第5話
一勝一敗で迎えた大将戦、南中学校の運命はキャプテンである和人の肩にかかっていた。和人は静かに立ち上がり、土俵へと向かった。緊張感が張り詰める中、観客席からは応援の声がさらに大きく響き渡る。優太が取組で見せた奮闘を心に刻みながら、和人は気を引き締めた。
土俵に上がると目の前には体格が一回り大きい松中学校の大将の選手が立っていた。和人もその体格に圧倒されそうになるが、すぐに自分を奮い立たせまっすぐに相手を見据えた。相手もまた睨むように和人を見つめ返す。互いの視線がぶつかり合い、火花を散らすような緊張感が漂う。
(自分を信じろ…)
和人は心の中で自らを鼓舞し、仕切り線に手をついた。土俵上の静けさは一瞬で消え、緊張が一気にピークに達する。
「はっけよい!のこった!」
審判のかけ声と共に和人は力強く前に踏み込んだ。相手も鋭い動きで応戦し、両者の体が激しくぶつかり合う。土俵が大きく揺れ、その衝撃が観客席にも伝わる。最初の接触で和人は相手の体格や力強さ、筋肉の強さを感じる。すぐに自分の体勢を整え、押し返した。
(力だけじゃない…冷静に、相手の動きを見極めるんだ…)
和人は相手の動きに注意を払いながら少しずつ間合いを詰めていく。相手は力任せに押し込もうとしているが、和人はその攻撃をしっかりと受け止め、簡単には土俵を譲らない。
(よし、ここだ…!)
和人は一瞬の隙を見逃さず相手のまわしを掴んで引き寄せようとしたが、相手もすぐに対応し力強く押し返してきた。両者は一進一退の攻防を繰り広げ、何度も土俵際での激しい押し合いが続いた。
(くっ…まだだ!)
和人は何度も体勢を崩しそうになりながらも立て直し、相手の次の動きを見極める。相手が再び強く押し込んできた瞬間和人は素早く身を翻し、土俵の縁から逃れるようにして体勢を立て直した。
(まだ…いける…!)
土俵際での攻防が続く中、和人は相手の動きにわずかな疲れが見え始めているのを感じた。この瞬間を逃してはならないと和人は次の攻撃を仕掛ける。
「今だ!」
和人は一気に間合いを詰め、右手で相手のまわしをがっちりと掴むと全身の力を込めて相手の体を引き寄せた。そして上手投げを繰り出すべく、左手で相手の腕を引き体を回転させた。相手は驚き必死に踏ん張ろうとしたが、和人の動きは素早く、相手の体はバランスを崩していく。
和人は最後の力を振り絞り、相手を土俵の外へと投げ飛ばした。相手の体が空中を舞い土俵の外に落ちると、審判がすぐに勝利を宣言した。
「勝負あり!」
和人は土俵に立ち尽くし、粗く息をついた。歓声が土俵を包み込み、南中学校の応援団からは大きな拍手が送られた。和人はゆっくりと土俵を下り、仲間たちに囲まれながらその勝利の実感を噛みしめた。この戦いは本当にギリギリだった。相手も体力の限界だっただろうが、和人もそうだった。あの瞬間の判断がなければ負けていたかもしれない。
「やったな、和人!」
崇が駆け寄り、優太も笑顔で和人の肩を叩いた。和人は微笑みながら仲間たちと拳を合わせた。




