第37話
4人がカフェで休憩していると、突然周囲に響き渡る泣き声が聞こえてきた。
「ん?何か泣き声がするね」
柚が気づき、周りを見渡した。
「どうしたんだろう…?」
和人も不安そうに周囲を確認する。
「ママ~、ママ~、どこ~、わああああん!」
小さな女の子の泣き声がますます大きくなる。
「あっ!迷子なんだ!」
柚が気づいて、すぐにその女の子に駆け寄った。
「こんにちは、お母さんいないの?」
柚が優しく声をかける。女の子は涙をぬぐいながら「ママとはぐれちゃったの…」と震えた声で答えた。
「そっか、じゃあ、迷子センターの人のところまで一緒に行こうか?ママを一緒に探してもらおう」
柚は女の子に寄り添うように提案する。
「かおりね、ママのことだいすきなの…」
女の子はか細い声でそう呟いた。
「そうなんだ、ママが大好きなんだね。きっとママもかおりちゃんのこと探してるよ!」
柚は優しく笑いかけた。その時、和人が膝を曲げて座り、かおりと目線を合わせた。
「そうかあ、かおりちゃんっていうのかあ。お兄ちゃんたちがママを探してあげるからね、心配しないで」
和人の優しい声に、かおりは表情を和らげた。柚は微笑んで和人を見つめた。
和人はかおりの手を優しく握り、安心させようとした。
「ほんとう…?」
かおりは涙を拭きながら和人を見つめた。
「うん、大丈夫だよ。心配いらないよ!」
柚も続けて元気に答えた。
「ねえ、おねえちゃん、おにいちゃんはおすもうさんなの?」
かおりは好奇心に満ちた瞳で和人を見上げた。
「うん!そうだよ!和人くんはすっごく強くて、勇敢なお相撲さんなんだよ!」
柚が誇らしげに答えると、かおりの目がさらに輝いた。
「わあい!おすもうさん!」
かおりは目をキラキラさせて笑顔になり、すっかり機嫌が良くなったようだった。
「よし、それじゃあ、迷子センターに行こうか」
和人が立ち上がり、柚たちもかおりを囲んで一緒に迷子センターへと向かうことになった。
かおりちゃんを迷子センターに連れて行く途中、4人はかおりの手を引きながら、和気あいあいと過ごしていた。かおりの涙もすっかり乾いて、もう笑顔になっている。
「ふふ、かおりちゃん、もう大丈夫だね!」
柚が優しく声をかけたその時、突然4人の目の前に一人の女性が駆け寄ってきた。
「あっ!あの人、お母さんじゃない?」
「かおり!」
女性が叫び、かおりもすぐに反応した。
「ママ~!」
かおりは一目散にお母さんに駆け寄り、二人はしっかりと抱き合った。
「よかったぁ…」
柚はほっと安堵の表情を浮かべ、和人もにっこりと笑顔を見せた。
「かおりちゃん、よかったね!」
柚が優しく声をかけると、和人も続けた。
「良かったね、すぐ見つかって本当に安心したよ」
「みなさん、本当にありがとうございました。どう感謝していいか…」
お母さんは何度も頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「いえいえ、大丈夫です!かおりちゃん、またね!」
柚が笑顔で手を振ると、かおりも満面の笑みで応じた。
「ママ~、このおにいちゃん、おすもうさんなんだよ~」
かおりは誇らしげに和人のことをお母さんに伝えた。和人は膝を曲げてかおりと目線を合わせた。
「かおりちゃん、もうママとはぐれないように気をつけてね」
和人はかおりに優しく声を掛けながら、かおりの頭を撫でた。
「ばいばーい!」
かおりは和人や柚に向かって元気に手を振りながら、お母さんと一緒に歩き出した。
「お兄ちゃんのお相撲、応援してね!」
和人が後ろから声をかけると、かおりはさらに大きく手を振って、
「ばいばーい!おにいちゃん、おねえちゃん!」
と元気に返した。
「見つかってよかったね」
柚はほっとした表情を浮かべながら、かおりたちが去っていくのを見送った。
お母さんは最後にもう一度深々と頭を下げ、かおりの手をしっかり握って帰っていった。
「うん、よかった」
和人も静かに頷いた。少しの間静かにかおりたちを見送った後、柚がふと微笑んで言った。
「和人くん、小さい子の相手すごく上手だね?」
「うん、親方とおかみさんがね、ちびっこたちも大事な相撲ファンだから大切にしなさいっていつも言ってくれてるんだ」
「そうなんだ!確かにそうだね。かおりちゃんもこれできっと和人くんのこと応援してくれるよ!」
柚は嬉しそうに笑い、和人も照れながら頷いた。
「うん、そうだね。次に会う時はもっと強くなった姿を見せられるように頑張らないとね」
和人は決意を込めて言った。
「こんど、両国第二小学校へ部屋のみんなで行くんだ。体育の特別授業をすることになってね」
和人がふと、嬉しそうに話を切り出した。
「え!小学校でお相撲さんが特別授業?!それって、すっごく喜んでもらえそうだね!」
柚は目を輝かせながら驚いた。
「うん、子どもたちも楽しみにしてるみたいだよ。体育の授業で相撲を教えるんだけど、基本の四股踏みや、ちょっとした取組なんかもやる予定なんだ」
和人がそう説明すると、翠と樹も興味津々な表情で感心した。
「お相撲さんが直接教える授業って、なんかすごいなあ」
樹が言い、翠もすぐに続けた。
「ほんと、すごいね!子どもたち、きっと大喜びするよね!」
「俺たち力士も、直接子どもたちと触れ合える機会って貴重なんだ。相撲の魅力を伝えられるのが楽しみだし、なにより元気な子どもたちと一緒に過ごせるのが嬉しい」
和人は照れながらも、嬉しそうに笑った。
「和人くん、絶対に良い授業になるよ!みんなに相撲の面白さを伝えられるといいね!」
柚は笑顔でエールを送る。
「ありがとう、柚ちゃん。頑張ってくるよ」
和人はその言葉に力をもらい、改めて意気込んだ様子だった。
「翠も樹くんも、特別授業を今度一緒に見に行かない?」
柚が誘うと、樹もすぐに答えた。
「それはいいね!見学できたら面白そうだなあ!」
「うん、ぜひ見に行きたいな!」
翠も同意して、みんなで和やかに会話が続いていった。




