女王の杖と黒騎士の剣
産後の悩みと専用武器
龍女王アデルは世継ぎのリリアナ王女を出産し、女神の国エテルティは安泰である。めでたしめでたし。……なのだが、龍女王アデル自身には困った変化が起きていた。
率直に言って、産後に体力が落ちた。大いに、落ちてしまったのだ。
イザーク以前に大将軍ダリウスにも負けてしまうほどに。
一児の父となったイザークは妻子への愛と体力と気力に満ちあふれて、騎士としてまだまだ強くなりそうなのだから、また腹が立つ。
大将軍との手合わせでは、体力の枯渇による続行不能。
イザークとの手合わせでは、拘束から抜け出せず降参。
手合わせの散々な結果に、アデルは騎士としての限界を感じずにはいられなかった。 出産の反動にしても辛すぎる。
「まぁまぁ、リリアナを授かったのですから良いではありませんか」
「イザーク、お前は一体何なの?要塞から兵器になるの?」
くたびれ果ててベッドに横になっているアデルとは反対に、リリアナを抱いたイザークは上機嫌だった。眠っているリリアナのために、ゆりかごのように少し揺れてみたり、娘の額にキスをしてみたり、溺愛そのものだ。
「アデル……。魔力は増えたんだから良いじゃない。 この際、魔女に専念しなよ」
アデルの傍に飛んできた聖獣キラムは、不貞腐れるつがいを宥めるように慰めたが、アデルの機嫌は直らない。
「今更変われるか。絶対に体力を取り戻してやる」
おぉ恐い恐い……と、娘を胸に抱いたまま器用に肩を竦めたのを、気配で読み取ったのだろう。 出産を境に完全に失明したアデルから睨まれたイザークは、迂闊な事を口走ると消し炭にされかねないと悟って、子守に専念することにした。
まぁ、そんな所も含めて愛しいのだが。
体力が落ちた代わりに爆増したアデルの魔力は、キラムですら完全には預かりきれず、余剰分を龍玉として保管してある。虹色に輝く玉に込められた魔力たるや、平凡な魔法使いが百人束になっても遠く及ばないだろう。
ひとつでも他国に奪われようものなら、何に使われるか分かったものではないから、龍玉はキラムが直々に管理している。
龍玉のひとつは城の魔力源として運用。生ごみポストに投函された生ごみを、24時間全自動で捌いているほか、有事の際には王都を守る結界の要になる手筈になっている。
「キラム、未使用の龍玉のストックは?」
「残り二つだけど」
「それなら、ちょうどいいな」
八つ当たりのような経緯で女王から発注された二つの武器は、未だ制作中の女王の為の指輪よりも早く、アデルとイザークのもとに届けられた。
アデルの新たな武器である【女王の杖】は、白と金色の杖の頂点に虹色の龍玉を戴く、女王の持ち物にしてはシンプルな杖だ。全盲のアデルにとっての安全杖にもなる。 広範囲の回復から攻撃までなんでもごされの、アデル専用武器だ。
アデルの武器を新調するついでに発注されたイザークの新たな武器である【黒騎士の剣】は、柄頭と鰐の中央に加工された龍玉が嵌まっている。漆黒の柄に白銀の剣身、虹色の龍玉。ついででは済まない、イザークの専用武器だ。
プレゼントフォーユー、などと気の抜けた妻の言葉に促され、柄頭に手を掛けた途端、剣が纏う魔力を感じ取ったイザークの鳥肌が立った。柄頭の龍玉に意識を集中してみな、と言われるとおりにしてみると、治癒が掛けられたのを感じた。なんという武器だ!
「さすがに広範囲の治癒は無理だった、許せ」
「十分どころか、向かう所敵なしです」
「人間要塞改め、人間兵器頑張ります」と満面の笑顔で言ってのける夫。
この男なら、単騎で軍隊を壊滅させそうな気さえする。 美男子の姿をした猛獣の手綱を、一生握り続けることを内心で誓うアデルなのであった。




