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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
第3章 初土俵
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第17話

和人は入門し稽古に没頭する日々を過ごしていた。4月の朝、和人は親方とともに両国国技館へ向かう準備をしていた。今日は新弟子検査を受ける日だ。これに合格すれば晴れて正式に力士として認められる重要なステップとなる。


「行くぞ、佐藤」

親方が声をかけ、和人は緊張しながらも頷いた。

「はい!お願いします!」


両国国技館に向かう道中、和人は自分の未来に思いを馳せていた。緊張で強張った顔の和人を見て、

「そんなに緊張しなくてもいい」

親方が静かに励ますように言った。

「はい」

和人は力強く返事をした。


両国国技館に到着するとすでに多くの他の部屋の新弟子たちが集まっていた。皆が真剣な表情でそれぞれの思いを抱えていることが和人にも伝わってきた。国技館の大きな門をくぐるとその歴史ある空間に自然と気が引き締まる。


「ここが両国国技館か…」


和人は目の前に広がる大きな建物を見上げ、息を呑んだ。両国国技館の中に入るのは初めてだ。


「ここで新弟子検査を受け、合格すればお前も正式な力士となる。だが今日の検査が全てではない。その後の稽古が本当の試練だ」

「はい!」

和人は緊張しながらも気合を入れ直し、親方と共に検査会場へ向かった。


国技館の中に入ると、検査を控えた新弟子たちが次々と体格検査や健康診断を受けている様子が見える。和人もその列に並び、自分の番が来るのを待っていた。手に汗を握りしめ、心臓が高鳴る。


「体格検査、合格は身長167cm以上、体重67kg以上。次は潮見部屋、佐藤和人!」


検査員が名前を呼ぶと、和人は大きく息を吸い込んで前に進んだ。

「いよいよだ…」

親方は少し離れたところから静かに見守っていた。


「175㎝、80kg、以上!」


身体検査と健康診断を無事に終えた和人は検査官からの合格の言葉を聞き、ほっと胸をなで下ろした。身長や体重、健康状態に不安はなかったものの、やはりこの瞬間が近づくにつれ緊張が高まっていたのだ。正式に相撲協会に登録され、晴れて力士としての第一歩を踏み出せたという実感がようやく和人の心に広がっていった。


「合格おめでとう、佐藤」

新弟子検査からの帰り道、親方が静かに微笑んで言った。

「ありがとうございます!」


新弟子検査に合格したものの、和人はすぐに気を引き締め直した。これで終わりではない。むしろここからが本当の戦いの始まりだ。次は初土俵となる前相撲が待っている。


前相撲で勝ち抜けることができなければ、正式な力士として番付に名前が載ることはない。これは新弟子にとって最初の試練の場であり、和人にとっても重要な試練だ。


5月の夏場所3日目、両国国技館の空気は独特な緊張感に包まれていた。和人の心は高鳴り、全身に汗が滲む。


「和人、頑張ろうぜ!」

「ああ、春風!」

これから前相撲に臨む二人の意気は高らかだった。


土俵に向かう途中、潮見部屋の仲間たちの視線が和人に注がれているのを感じた。


皆が見守っている。親方や兄弟子たち、同期の春風、そしておかみさんも。そしてこれまで和人を支えてくれた両親や姉の美音の顔も思い浮かんだ。


「よし、絶対に勝つんだ…これが俺の第一歩だ」


和人は心の中で自分に言い聞かせ、土俵に向かう足を一歩ずつ踏み出した。


最初の相手は和人と同じ15歳の少年だった。体格はほぼ同じだ。和人と同様、体もまだ発展途上だがその目には闘志が宿っている。互いに見据えたその瞬間、和人は激しい闘志を感じた。


「はっけよい!のこった!」


行司の声が響き、取組が始まった。和人はすぐに前に出た。相手も同時に体をぶつけてきて土俵の真ん中で激しくぶつかり合う。土俵の砂が舞い上がり、観客の息を呑むような音が聞こえる。


「くっ…!」


和人は全力で押し込もうとするが、相手も負けじと押し返してくる。互いに力を込め、体がぶつかり合う音が響き渡った。和人は相手のまわしを掴もうと手を伸ばすが、相手はその手を払い、素早く体を低くして攻め込んできた。


「ぐっ…!」


和人は踏ん張って耐えたが、相手の押しが強い。土俵際までじりじりと追い込まれる。しかしここで諦めるわけにはいかない。和人は体のバランスを保ちながら、相手が一瞬力を緩めたその隙を見逃さなかった。


「今だ!」


和人は瞬時に身を翻し、相手の動きを利用して逆に押し返した。勢いを取り戻した和人はまわしを両手で掴むことに成功する。


「よし…このまま!」


和人は全身の力を振り絞り、相手を土俵際まで追い込み寄っていく。相手は必死に耐えようとするが、和人の勢いを止めることはできなかった。和人は勝利を確信し、相手を土俵外に寄り切った。


「勝負あり!」


行司の声が響く。和人は息を切らしながら立ち尽くした。初勝利を挙げた瞬間、潮見部屋の仲間たちから大きな拍手が沸き上がった。


「さと~う~」行司の勝ち名乗りを受ける。

「やった…!」


和人は土俵を降りながら自分が力士としての一歩を踏み出したことを実感した。しかしまだ終わりではない。前相撲は3勝するまで続く。


次の一番では春風も前相撲の初勝利をつかんでいた。

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