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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
最終章 あなたの打ち込んできたものはなんですか?
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第50話

和人の新十両昇進が正式に発表されてから、潮見部屋は少しずつその盛り上がりを冷静に受け入れつつあった。この日は多くの新聞記者たちが取材に訪れ、部屋は再び賑やかさを取り戻していた。稽古場も客間も人で溢れかえり、親方もおかみさんも慣れない取材に少々緊張しているようだった。


「おめでとうございます!」

記者の一人が親方に向かって大きな声で言った。

「ありがとうございます」

親方は少しぎこちない笑顔で返答する。

和人も緊張した面持ちで、隣に並びぴしっと立っている。

「ありがとうございます!」

と深く頭を下げると、記者の一人が続けた。


「さっそく紙面に載せる写真を撮らせていただきます。まずは師弟の握手を撮りたいのですが…」

「は、はい…」

和人は少し戸惑いながらも、親方に向かって手を差し出した。親方も握手の手を差し出し、二人は部屋の看板の前で向き合った。


「こちらでよろしいですか?」

「はい、ばっちりです!」

とカメラマンがレンズを向ける。

「お二人、はい、チーズ!」

カシャッという音が響き、二人の師弟の絆がその場で写真に収められた。


「次は、他の力士の方3人で騎馬戦のように騎馬を組んで、佐藤さんが上に乗ってガッツポーズをお願いします」

「わかりました!看板の前で撮りましょう!」


和人が返事をすると、同期の春風と、弟弟子の谷川、葉山が笑顔で集まり、騎馬を組み始めた。春風がふと微笑んで、和人に手を差し出す。

「よし、和人、乗ってくれ!」

「ありがとう、みんな!」

と和人は笑顔で応え、そろりと騎馬の上へ乗った。


「じゃあ、撮りますよ~。佐藤さん、笑顔でお願いします!」

和人はカメラに向かってガッツポーズを取り、満面の笑みで応じる。

「はい!」

と気合を込めた声が響き、カシャリとシャッターが切られた。

「ありがとうございました!撮れました!」

記者たちが嬉しそうに写真を確認し、和人たちは息をつく。

「こちらこそ、ありがとうございました!」


その賑やかな記者会見も終わりに差し掛かり、和やかな雰囲気が漂い始めた時、親方が静かに手を挙げた。部屋中がピンと緊張し、記者たちも一瞬息を飲むように静まり返る。


「もう一つ、ここで重大な発表があります」

親方の重みある言葉に、記者がすかさず質問を投げかけた。

「親方、それはなんでしょうか?」


和人は思わず親方を見つめ、心の準備もできないまま一瞬で背筋を伸ばした。

親方が穏やかな表情で周囲を見渡し、口を開いた。


「私は現役時代、『若潮』という四股名で、大関まで務めさせてもらいました。このたび新十両に昇進する佐藤に、この四股名を継承してもらいたいと思います」


「ええっ!親方…」

和人は驚きの声をあげる。憧れ続けた親方の四股名、そして自分にとって特別な思いの詰まった名前を、親方が託そうとしている――その事実に胸が高鳴り、感動が込み上げてくる。


記者たちもその重要な発表に皆大きく息を飲み、周りからは感嘆の声が漏れた。


「大関の四股名の継承ですね!これは…本当に貴重な発表です!」

記者が興奮を抑えきれない様子で口にした。


背後では南浜や青の海や春風と若手の力士たちが笑顔で拍手を送り始める。


「若潮!若潮!わっかしおっ、わっかしおっ!」

いつしか部屋中から「若潮」コールが起こり、祝福の波が大きく広がっていく。新しい「若潮」となる和人に、温かいエールが鳴り響いた。

和人は込み上げる感動を抑えきれず、もう一度親方に向き直り、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます!俺、これからも全力で頑張ります!」


その言葉に部屋のみんなの興奮が一層高まり、力強い拍手が響き渡った。親方とおかみさんが嬉しそうに和人を見守っている表情は、和人にとって特別な光景として心に焼き付けられた。


「若潮関~!若潮関~!」

歓声と拍手の嵐が続く中、和人はこの瞬間を生涯忘れることはないだろうと胸に刻みながら、周りの声援を力強く受け止めた。


九州場所を新十両として迎える和人は、連日の取材で喜びと祝福に包まれながらも多忙な日々を送っていた。そんな中潮見部屋の客間では、柚と和人の姉の美音、菜月、そしておかみさんが談笑していた。


「連日、取材が絶えないわねぇ…」

おかみさんがしみじみと話すと、菜月が得意げに頷きながら、

「だって、和人くんは18歳の関取なんだからね!将来有望の力士ですからねー!」

柚も微笑みながら頷いたが、その表情には少し心配の色が見える。

「なんか最近、和人くんが疲れているような気がして…」

「まぁね…。それも無理はないわよ。関取になると、まわりの環境がガラリと変わるんですもの」

美音が弟を気遣うように話すと、菜月が興味津々な顔で尋ねた。

「関取になったら、そんなに違うんだ?」


おかみさんが笑顔で頷きながら、優しく説明を続けた。

「そうなのよ。幕下までは基本的に無給で生活していたけれど、十両になると相撲協会からの月収が100万円以上になるの」

「えっ、そんなに違うんですか…それじゃ忙しくなるのも当然ですね」

柚が少し驚いた様子で呟くと、おかみさんは穏やかに微笑みながら続けた。


「そうよ、忙しくなるのは良いことだけどね、若くして関取になった力士が、誘惑に負けて身を崩してしまうことも少なくないの」


菜月が不思議そうな顔をして首を傾げた。

「身を崩すって、どういうこと?」

「だらしのない生活をしてしまって、不品行であったり、無駄遣いが増えたりして最終的に相撲をやめてしまう力士もいるのよ。せっかく関取にまでなったのに、そういう結果になると残念でしょう?」

「そっか…でも、和人くんならきっと大丈夫だよね!」

菜月が無邪気に微笑むと、おかみさんが柚に優しい視線を向けながら、静かに言葉をかけた。


「男の人が道を踏み外さないためには、女性の支えが必要なの。柚さん、あなたもそのことを心に留めておいてね」

おかみさんの言葉に少し驚きながらも、柚は元気よく返事をした。

「はい!私、しっかり支えていけるように頑張ります!」

ちょっぴり不安もあるが、それ以上に、彼を見守る決意を胸に抱く柚だった。

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