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婚約者に浮気されたので婚約破棄された令嬢ですが、隣国の王子に溺愛されながら全部ぶっ壊して復讐します

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/06

 その日、世界はあまりにも簡単に裏切った。

「リシェル・アルヴェイン。君との婚約は、ここで破棄する」

 静まり返った夜会の中央。

 煌びやかなシャンデリアの光が、やけに冷たく感じられる。

「理由を……お聞きしても?」

 声は驚くほど落ち着いていた。いや、そう聞こえるように取り繕っていただけだ。

 私の婚約者――王太子エドガーは、わざとらしく溜息を吐く。

「君が不貞を働いたからだ」

 ざわり、と会場が揺れた。

「……は?」

 思考が止まる。

 今、なんて?

「証拠もある。君が他の男と密会していたと、彼女が証言している」

 彼が手を差し出した先にいたのは――。

「ふふ、残念でしたわね。リシェル様」

 妖艶に微笑む女。

 伯爵令嬢、セレナ・ヴァルディス。

 ――ああ、なるほど。

 全部、繋がった。

 最近の妙な噂。

 侍女の不可解な証言。

 そして、エドガーの冷たい態度。

「……私が不貞、ですか」

「まだ言い逃れする気か?」

 エドガーは苛立ちを隠そうともしない。

 けれど、その目は――どこか焦っているようにも見えた。

「では、逆にお聞きします」

 私はゆっくりと笑った。

「殿下こそ、セレナ様と関係を持っているのでは?」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、会場が爆発したようにざわめいた。

「な、何を言う!」

「証拠ならありますわよ?」

 セレナが楽しそうに口を開く。

「あなたが男と密会していたように、私たちも“見ていました”もの」

 ――ねじ曲げられた真実。

 完全に、詰んでいた。

 この場で何を言っても、もう覆らない。

 私を切り捨てるための舞台は、すでに完成している。

「……分かりました」

 私は深く頭を下げた。

「婚約破棄、謹んでお受けいたします」

 その瞬間、エドガーの表情がわずかに歪んだ。

 後悔か、安堵か、それとも――。

「ただし」

 顔を上げる。

「必ず後悔なさいますよ」

 静かに告げて、私は会場を後にした。

 ――その夜。

 屋敷を追い出されるようにして、私は街の外れまで歩いていた。

「……全部、終わったな」

 呟きが夜に溶ける。

 家も、地位も、婚約も。

 何もかも、あの二人に奪われた。

 ……いや。

「奪われたままで終わる気はないけど」

 その時だった。

「いい顔だな」

 背後から、低い声。

 振り返ると、そこにいたのは――。

「誰ですか?」

「通りすがりの王子様、ってところかな」

 軽く笑う男。

 月光を浴びた銀髪が、やけに目立つ。

「……怪しすぎます」

「はは、正直でいい」

 彼は一歩近づいた。

「君、さっきの夜会にいたな」

「……見ていたんですか」

「全部な」

 そう言って、彼は私の顎に指をかける。

「いいね。その目」

 ぐっと距離が近づく。

「絶対に折れてない目だ」

 心臓が跳ねた。

「名前は?」

「……リシェル・アルヴェイン」

「俺はレオン・ヴァルシア。隣国の王子だ」

 ――やっぱり王子だった。

「で、リシェル」

 レオンは笑う。

「復讐、したいだろ?」

「……ええ」

 迷いはなかった。

「全部、奪い返したい」

「いいね」

 彼は楽しそうに目を細める。

「じゃあ、俺が手伝ってやる」

「……見返りは?」

「簡単だ」

 彼はあっさりと言った。

「俺のものになれ」

「……は?」

「もちろん、形式上でもいい」

 さらりと爆弾発言。

「でも、どうせなら――本気で好きにさせるけどな」

「……」

 なんだこの男。

 軽い。軽すぎる。

 なのに。

「……悪くない提案です」

 私は笑った。

「利用させていただきます、殿下」

「上等だ」

 レオンは満足げに頷いた。

「じゃあ、復讐劇の開幕だ」

 それからの展開は、早かった。

 レオンの後ろ盾を得た私は、瞬く間に社交界へ復帰。

 そして――暴露。

「これは、エドガー殿下とセレナ様の密会記録です」

 証拠は完璧だった。

 私に罪を着せるために動いた証人たちも、すべて裏を取った。

「な、なんだと……!?」

 青ざめるエドガー。

「そんな……嘘よ……!」

 崩れ落ちるセレナ。

「嘘ではありません」

 私は静かに告げる。

「すべて、事実です」

 その瞬間。

 彼らの地位は、音を立てて崩れた。

 ――数日後。

「終わったな」

 レオンが隣で笑う。

「ええ」

 私は空を見上げた。

 すべて、取り戻した。

 いや、それ以上だ。

「で?」

 彼が覗き込む。

「約束、覚えてるよな?」

「……形式上の話では?」

「そんなわけあるか」

 即答だった。

「俺、本気だから」

「……」

 面倒な男に捕まった。

 そう思うのに。

「……仕方ありませんね」

 自然と、笑みが零れる。

「少しくらいなら、好きにさせてあげます」

「少しじゃ足りないな」

 レオンは私の手を取った。

「一生分、だ」

 ――ああ、本当に。

 全部、ひっくり返った。

 けれど悪くない。

 むしろ――。

「……退屈しなさそうです」

「だろ?」

 彼は楽しそうに笑う。

 復讐の果てに始まるのは、甘すぎるくらいの溺愛劇。

 それもまた――。

 悪くない未来だった。

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