NoNoKa's 君からの手紙
私はため息をついた。
放課後まであと二十分。退屈な授業が終わるのが、あと二十分。
――愛内神那さん。
よく柏木くんと話しているのを見かける。
愛内さんは、目がくりくりっとしてて、動物に例えるとリスって感じ。とにかく、同性の私から見ても可愛い。
(私が男子だったら、好きになっちゃうよな……)
柏木くんは、愛内さんと話す時には、よく笑ってる。何を話してるかは分からないけど、私だったら何を話せばいいのかも分からない。
愛内さんが、うらやましかった。
柏木くんは、愛内が好きなのかな。
2人は、もう恋人同士なのかな。
柏木くんの事を考えると、胸が締め付けられます。
それどころか、爪の先まで甘く疼きます。
大好きで、大好きで、大好きで。
でも、追いつけないのかな。
すると、コンっと机に丸めた小さな紙が落ちる。送り主を探してキョロキョロと辺りを見渡した。
――心臓が止まるかと思った。斜め前の席。
柏木くんからの初めての手紙だった。
(し・ず・か・に)
柏木くんは唇に人差し指を当てて、口を素早く動かした。はっとして口を閉じる。
紙を開く指が、妙に震えた。震える指がそっと紙を開く。
(……あ)
そこには丁寧な字で、こう書いてあった。
『さっきは、ゴメン』
さっき?
……ああ、私が柏木くんと目を合わせなかったからだ。
怒ってなんかいないし、そんなつもりじゃなかったのに。それだけが書いてあった。
柏木くんからは、謝られてばかりだ。怒ってなんていないのに。
私はノートの端を破って返事を書いた。
『怒ってないよ。恥ずかしかっただけ。ごめんね』
私は柏木くんの机をめがけて投げた。
良かった。ちゃんと届いた……
ホッとしていると、
(ナイスコントロール)
柏木くんは、また唇を動かして私に言った。笑いかけられて、頬が熱くなる。
すると、すぐに返事が返ってきた。
『打ち上げ絶対来て』
それだけが書かれた紙。
柏木くんは、どんな気持ちで書いてくれたんだろう。彼の丸い文字を眺めていると、柏木くんと目が合った。じっと見つめる彼に、私は照れながら頷いた。
返事なんか描けなかった。私は、愛内さんのように、気の利いた言葉なんか思いつかないよ。




