第32話
柚たちは和人の一番が終わった後、国技館の外で和人を待っていた。柚は心の中でずっと和人の姿を思い浮かべ、悔しさを強く感じていた。しばらくして和人が出てきたのを見つけると、柚は真っ先に声をかけた。
「和人くん!お疲れさま!」
和人はうつむきながら、柚の顔を見て微笑んだ。
「柚ちゃん…ありがとう。でも、悔しいなあ」
「そうだね。でも惜しかったよ!ほんとに!」
柚も和人の気持ちを感じ取り、励まそうと声をかけるが、和人の表情はまだ固かった。
「もっと稽古を積んで、はたきこみにも反応しないと。やっぱり俺、まだまだだな」
和人は拳を握りしめながら、自分に言い聞かせるように話した。柚はその姿を見てじっとしていられず、目元をぬぐった。
「ぐすっ…和人くん…」
和人が顔を上げると、柚が涙をこらえているのに気づいた。
「え、柚ちゃん…泣いてるの?」
「ううん、泣いてないよ!でも、やっぱり悔しいよね…」
「柚ちゃん…俺のために泣いてくれてありがとう」
その時、和人がふと周りを見渡して柚の友達に気づいた。
「あれ、柚ちゃん、そちらの二人は?」
翠と樹が軽く会釈をし、柚が慌てて紹介する。
「あっ、友達の翠と樹くんだよ。一緒に応援に来てくれたの!」
和人は照れながら頭を下げた。
「そうなんですか。柚ちゃんの友達なんですね。はじめまして。佐藤和人です」
「はじめまして。羽田野樹です。取組、すごかったです!かっこよかった!」
「はじめまして。瀬川翠です。よろしくお願いします!」
翠も笑顔で挨拶する。
「柚ちゃん、すごい迫力だったよね!」
「うん!あのぶつかり合い、ものすごかった!」
二人とも大相撲の迫力に感動した様子だった。柚は自分のことで一生懸命で気づかなかったが、翠と樹の二人もかなり声を出して応援してくれていたようだ。
「初めて大相撲を生で観たけど、やっぱりすごいなあ…」
樹がしみじみと感想を述べると、和人は照れくさそうに笑った。
「生で観ると、やっぱり違うでしょ?」
「うん!和人くん、すごかった!」
「柚は今観光案内所で働いてるから、大相撲のことも詳しくないといけないんだよね?」
樹がふと話を振ると柚は頷いた。元々祖父、清志の影響で大相撲は馴染みのあるスポーツだった。小さい頃から生活の中に相撲があった。
「柚ちゃん、そうなんだ。たいへんねぇ」
「そうでもないよ!もともと好きだからね。それに大相撲、楽しいし、興味を持ってもらえるのは嬉しいことだよ!」
柚は笑顔で返し、和人もその姿にほっとしたように微笑んだ。
「じゃあ、僕はちょっとこれから親方のところに行くから…みなさん、またね」
和人は深呼吸をして、もう一度顔を上げた。
「はぁい!お疲れさま!またね!」
柚と翠、樹は手を振りながら、和人を見送ったのだった。




