第22話
九州場所が終わり、和人は再び潮見部屋での厳しい稽古の日々に戻っていた。故郷での勝利は和人にとって大きな自信となったが、力士としての道はまだ始まったばかりだ。ここからさらに成長し上を目指すためには、ひたすら稽古に打ち込むしかないのだ。
朝はまだ暗い時間帯に起床し、部屋の掃除や準備を済ませた後すぐに稽古が始まる。土俵の上では朝の冷たい空気が漂う中、力士たちの真剣な表情とともに稽古が進んでいく。
「さあ、今日も気合いを入れて稽古だ!」
親方の鋭い声が稽古場に響く。和人は春風や先輩力士たちとともに、まずは基本動作の四股を踏むところから始める。土俵の中央で力強く足を上げ、大地に打ちつける動作を繰り返すたび、和人の全身から汗が噴き出す。
「よし、次はぶつかり稽古だ!」
親方の号令がかかり、和人は胸を張って稽古相手の兄弟子と向き合った。
「押せ、押せ!もっと強く!相手に遠慮なんかするな!」
兄弟子の青の海が声を飛ばす。青の海は九州場所で好成績を挙げ、潮見部屋の2人目の関取に昇進していた。
和人は全力で兄弟子にぶつかり、何度も土俵から投げ飛ばされる。そのたびに衝撃が体全体に響き渡るが、和人はぐっと歯を食いしばりながら耐え、すぐに立ち上がる。
「くっ…もっと、もっとだ!」
体が重く呼吸が荒くなっていくが、和人は決して手を緩めない。稽古場には力士たちの掛け声やぶつかり合う音が絶えず響いている。
その後は三番稽古で、同じ相手と何番も激しい稽古が続く。和人は何度も土俵から弾き出され、投げ飛ばされた。それでももう一丁、もう一丁と相手に挑む。親方や兄弟子たちの厳しい視線が和人の動きを一つひとつ形作っている。
「おい、佐藤!まだまだそんなもんじゃないぞ!もっと自分を追い込め!」
「はい!」
和人は力強く返事をし、さらに自分を追い込んでいく。倒れても立ち上がり、何度も繰り返す。土俵上で何度もぶつかり合い、汗と砂まみれになっていくが、それが和人にとっては力士としての成長の証だった。
「もう一丁お願いします!」
和人は息を切らしながらも稽古に没頭した。兄弟子たちの強さに圧倒されながらも、少しずつ自分の技術が向上しているのを感じる。日々の厳しい稽古の中で、和人は一歩ずつ確実に力士としての道を歩んでいるのだった。
こうして、潮見部屋での稽古の日々が続いていた。
年が明け、1月の初場所と3月の大阪での春場所も終えて、潮見部屋の一行が東京に戻ってきて少し経ったある日のことだった。朝稽古が終わり、潮見部屋の力士たちは稽古場の隅で休憩をとっていた。和人も砂まみれの体を拭い、稽古の疲れを感じながら地べたに座り込んだ。息を整えながらふと隣に座っていた春風に話し始める。
「なあ、なにかおもしろいことないかなあ?来る日も来る日も稽古ばかりだよ…」
和人は少しうんざりしたように愚痴をこぼした。もちろん稽古は大事だとわかっているが、日々の厳しい鍛練に時折気が滅入ることもある。
すると春風はニヤリと笑って、和人に耳打ちするように言った。
「それならオレがいい店を知ってるぜ。ついてこいよ」
「えっ、どこだよ?」
和人は興味津々で聞き返す。
「行ったらわかるさ。まぁ、力士もリラックスが必要だろ?親方には内緒でな…」
春風は笑いながらウィンクしてみせた。
「稽古ばっかりじゃ体がもたないしな…ちょっとした息抜きもいいかも」
和人はワクワクしながら、春風の誘いに乗ることにした。




