第14話
和人は南浜の言葉に促されて潮見部屋の厨房に向かった。扉を開けるとすでに厨房は活気に満ちており、大きな鍋の中でちゃんこがぐつぐつと煮立っていた。部屋全体に広がる香りに和人は思わず深く息を吸い込んだ。
「よ~し、今日もちゃんこ作るぞ~!」
力強い声が厨房の奥から響いてきた。声の主はちゃんこ長の阿蘇桜。力士としてもベテランの彼が厨房を取り仕切っていた。
「あっ、こ、こんにちは!」
和人は緊張しながら挨拶した。
「おっ、新弟子だな」
阿蘇桜は大きな笑顔で和人を迎えた。
おかみさんが和人の背中を軽く押し、
「ちゃんこ作りをちょっと見せてもらうといいわよ」
と和やかに促した。
和人は頷き、
「はい!佐藤和人です!よろしくお願いいたします!見学させてください!」
「おお。力士にとってはなんといっても食は大事だからな」
阿蘇桜が鍋をかき混ぜながら答えた。
「大きな体の秘密がここにあるんですね…」
「そうだな。今日のちゃんこは豚の塩炊きちゃんこだ」
阿蘇桜がにっこりと鍋を見せながら説明した。
「うわー!すごくいい匂いだなぁ…おいしそう…」
和人は思わずお腹が鳴りそうになった。
「それだけじゃない。サイドメニューに、鯖のみそ煮、金目鯛の刺身、大根の煮物、ほうれんそうのおひたしがついてくるんだ」
阿蘇桜が次々に豪華な料理を指さしながら言った。
「そ、そんなに!!全部おいしそう…」
「これを食べて稽古して、みんな強くなるのさ」
阿蘇桜が誇らしげに言った。和人は食事の重要さに気づき、
「栄養を考えて作られてるんですね…」
「そうさ。おかみさんが栄養士の資格を持っているから、しっかりとみんなの健康を支えてくれるんだ」
「そうなんですね!さすがだなぁ…みんなで支え合ってるんですね!」
和人は相撲部屋での生活が、仲間の力士たちやおかみさんを含めた多くの人の支えによって成り立っていることに気づき、感動した。まだ潮見部屋に到着して間もないが、初めて知ることばかりで和人は目をきらきらさせながらその光景を見つめていた。
夕方、潮見部屋には夕食の準備が整い、力士たちが次々とちゃんこの香りに誘われて集まってきていた。和人は厨房での作業を見学しながら、潮見部屋の一員としての自覚を少しずつ感じ始めていた。
その時、玄関の方から重々しい声が響いた。
「ただいま~」
「親方、おかえりなさいませ」
おかみさんがすぐに出迎えた。和人は緊張しながら親方が帰ってきたことに気づき、すぐに姿勢を正した。
「あっ!親方!こんにちは!」和人は大きな声で挨拶した。
親方は和人を見て、にっこりと笑みを浮かべた。
「おっ、無事に着いたか。良かった良かった」
「はい!これから頑張ります!よろしくお願いします!」
「うむ。それじゃあちゃんこの前に皆に正式に紹介しよう」
親方は頷きながら、他の力士たちが集まる方へと和人を促した。
和人は親方に従って大部屋へ向かった。力士たちが集まる中、親方は和人の肩を軽く叩きながら皆に向かって言葉を投げかけた。
「みんな、今日からこの潮見部屋に入門した佐藤和人だ。これからはみんなと共に頑張っていくからよろしくな」
「佐藤和人です!よろしくお願いします!」
和人はしっかりと頭を下げ、力士たちに挨拶をした。親方は微笑んで、
「入門したからこれからは『佐藤』と呼ぶからな」
「はい!」
和人は再び大きく返事をした。兄弟子たちはみんな気さくに話しかけてくれる。この潮見部屋の一体感を肌で感じていた。
夕食の時間が近づき力士たちが集まる中で、和人は新しい仲間たちと共に歩み始めた。これからの道のりは険しいが、和人は心の中で決意を新たにしていた。




