ShoTa's 好きな人
彼女は分かりやすい。
友人の深森や谷村たちと話しているのを見ていると、けらけらと良く笑うし、落ち込んでいる時は暗いオーラを身に纏っている。
ふわふわで長い髪は、文化祭が終わると鎖骨あたりまでに切りそろえてしまった。癖っ毛で茶色がかった髪が桜田にはよく似合っていた。
今日の朝、文化祭の打ち上げの出欠の紙を貼ったとき。
「……柏木くん」
ざわついた教室の中、誰かが俺に話しかけた。
「打ち上げ、結構行く人いるね」
彼女は、クリクリとした目が印象的な愛内神那。
「……ああ。愛内も来るんだ」
「当たり前じゃん。柏木くんが来るんだもん」
「……愛内が来るんなら盛り上がるな。楽しみにしてるよ」
「うん! じゃあ、また明日」
そう言い残して彼女は教室を出て行った。
「愛内さん、柏木と仲良いよね」
「……谷村」
気づけば今度は谷村が後ろにいた。
「……アンタさ、ほんと、誰にでも優しくするよね。それが柏木の良いところでもあるんだけど……誰にでも優しいのって、誰にも優しくないのと一緒よ。そんなんじゃ、ののか、誰かに取られちゃうんだから。しっかりなさい、王子様!」
谷村は俺を見た。
………。
「え、えっ!? おまっ……なんで桜田……え? なに……?」
顔から火が出そうだ。俺は、そんなに分かりやすかったのかと思った。
谷村とは中学から同じクラスで仲は良かったが、お互いの入り込んだ話なんてした事もない。
すると谷村は焦る俺を見て、ふふっと笑った。
「クラスでは、優しくて完璧な王子様だと思われているけどね、私にとったら可愛いお子様よ。アンタの事なんか、手に取るように分かる」
むっとして赤くなった俺に「でも」と谷村は声をひそめた。
「ののかは気付いてもいないわ。一ミリもね。さあて、王子様がどうやって、私たちのお姫様をモノにするのかしら」
おまえなあっ! と俺が言うのも聞かず、ひらひらと手を振っていってしまった。
谷村には叶わない。彼女は俺なんかよりも、遥かに先を歩んでいた。
――それより。
桜田は気づいていない。まあ、そうだろう。だって俺は、そんな素振りは見せまいと生きてきた。
桜田は、好きな人がいるのだろうか。
授業中、もんもんとした気持ちがたまらなくなって、彼女に小さな手紙を書いた。
返事なんて期待してなかった。いつもみたいに、俯いてしまうんじゃないかと。
でも。笑ってくれた。少しでも、俺の事を想って。




