第3話
全国中学校相撲大会がいよいよ8月に迫っていた。今年の大会は福岡県で開催されるため、和人たち南中学校の相撲部員たちは特別な思いを抱いていた。去年先輩たちは準々決勝で敗退してしまった。その悔しい敗退を乗り越え、今年こそは優勝するという強い決意を持っていく。
大会直前の稽古が終わり仲間たちと土俵を後にする和人。汗を拭いながら同級生の崇が和人に声をかけた。
「和人、今年こそは絶対に優勝するぞ!福岡代表としてここで勝たなきゃ何のためにこれまで頑張ってきたか分からないからな」
崇の言葉に和人は力強くうなずいた。
「ああ、俺たちはこの1年ずっとそのために稽古してきたんだ。今年こそ必ず先輩たちの悔しさを晴らして優勝旗を持ち帰るぞ」
それを聞いていた同じく3年生の優太が興奮気味に言葉を続けた。
「去年の準々決勝、俺たちもベンチで見てただろ?あの悔しさは今でも忘れられないよ。今年は絶対にあんな思いをしないようにみんなで一丸となって戦おう!」
「そうだ、俺たちはもう一度あの土俵に立つために努力してきたんだ。今年は福岡で開催されるんだから地元の誇りをかけて絶対に勝つ!俺たちの力を信じて全力でぶつかろう!」
崇と優太は和人の言葉に勇気をもらい、さらにやる気をみなぎらせた。
「和人がキャプテンで良かったよ。お前の言葉を聞くと自然とやる気が湧いてくるんだ」
崇の言葉に和人は少し照れくさそうに笑ったが、真剣な眼差しで二人を見つめた。
「ありがとう。でも俺一人じゃ勝てない。俺たち全員が力を合わせてこそ優勝できるんだ。だからこそ全員で一つの目標に向かって頑張ろう」
「おう!」
崇と優太も力強く答えた。
福岡代表として彼らの覚悟は決まっていた。地元での開催という重圧もあるが、それが彼らの力を引き出していることは間違いなかった。和人たちは決戦の日に向けてさらに稽古に打ち込むことを誓い、互いに頑張ろうと拳を突き合わせた。
和人率いる南中学校は全国の舞台でもその実力を遺憾なく発揮し、次々とトーナメントを勝ち進んでいった。いよいよ準々決勝。去年先輩たちが敗北を喫した因縁の相手、石川県代表の松中学校との一戦が始まる。和人たちはこの対戦に特別な思いを抱いていた。
土俵の周りは緊張感に包まれ、選手たちの息遣いが聞こえるほど静まり返っている。和人は仲間たちと共に待機しながら最初の取組を見守っていた。先鋒として土俵に上がったのは崇だ。
「崇、頼んだぞ!」
和人が力強く声をかけると崇は短くうなずき、土俵に足を踏み入れた。
崇の心には去年の悔しさが鮮明に刻まれていた。先輩たちが敗れたこの舞台で自分がまず一勝を挙げることでチームに勢いをつける。それが崇の使命だ。
相手は松中学校の主将で昨年の対戦で先輩たちを破ったメンバーの一人。強敵を前に崇は一瞬緊張を感じたが、それ以上に闘志が燃え上がる。
互いに土俵に上がると緊迫した空気の中、崇は相手の目を見据えた。立花先生や先輩たちに教え込まれた、そして和人や優太たちと日々の稽古で鍛え上げてきた自分の相撲を取ればいい。
「はっけよい、のこった!」
審判の立ち合いのかけ声とともに崇は鋭く前に踏み込んだ。相手もまた素早い動きでぶつかり合う。最初の一瞬で両者の力と技術が拮抗しているのが感じ取れた。
(やっぱり強い…動きに隙が無い)
崇は相手の押しをかわしながら次の手を素早く考えた。相手は力で押し切ろうとするタイプだ。ここで無理に押し返そうとせず、少し引きながら間合いを調整し、相手の勢いを利用する作戦がいいだろう。
相手が再び強く押し込んできた瞬間、崇は素早く引きながら右手で相手のまわしを掴んだ。そしてその勢いを利用して一気に体を回し、相手を引き落としにかかった。
相手は崇が引いたことで一瞬力が抜けた。
(今だ!)
相手がバランスを崩したその瞬間、崇はさらに力を込めて引き寄せ、相手の足をすくうように動いた。相手の体が崩れるのを感じた瞬間、崇は土俵際まで押し込んでいった。
最後の力を振り絞り、相手を土俵の外へ押し出した。相手は必死に踏ん張ろうとしたが、体勢が一度崩れていて崇の勢いを止めることはできなかった。
「勝った…!」
崇は勝利の実感を噛み締めながら土俵に立ち尽くした。審判が手を上げて崇の勝利を宣言すると、南中学校の応援団から歓声が上がった。和人や優太も崇の勝利に拳を握りしめて喜んだ。
崇は土俵を下りると仲間たちに囲まれながら深く息をついた。和人に目を向けると、彼もまた強い決意を込めた眼差しで頷いていた。
崇の勝利に沸く南中学校のメンバーたち。しかしすぐに次の取組に集中しなければならない。中堅として土俵に立つのは優太だ。彼の相手は春の大会で個人戦準優勝を果たした強者。松中学校の切り札とも言える相手に優太は緊張を隠せずにいた。
「優太、いよいよお前の番だ。相手は確かに強いが同じ中学3年生だ。ひるまずに自分の力を信じて全力で向かっていけ」
立花先生の力強い言葉に優太は頷いた。そして和人や崇、チームメイトたちの視線を感じながら土俵へと向かった。




