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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
第3章 初土俵
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第21話

いよいよ九州場所が始まった。和人は胸を高鳴らせながら心を整えていた。自分の力を試される大事な機会がやってくる。

潮見部屋の仲間たちも、皆それぞれの緊張感が高まっている。稽古場での厳しい鍛練が今この本場所で試されるのだ。和人は深く息を吸い込みながら自分を落ち着かせた。


「よーし、いよいよ初めての九州場所だ!」

和人は力強く自分に言い聞かせ、気合を入れた。すると春風がにこやかに声をかけてきた。

「ご当所だな!がんばれよ!和人!」

「ありがとう、春風!」


九州場所が始まって8日目の中日、和人が土俵に立つその日は家族や仲間が見守る特別な日となった。

会場である福岡国際センターには、和人の両親、姉の美音、そして中学校時代の恩師である立花先生と、同級生だった崇と優太が応援に駆けつけていた。


「和人、頑張ってるのね」

母が興奮を抑えきれずに、笑顔で父に話しかけていた。父も誇らしげに頷く。

「ああ、我が息子がこの福岡の土俵に立つなんて、感慨深いな…」

和人の姉、美音は少し照れくさそうに言った。

「和人もここまで大きくなるなんて思わなかったわ。あの頃は小さかったのに、すっかり力士の風格が出てきたじゃない」

「ほんと。和人、がんばってきたもんね」

母も優しい目で応じる。


一方、立花先生は相撲部顧問として間近で指導してきた和人への、中学生だった頃とは違う、力士としての期待感で胸を膨らませている。

「和人ならきっとやってくれるはずだ。この舞台をずっと目指して頑張ってきたんだからな」

そんな立花先生の言葉に頷くのは、同級生の崇と優太。彼らも和人が相撲を続け、力士として大相撲の土俵に挑む姿を見られることに胸を躍らせていた。

「すげぇよな、和人。中学校の頃は一緒に相撲部でやってたのに、今じゃ大相撲の力士だもんなぁ」

崇が感心したように話すと、優太も興奮気味に頷く。

「ほんとだよ。まさか和人がここまで来るなんて、すごすぎる!俺たちの誇りだよな。絶対勝ってくれるはず!」

全員が観客席でわくわくしながら和人の取組を待っていた。


会場の福岡国際センターが静まり返る中、みな緊張感が高まっていた。観客席で見守る家族や友人たちの視線も土俵へと注がれている。和人が登場する瞬間を誰もが今か今かと待っていた。


「あっ、和人!」

母親がすぐにその姿を見つけ、感極まった声を漏らした。父親も目を細めて息子の立派な姿を見つめていた。


立花先生も和人の凛々しい姿に誇りを感じ、静かに見守っていた。同級生の崇と優太も友人が本当に力士として土俵に立つ姿を目の当たりにし、感動を隠せない。


和人は緊張と期待が入り混じる中、ふと観客席の方へ目をやった。そこには両親や姉の美音、立花先生、そして中学時代の友人である崇と優太がじっと自分を見つめているのが見えた。

母親は涙ぐみ、父親は誇らしげに頷いている。美音も感動した様子で微笑みながら弟を見つめ、立花先生は静かに頷いていた。崇と優太も熱い視線を送り、拳を握りしめながら応援していた。

その姿を見た和人は心の中で、みんなが応援してくれている…頑張ろうと改めて決意を固め、小さく頷いた。


そして会場に呼び出しの声が響いた。

「ひが~し~、さ~とう~、さ~と~う~」

ついに和人の名が呼ばれた。和人は緊張の中に力強い決意を込めて、土俵に歩み出る。

「うしっ!」

自分に気合を入れ、土俵に上がった。

「に~し~、まつの~や~ま~、まつの~や~ま~」

対戦相手の松之山も土俵に登場。和人より少し年上で、これまでにも本場所の取組で何度か顔を合わせたことがある強敵だ。


「はっけよーい!」

行司の声が響き、和人は一瞬にして深く集中した。

「のこった!」


取組が始まった瞬間、和人は勢いよく前に出て松之山にぶつかりながら押し込んだ。だが松之山もただでは終わらない。素早く身をかわし、和人の押しを受け流す。何度も対戦した相手だ。お互いの動きはある程度読める。


「ぐっ…!」


和人は必死に体勢を立て直し、相手に向かってもう一度当たりにいく。だが松之山は巧妙に和人の動きを読んでおり、また和人の攻めをかわし、土俵際まで追い込む。


(ここで負けるわけにはいかないんだ…!)


和人は土俵の端で必死に踏ん張りながら、素早く身を回転させて松之山の後ろに回り込んだ。そしてそのまま相手のまわしをがっちり掴み、強烈な力を込めて引き寄せた。


「ぐっ…!」


松之山も最後の抵抗を試みるが、和人の勢いに押され、とうとう土俵を割った。和人が勝ったのだ。


「さと~う~」


行司の勝ち名乗りの声が響き渡った。和人の福岡での勝利に観客席から大きな歓声が沸き上がる。家族や仲間たちの姿が和人の目に飛び込んできた。両親は大喜びし、母は涙をこらえきれないまま笑顔を浮かべていた。

和人は土俵を降りると、心の中で勝利の喜びと感謝を噛みしめた。


和人の取組が終わり勝利を掴んだ瞬間、両親は会場で大喜びしていた。母は感極まって声を上げ、父は嬉しさを噛みしめながら涙を流していた。

「やった!!!」

「お父さん!!やった!」

「やったな!うっ…」

父親は泣きながら言葉を詰まらせた。

館内では、和人の勝利に対する拍手が沸き上がり、観客席全体が祝福ムードに包まれていた。


一方、和人は土俵から支度部屋へ戻り、そこで潮見親方や兄弟子たちから祝福を受けていた。


「佐藤!頑張ったな!」

親方が声をかける。

「はい!親方!」

和人は喜びを噛みしめながら返事をする。親方は和人の肩を軽く叩き、にっこりと笑った。


「ご両親が観に来ているんだろう?顔を見せてこい。今日の勝利を一緒に喜んでくれるはずだ」

「はい!」


和人は元気よく返事をし、急いで会場の外に向かった。会場の外では、和人の両親が息子の姿を待ちわびていた。そして和人が姿を現すと、母は涙を流しながら駆け寄った。


「和人!」

「お母さん!お父さん!」

和人は感極まって両親に声をかけた。父親は和人をじっと見つめ、感動した様子で言った。

「よく頑張ったな…!」

「これからも、ずっと応援してるからね!」

「うん!頑張るからね!」


和人が力強く答えると、母親は感情が溢れて少しだけ大きくなった息子をぎゅっと抱きしめた。

和人も優しく抱き返し、今まで支えてくれた家族への感謝の気持ちをしっかりと伝えた。


彼の勝利は和人自身だけでなく、家族や仲間たちにとっても大きな節目となった。和人の力士としての歩みはまだ始まったばかりだ。

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