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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
最終章 あなたの打ち込んできたものはなんですか?
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第49話

秋場所の千秋楽から3日後、相撲協会では番付編成会議が開かれていた。


和人の新十両昇進の行方を見守る関係者や部屋の仲間たちにとっても、この日は緊張の一日となった。だが新しい番付の発表は次の場所の2週間前の月曜日と決まっており、それまでは部屋の誰もが結果を知ることはできない。


会議に出た親方たちや関係者も一切、口外しないという規則もあるほどだ。

しかし新十両に関しては、化粧まわしの作成などのため番付編成会議の当日に知らせが届く。


潮見部屋では発表を待つ間も日々の稽古が続けられていた。部屋の空気は少しだけ張り詰めているものの、稽古場では力士たちのかけ声やぶつかり合う音が響き、いつものように活気に満ちている。和人もその一人として、稽古に全力で向き合っていた。期待と不安が入り混じる中、和人はただ目の前の稽古に集中し、自分を鍛え続けていた。


そんな稽古場の座敷では、親方とおかみさんが小声で話をしていた。二人の視線は和人に向けられており、期待を寄せると同時にその行く末を案じる表情を浮かべていた。


「親方、佐藤くんの昇進はどうなりますかね…」

おかみさんが少し心配そうに囁くと、親方は腕を組みながらうなずいた。


「そうだな。新十両になれるかどうかは彼にとっても大きな節目だ。千秋楽での相撲も立派だった。しかし、番付編成会議の結果が出るまでは確かなことは言えん」

おかみさんもじっと和人が毎日一心不乱に稽古をする姿を見つめてきた。彼がどれだけの努力をしてきたか、そのすべてを近くで見守ってきたからこそその成長を感じていた。


「そうですね…。けれど、佐藤くんは大一番で気持ちをさらに一段と強くしたようにも見えますね」

親方は静かに頷いた。


「ああ、確かにそうだ。白虎王戦、朱雀王戦、あの大勝負で佐藤は得るものが大きかっただろう。例え結果がどうであれ、この二番が次に繋がるはずだ」


二人が話していると、ふと稽古場で和人が次の稽古相手に構え、真剣な表情で稽古を続けている姿が目に映った。


「佐藤は強くなっている。今回はどんな結果になろうと、それをこれからも見せてくれるだろう」

おかみさんは静かに微笑んで頷いた。

「そうですね、佐藤くんはきっと大丈夫と信じています」


番付編成会議で和人の新十両が正式に決まった場合のみ、会議当日の13時に相撲協会から潮見部屋に電話が入ることになっている。

そして当日、いよいよその時間が近づいてきた。


「…佐藤くん、大丈夫よ。どんな結果であってもここまで努力してきたことには変わりないんだから」

おかみさんが和人の肩をそっと叩き、優しく声をかけた。和人は少し硬い笑顔で頷き、

「ありがとうございます。おかみさん」

と返事をする。稽古場にはまだ若手の力士たちも遠巻きに和人を見守っていた。


一方、親方は時計を何度も気にしながらも、平静を装いながら稽古場の座敷の隅に腰を下ろしていた。普段は厳しい目で弟子たちを見守る親方も今日ばかりは心中穏やかではない。


はたして電話はくるのかこないのか、結論の出る13時を待つ時間がひどく長く感じられるようだった。


「佐藤、心を落ち着けて、結果がどうあれ気持ちを引き締めるんだ」

親方が静かにそう言うと、和人は一瞬緊張した表情を見せたが、すぐに深呼吸をして大きくうなずいた。


「はい。どんな結果であっても、それを受け入れて精一杯やっていきます」

和人は拳を固く握りしめながら、自分に言い聞かせるようにそう答えた。周りの弟弟子たちも憧れの目で彼を見つめ、まるで自分のことのように気を揉んでいた。稽古場の空気は、和人のひたむきな姿勢に触発され、より一層引き締まっていく。


そして、そんな静寂を割る電話が鳴った瞬間、潮見部屋の稽古場に緊張が走った。親方が静かに受話器を取り、応対する。


「…はい。はい、佐藤ですね」


その後、ほんの数秒にも思える沈黙が流れ、親方の顔が徐々にほころんでいった。

「ありがとうございます」

電話の向こうからの声は確かに聞こえた――


「おめでとうございます。佐藤の新十両が正式決定しました!」


おかみさんは思わずその場で手を口元にあて、喜びを抑えながらも声を上げた。

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」


すると稽古場にいた力士たち、親方、そしておかみさん、みんながその瞬間を祝福するように「わああ~~~っ!」と歓声を上げた。和人も堪えきれず、周りを見渡しながら、徐々に込み上げてくる感動に目が潤んだ。

若手力士たちは肩を抱き合って笑顔を浮かべ、互いに「やった!」「佐藤さん、やりましたね!」と喜びの声を交わしている。


「佐藤くん、本当におめでとう!本当によくやったわ!」

とおかみさんが駆け寄り、和人の肩に手を置いて祝福を伝えた。

「ありがとうございます、おかみさん!」

和人はこみ上げる涙を拭い、みんなに向かって笑顔で深々と頭を下げた。

「親方…、そしてみなさん、本当にありがとうございます!」


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