第52話
初日を白星で飾った和人は花道を歩き支度部屋に戻ると、自分に心地よい疲労と達成感を感じていた。
気持ちを整えた後、福岡国際センターの外へ出るとそこで両親が待っているのが見えた。
母親は和人の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきて、少し涙ぐみながら微笑んだ。
「和人、お疲れさま。今日は本当に良い相撲だったわね…関取になって初めての取組、立派だったわ」
和人も母親の顔を見て、ホッとしたように微笑んだ。
「ありがとう、母さん。親方と部屋のみんなのおかげだよ」
少し後ろに控えていた父親も和人の肩に手を置き、誇らしげに頷いた。
「和人、立派だったぞ。やっぱり地元での新十両、見てるこっちも胸が熱くなった。昔から相撲は好きだったけど、こんな晴れの場で息子の相撲を見られる日が来るとはなぁ」
和人は少し照れくさそうに、頭をかきながら答えた。
「父さん、母さん、こうやって故郷の福岡で相撲を取れるのは本当にありがたいよ。二人の支えがあったからここまで来れたんだ」
母親は息子の手をぎゅっと握りしめて、目を潤ませながら言った。
「和人、これからもたいへんだろうけど、怪我に気をつけて頑張るのよ。私たち、ずっと応援してるから」
和人はその手をそっと握り返し、目を細めて微笑んだ。
「ありがとう、母さん。地元で勝って、二人にこうして勝った相撲を見せられて本当に嬉しい。これからも気を引き締めて頑張るよ」
父親も穏やかな笑顔で、まるで誇らしい戦士を送り出すように和人を見つめていた。
「このまま勝ち星を重ねて、関取として胸を張れる場所にしていこうな。母さんと二人で、これからもずっと応援してるからな」
「うん、ありがとう。これから先も精一杯やっていくよ」
和人は胸に両親の温かい支えをしっかりと刻んで、次の取組への決意を新たにした。
新十両として迎えた九州場所、和人は初日こそ白星を飾ったものの、最終的には6勝9敗で場所を終えた。負け越しではあったが、十両という新しい舞台での経験は、和人にとって大きな成長の機会だった。
他の十両力士たちの実力はさすがに一段と高く、思うように技が決まらない場面も多かったが、その分自分の課題を強く意識することができた。
千秋楽が終わり、和人は潮見部屋に戻ってきて力を振り絞った15日間を振り返りながら深く息をついた。悔しさとともに、次の場所への闘志が少しずつ湧き上がってきているのを感じていた。
その夜、部屋では和人の新十両と本場所の終わりを祝い、親方や力士たちが集まって小さな宴が開かれた。結果こそ負け越しだったが、若手が自己最高位の土俵で力を尽くしたことをねぎらおうと、親方は和人を温かく励ました。
親方が杯を持ちながら、和人に声をかけた。
「佐藤、初めての関取の場所、お疲れさん。結果は6勝9敗だったが、今日まで戦い抜いたことが重要だ。どうだったか、今場所は?」
和人は少し悔しそうにしながらも、力強く答えた。
「親方、やはり十両は厳しいですね…幕下とは全く違う相撲を求められるのを痛感しました。でも今場所で学んだことがたくさんありました。次こそはもっと強くなって、必ず勝ち越しを目指します」
その言葉を聞いたおかみさんも、穏やかに微笑んで和人を励ました。
「佐藤くん、誰もが通る試練よ。ここからまた着実に力をつけていけばいいのよ」
まわりの弟弟子たちも一斉に声を上げた。
「若潮関、また稽古して出直しましょう!」
和人は仲間たちの顔を見渡しながら大きく頷いた。負け越しという悔しさも、こうして励ましてくれる仲間や親方の支えがあってこそ、乗り越えられると感じていた。そして胸の中で決意を新たにし、次の場所に向けた稽古への意欲がさらに高まっていったのだった。




