しないよ。ののかと柏木、いいと思う。私、応援するよ」
由乃ちゃんは言った。
「打ち明けてくれて、ありがとう」
二人は、にっこり微笑んだ。
放課後になり、柏木くんと目を合わせる事も言葉を交わす事もなく、帰路についた。
明日は打ち上げ。休日も彼に会えるのかと思うと、わくわくするし、ドキドキもした。
――お話、できるといいな。
「――ののかちゃん」
「あ、愛内さん」
校門を出た所で、後ろから声をかけられた。
「やだ。神那って呼んで」
「神那、ちゃん?」
「うん、ありがと」
そう言うと愛内さんは、私の横を歩き出した。
「あ、神那ちゃんも家こっちなの?」
「まあね」
曖昧に答えて、にこっと笑った。
「ねえ、明日打ち上げ行くの?」
「行くよ。カラオケらしいね」
カラオケは好きだ。歌うのが好きだけど、盛り上がるわけじゃない。だから、明日の打ち上げでは歌うつもりじゃなかった。
「楽しみだねー! 柏木くんも何か歌うのかな」
声を小さくして愛内さんは言った。恋する女のそれだ。
「……神那ちゃんと柏木くんは恋人同士なの?」
すると、愛内さんは少し頬を染めて曖昧に首を傾げた。
「……そうね」
――ああ。
やっぱり、二人はお似合いすぎる。横顔をそっと盗み見る。大きな目と長い睫毛。目の上でぱっちり切りそろえられた前髪に、綺麗な長い髪。
「――あ、家ここだから」
私は、いつの間にか辿り着いた家の前で手を振った。
「そっか。じゃあ、また明日ね!」
愛内さんも手を振って、さっき来た道を戻っていく。確か、愛内さんも柏木くんや由乃ちゃんと同じ中学。
だとしたら、家は逆方向なんじゃ……。
頭にハテナマークが浮かんだが、着替えている間に忘れてしまった。
――明日、楽しみだな。
楽しみにしていた日に限って、風のごとく過ぎて行ってしまう。
私は、メロンソーダをちびちびと飲みながらみんなの歌を聴いていた。みんな、楽しそう。
柏木くんも、楽しそうにみんなに囲まれて笑っていた。
「ののか」
由乃ちゃんが手招きした。
そばに寄ると「柏木」と柏木くんも呼んで隣に座るように促した。
「よよよ、由乃ちゃん?」
「まあまあ、座んな。あたしはちょっと、ト・イ・レ」
「由乃ちゃん!」
「谷村!」
私達を無視して彼女は部屋を出て行った。
「……歌わないの?」
柏木くんは、私の方を見ないで言った。
「うん。私が歌ったら盛り上がらないので」
すると柏木くんはデンモクを私に渡した。
「歌って。気にしないでいいから。き、聴かせてほしい」
彼は、やっぱり向こうを向いていたけれど、きっと真っ赤な顔をしてると思った。そんな彼に、私は大好きなバラードナンバーを入れた。
柏木くんの前で、歌うとは思わなかった。だって、この歌そのまま、私の気持ちなんだから。




