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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
第5章 未来へ
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第28話

柚が家に帰り着くと、夕方のプロヴァンスはいつも通りの活気に包まれていた。店内には常連のお客さんたちの笑い声が響き、彼女はその温かい雰囲気にほっとする。


「ただいまー!」


元気に玄関を開けると、キッチンからお母さんの声が返ってきた。

「柚、おかえり」

「ゆず~、おかえり!」

姉の椿も家に続いている店の方から嬉しそうに顔を出す。

「すぐに着替えて、お店手伝うね」

「よろしくね~」


柚は二階の自分の部屋へ駆け上がり着替えて店に下りてきた。すると柚を待ち構えていたかのように椿がサンドイッチを差し出した。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ちょっとこれ食べてみてくれない?あたしの新作のサンドイッチ」

「うわー!美味しそう!何が入ってるのかな?いただきます!」

柚はすぐに一口かじり、考え込むように唸った。


「うーん…美味しいんだけど、なんかパンチが足りない気がする」

「そっか。マスタードもっときかせようかな?」

椿が返すと、柚は大きく頷きながら親指を立てる。


「うん、その方が美味しいかも!もっとアクセントが出て、常連さんにも喜ばれると思う!」

「実は常連さんからリクエストされて作ったんだ。よし、その線でいこう!」


椿が自信を持って答えると、ちょうどお母さんも笑顔でキッチンから出てきた。

「あら、例の新作ができたの?柚のアドバイスは的確だから助かるわね」


プロヴァンスの初代店主である祖父の清志も、孫娘たちの会話を横目で見ながらにこりと微笑んだ。

「お前たち二人とも、ありがとうな。ほんと、素晴らしい看板娘たちじゃ」



祖父の言葉に柚は照れくさそうに笑いながら、椿と肘でつつきあった。この雰囲気が大好きだ。店も。家族も。だからこそ自分の進路に悩んでいるのだ。


柚は心の中に抱えていた進路のことを話すタイミングを探していたが、なかなか切り出せずにいた。そんなある日、父親から声がかかった。


「店の休みの水曜日に、ちょっとみんなで話をしよう」

「うん…」


柚たち芝野家は食事の時間や休日など、よく集まって話をする仲のいい家族だ。特に店の休みの水曜は店のことや学校のこと、たわいのない話まで家族で話をすることが多かった。今回も椿の新作を含めた話をするのだろう。柚は進路について話すタイミングだとひそかに心を決めたのだった。


そして水曜日がやってきた。家族全員が集まる中、柚は自分の部屋で一人準備をしていた。


「なんて言おうかな…」

心の中で何度も言葉を反芻する。自分の考えがまとまっているつもりでも、いざ家族の前に立つと言葉が出てこないかもしれない。うまく話せないかもしれない。そんな不安が押し寄せてきた。

そこに、姉の椿が部屋を覗き込んできた。


「柚?何か話したいことがあるんでしょう?言いたいことを言いましょう。それがうちの家風なんだから」


その一言で柚は気持ちが楽になった。家族だからこそ、自分の思いを率直に伝えていいんだと勇気をもらったのだ。


「うん。お姉ちゃん、ありがとう」


リビングに降りると、父親が静かに言った。

「みんな集まったか。じゃあ始めよう」

柚は深呼吸して、小さく手を挙げる。

「はい!私から話してもいい?」

父親は頷き、ああと短く答えた。柚はドクンドクンと胸の鼓動を感じながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「私、お店のこと大好きだけど、大学に進学するのもいいかなと思ってるの。この両国って街のいいところを、もっとたくさんの人に知ってもらう仕事がしたいんだ」


少し言葉が震えたが、なんとか自分の思いを伝えることができた。父親は静かに頷きながら聞いている。


「なるほど。まずは柚の考えてることを知らないとな」

「観光とか、町の整備とか案内とか…そういう仕事を探せないかなって思って」

「柚、お母さんは先代の看板娘だったわ。でもね、お母さんは自分で選んでそうしたの。柚も椿も自分の好きな道を選んでいいのよ」

母親が優しく声をかける。

「うん。1度しかない人生だからな、自分の信じた道を進め」

父親もにこやかに微笑みながら頷く。柚は感謝の気持ちでいっぱいになり、深くお辞儀をした。

「お父さん、お母さん、話を聞いてくれてありがとう」

「親子だもの、遠慮はなしよ」

母親が言い、姉の椿も微笑んで言う。

「柚、そういうの向いてるかもね!」


柚は家族の支えを感じながら、自分の進む道を一歩踏み出せたと実感していた。ぼやけていた頭と胸の奥がすっきりと晴れてくる。自分のしたいこと…この街のためにできること…

柚は話を続ける家族を見つめながら考え続けていた。


家族会議は温かくも真剣な空気の中で続いていた。柚が自分の進路について話し終えると、父親がふと思い出したように言った。


「そういえば、佐藤くんか。よくプロヴァンスに来てる潮見部屋の子は、もう社会に出てるんだなあ」


その言葉に柚は和人のことを思い浮かべた。15歳で角界に入り、厳しい相撲の世界で奮闘している彼。まだ年齢こそ同じだが、もう自分とは違うステージに立っているのだ。


「そうだね…和人くんはもう社会人なんだよね…」


今まで若くして角界入りするお相撲さんたちはそういうものだと思い、何も考えていなかったが、自分の将来を意識するとその凄さをより実感し、感慨深くつぶやいた。


「この両国は相撲の街だから、そういう子もいるわねぇ」この両国で育ってきた母もそれを改めて思い出し頷いた。


15歳という若さで、大人たちの中で責任を背負いながら生きてきた和人。その姿が柚の心にしみるように浮かんできた。和人の頑張りを思い出しながら、柚も自分の進む道に向けて勇気をもらった気がした。


ふと柚は姉の椿に問いかけた。

「お姉ちゃん、明日は和人くんたち来るかな?」

椿はちょっとだけ考えて微笑みながら答える。

「来るかもしれないわね。木曜日か金曜日に来ることが多いから」

「ちょっと話してみようかな…」

柚は思わず口に出してしまう。和人の考えや、彼が相撲界で感じていることを聞いてみたい気持ちが膨らんできたのだ。柚の言葉に椿は軽く頷いた。

「いいんじゃない。なかなか聞けない話が聞けるかもしれないわ」


柚は和人とどんな話ができるだろうかと考えながら、これからの自分の道と彼の道が交差するような気がして胸が高鳴っていた。

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