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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
第8章 関取への大一番①
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第40話

7月の名古屋場所で5勝2敗という好成績を収めた和人は、秋場所へ向けて本格的な稽古に入っていた。潮見部屋の稽古場はいつも以上に熱気がこもり、力士たちが額に汗をにじませながら激しい稽古に打ち込んでいる。和人にとって、この秋場所は特別だった。新十両昇進がかかった、大きなチャンスの場所なのだ。


和人はダブルデートで気分転換ができたことが自分にとって大きな転機だったと感じていた。その爽快感が、名古屋場所での好成績にも繋がった。そして今、目の前に迫る9月の秋場所に向け、さらに稽古に打ち込んでいた。


潮見部屋の稽古場で、和人は息を整えながら立ち上がる。

「ふぅ…」

額から汗が滴り落ちる。次の稽古に備える和人の姿を見た春風がふと声をかけた。

「和人、緊張してるのか?顔が固いぞ」

その問いに和人は驚いたが、正直に答える。

「…緊張しちゃって…。結果を出さないとって、どうしても気持ちが先行しちゃうんだ」


その瞬間、部屋の建物に響く親方の鋭い声が飛んだ。

「佐藤!足が動いてないぞ!もっと腰を低く、相手の力をうまく吸収しろ!」

和人は親方の指摘に、すぐに姿勢を正して答えた。

「はい!」


再び仕切り線に立ち、気合を入れ直す。目の前には青の海が立っている。関取として経験を積んだ彼の圧倒的な体格と技術を前に、和人の体は硬直し、動きが鈍くなる。


「ムリもないさ。関取までもう少しのところだからな」

春風が優しく声をかけてくれるが、その言葉が逆にプレッシャーになってしまう。

「関取に上がれるかどうかって、雲泥の差な気がして…そればかり考えてしまってさ…」

和人は心の奥底に抱えた不安を口にした。しかし、青の海はそれを聞いて大きく頷きながらも、和人に優しく言った。

「おまえのいいところを思いっきり出せばいいんだ。考えすぎるな」


「青の海関!はい!ありがとうございます!」

青の海の言葉に、和人の心に光が差し込んだ。その言葉は、思い悩む彼にとって大きな支えとなった。

さらに、南浜が和人の背中を軽く叩き、明るく励ます。

「大丈夫だ、おまえならやれる!自分を信じろ!」

「はい!南浜関、頑張ります!」


和人は再び気合を入れ直し、再び仕切りに立つ。弟弟子の谷川、葉山、島袋も、和人の様子をじっと見つめていた。

「佐藤さん、すげえ…」

谷川が小さく呟く。

和人は弟弟子たちの視線を感じ、振り返って大きな声で言った。

「谷川、葉山、島袋、遠慮なくかかってきてくれ!俺に挑戦してこい!」

力士たちの間に、熱い気迫がみなぎる。


「これは新十両に上がるんじゃないか…」

弟弟子たちが呟く中、和人は心の中で決意を固めていた。秋場所は必ず勝ち越し、新十両に昇進する。その思いが彼の胸に強く、静かに燃え上がっていた。


翌日も、翌々日も潮見部屋の稽古場では和人が一心不乱に稽古に打ち込み続けていた。その姿は必死で技を磨き上げる姿、努力の佐藤、そのものだった。

秋場所が迫り、稽古にも一層熱が入る。新十両昇進がかかったこの場所に向けて、彼の集中力は一段と研ぎ澄まされていた。


しかしその部屋の入り口、離れた場所に一人、柚が静かに立っていた。日曜日もプロヴァンスに姿を見せない和人を心配して様子を見に来たのだ。和人に声をかけようか一瞬迷ったが、彼の真剣な様子を見て声をかけるのをためらった。和人は汗を滴らせながら稽古相手と力強くぶつかり合い、ひたすら前に進もうとしている。彼の目には決意が宿り、その集中力は凄まじいものだった。


「すごい…和人くん、本当に頑張ってる…」


柚は心の中でそう呟き、胸が熱くなった。和人が一歩一歩、力士としての夢に向かって進んでいることを間近で感じる。だが、同時に自分が彼の集中を乱すかもしれないという不安も湧き上がってきた。


「今は…邪魔をしない方がいいよね」


柚はそっと足を引き、見つめていた視線を外した。そして静かにその場を去ることを決めた。和人の背中を見送りながら、彼がひたすらに努力を重ねる姿を見て寂しさを感じたが、今は彼のためにそっとしておくべきだと思ったのだ。


和人はそんな柚の存在に気づくことなく、ひたすら稽古に没頭していた。柚の思いを背に、和人は稽古に全力を注ぎ続けていた。彼の心にはただ一つ、新十両昇進を果たし、さらなる高みを目指すという強い決意だけが燃え上がっていた。


柚が和人を思い、そっと潮見部屋を離れた日。晩のちゃんこが終わり潮見部屋の力士たちが大部屋へ戻る中、和人は心の中で静かな緊張感を抱えながら親方の部屋へと向かっていた。


「親方!佐藤です!」

和人は軽く緊張した声で挨拶をすると、すでにおかみさんも同席している部屋に案内された。

親方は真剣な表情で和人を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「佐藤、私が福岡のご実家に伺った時のことを覚えているか?」


和人はその瞬間、当時の記憶が鮮明に蘇った。親方が福岡まで自分を見に来てくれたあの日のことは、今でも忘れられない。

「親方…はい。入門する前の…あの時のことは、よく覚えています」

和人はしっかりと答えた。親方はその時も和人に目を見張るような期待をかけていた。そして今、その思いは変わっていないようだ。


「私はあの時おまえに相撲の大きな素質があると言った。その思いは今ますます大きくなってきている」

和人はその言葉を聞いて、胸が熱くなった。ずっと自分を信じてくれていた親方の期待が、今も揺るぎなく続いている。

「…ありがとうございます!……光栄です……!」

その声は震えそうなほど力強く、和人の胸に響いた。

親方はさらに真剣な眼差しで続ける。


「佐藤、秋場所で必ず新十両に上がるんだ!おまえならやれる!」

その力強い言葉は、和人にとって励まし以上のものだった。新十両昇進が目前に迫るこの時期、親方からの言葉は心の支えとなる。


「はい!……必ず!上がってみせます!」

和人は自分に強く誓い、決意を込めて答えた。

おかみさんも温かい笑顔で言葉を添える。

「親方がこんなに太鼓判を押すのは、めったにないことなのよ」

「…そ、そうなんですか?!」

和人は驚きながらも、その事実にさらに自分の責任を感じた。

「佐藤くん、おもいっきりぶつかっていくのよ。今のあなたなら、必ず結果を出せるわ」

「はい!今できることを精一杯やっていきます!」


和人は全身に力を込め、頷いた。親方もおかみさんも、和人の目の前に広がる新たな舞台への一歩を信じて静かに見守っている。和人はその視線を背負い、これから始まる大一番に向けて一層の覚悟を持つのだった。


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