第13話
和人がロッカーに荷物をしまい終えると、ふと階段の方から大きな声が聞こえてきた。
「あ~、よく寝た!おかみさん、お客さんですか?」
和人がそちらに視線を向けると、先輩力士たちが昼寝から起きてきたようだ。おかみさんは和人を紹介するために笑顔で答えた。
「ええ。佐藤くんよ!新弟子で今日から入門するの」
すると力士の一人が和人に向かって歩いてきた。大きな体格と堂々とした雰囲気をまとったその力士は和人に話し始めた。
「新弟子か。オレは青の海っていうんだ。よろしくな」 和人はすぐに頭を下げ、緊張しながらもハキハキと答えた。
「よろしくお願いします!佐藤和人です!」
青の海は軽く頷きながら和人の方を見つめ、にっこり笑った。
「福岡から来たんだってな。オレは宮崎出身で九州の先輩だ。お互い頑張ろうぜ」
「そうなんですね!すごく心強いです!」
と和人はその言葉に安心した表情を見せた。福岡から宮崎は遠いが、九州出身というだけで心強い。
そのあとに続いて他の力士たちも次々と下りてきて、稽古の疲れを感じさせるような声が飛び交った。
「あ~、今日の稽古はきつかったな~」
和人は驚きながらその大きな力士たちを見つめた。
「うわー!すごい!…テレビで見た力士たちだ…」
青の海は和人の反応に軽く笑い、
「おっ、みんな起きてきたな。挨拶しろよ」
と促した。和人は緊張しながらも一生懸命声を出して挨拶した。
「は、はじめまして!佐藤和人です!よろしくお願いします!」
力士たちは和人の姿を見て一人が笑顔で言った。
「おっ、新弟子だな。よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
和人は再び頭を下げ、緊張しながら力士たちの大きな存在感に圧倒されていた。
青の海が再び口を開いた。
「もうすぐうちの部屋の唯一の関取、南浜関が起きてくるぞ。この部屋で一番偉い力士だ」
「そ、そうなんですね!うわー緊張するなぁ…」
和人は思わず小さな声でつぶやいた。
「相撲界では番付がすべてだ。上に行けば行くほど責任も重くなるが、得られるものも大きい。結果が全てだ」
青の海は真剣な表情で和人に語りかけた。
「そうですよね…結果の世界…」
和人もその言葉の重さを感じ、さらに身を引き締めた。
「それに関取には付け人がつくんだ。お前もいつかはそういう立場を目指して頑張れよ」
「はい!僕、頑張ります!」
和人の威勢の良さに、青の海をはじめ、おかみさんや先輩力士たちも頷きながら肩を叩いた。
潮見部屋の大部屋で兄弟子たちとの挨拶を終え、和人がほっとしていると廊下から大きなあくびが聞こえてきた。目を向けると、潮見部屋の唯一の関取である南浜がゆっくりと起きてきたところだった。
彼の姿は一目でわかるほどの貫禄を漂わせており、その体格は和人がこれまで見てきたどの力士よりも圧倒的に大きかった。
「ふわぁ~、よく寝た~」
南浜はのんびりとした口調で言いながら、ゆったりとした足取りで大部屋に入ってきた。和人はその姿を見て思わず声が漏れた。
「うわ…すごく大きい…」
南浜の体はまさに相撲の神髄を体現しているような大きさと迫力だ。
「南浜関、どこか出かけますか?」
付け人である青の海がすぐに南浜に声をかける。
南浜は和人に気づき、優しげに目を細めて笑いながら近づいてきた。
「いや、まだいいぞ。おっ、君は新弟子か?親方は厳しいぞ~」
と穏やかな調子で笑顔で和人に声をかけた。和人は話しかけられたことに一瞬驚いたものの、すぐに深々と頭を下げた。
「はじめまして!佐藤和人です!よろしくお願いいたします!」
と元気よく挨拶した。南浜は頷きながら和人を見つめ、
「おお、よろしくな。これから厳しい稽古が待っているが、頑張れよ。体もでかくなるぞ」
と温かい言葉をかけた。
その優しさの裏には相撲の世界の厳しさも垣間見え、和人は背筋が伸びる思いだった。南浜は若手を育てる厳しさと励ます優しさを持ち合わせており、部屋での尊敬を一身に集めているのがよくわかった。
「じゃあこれから厨房を見るといいな。もうちゃんこ作りが始まっているかもしれないぞ」
南浜は和人に声をかけ、部屋の奥を指さした。
「ちゃんこですか?!たしかにいい匂いがしてきました…」
「ちゃんこは力士にとって大切なものだ。稽古も大事だが、しっかり食べて体をつくることも同じくらい大事だぞ」
和人は大きく頷き、
「はい!しっかり食べて、稽古も頑張ります!」
初々しい和人の姿に、南浜も自然と顔が綻んだ。




