第45話
和人と朱雀王が同時に突進する。両者の体が激しくぶつかり合い、その衝撃は会場全体に響く。
柚は祈るようにして息を詰めた。
「………」
彼女の心臓は激しく高鳴り、胸の奥で「和人くん…!」と叫び続けていた。
「今日もものすごい当たりの立ち合いです!」
アナウンサーの声が響き渡る。
朱雀王は得意の右四つに持ち込み、和人の胴体をがっちりと掴んだ。彼の技と力が相まって、和人はあっという間に劣勢に追い込まれる。
「朱雀王得意の右四つになりました!」
アナウンサーが興奮した調子で叫んだ。
菜月も声援を送る。
「がんばれー!佐藤!佐藤!」
菜月もプロヴァンスのテレビを見ながら、店中に響くほどの大声で応援している。そんな思いとは裏腹に、和人は徐々に劣勢に追い込まれていく。
「佐藤はまたも劣勢からの立ち上がりです」
アナウンサーが伝える。朱雀王の力と技の前に、和人は力を振り絞りながら耐えていた。
おかみさんは冷静にその様子を見つめながら、感心するように呟く。
「朱雀王…さすがね…経験が違うのよ」
和人は左上手を切ろうと何度も試みるが、朱雀王の技術は優れていた。
「こいつ‥あなどれんな‥」
朱雀王は和人の底力に内心驚きながらも、全力で対峙していた。他の力士であれば、これで態勢を崩していただろう。
柚の心はますます高まる。
「和人くん…!」
彼女は拳を強く握り、心の中で叫び続けた。
しかし、朱雀王の左上手は切れない。朱雀王は体勢を崩さず、和人をしっかりと捉え続けていた。
和人は朱雀王優勢から身動きの取れない状況に、内心焦っていた。
「くっ…」
しかし和人は必死に耐え、がっぷり四つの状態まで持ち込んだ。両者の動きが止まり、駆け引きが続く。
そんな拮抗した取組に、会場はますます盛り上がり歓声が響き渡る。
「駆け引きが長引いてるわね…」
おかみさんが呟いた。両者の実力が拮抗し、相手の動きを見極める時間が続いた。
取組は1分が経過し、観客の緊張はますます高まっていた。ここまでくればどちらが勝ってもおかしくない。
その時、突然朱雀王が右手で下手出し投げを打った。
「朱雀王、右下手出し投げか!」
アナウンサーが叫んだ。
柚は思わず息を呑む。
「はっ!」
和人は必死にこらえ、倒れそうになる体を何とか踏みとどめた。両者の力がぶつかり合い、時間が長くなると体力も尽きてくる。どちらも倒れる寸前だ。
「佐藤、なんとかこらえました!」
朱雀王の技を耐え抜いた和人。彼の心はさらに強い闘志で燃え上がっていた。




