第12話
羽田空港に降り立った和人は緊張した様子で周囲を見渡していた。そこに、姉の美音が笑顔で手を振りながら近づいてきた。
「和人、体がものすごく大きくなったわね~」
美音を見つけて和人もほっとしてかけ寄った。
美音が感心したように言うと、和人は大きな声で笑いながら答えた。
「姉ちゃん!ありがとう!…でもさ、姉ちゃん、ふけたー?」
「もう!あんたは変わってないわね~」
美音は笑いながら軽く和人の肩を叩いた。
「うそうそ!姉ちゃん、迎えに来てくれてありがとう。俺、頑張るから!」
「うん。頑張るのよ!私はいつでも応援してるから」
「うん!」
和人は力強く頷き、ふと時計を見て少し焦ったように言った。
「あっ、早く部屋に行かなきゃ!」
「潮見部屋はたしか両国だったわよね。人が多いから気をつけなさいね」
「うん!…姉ちゃん、一緒に行こうよ…」
和人は甘えるようにお願いした。
「はじめは肝心なのよ。でもまあ…15歳だもんね、しかたない。一緒に行くか」
「お土産も買ってきたよ!」
和人の手には両親が持たせてくれた「とおりもん」と「明太子」が握られていた。
「よし、それじゃあ行こう!」
美音は和人の背中を軽く押して、二人は潮見部屋へ向かうために歩き出した。
和人と美音は羽田空港から電車に乗り、両国へと向かった。電車の中では美音が和人にこれからのことを話しながら、緊張している弟を励ましていた。
「大丈夫よ、和人。最初は緊張するかもしれないけど、みんな温かく迎えてくれるわ。頑張りなさいね」
和人は頷きながらも、ふと外を見た。和人が住む福岡の田舎とはまるで世界が違うような東京の景色。ドクドクと胸が強く鼓動する。
両国に到着し、二人は潮見部屋に向かって歩き出した。古い建物が立ち並ぶ中、きょろきょろと辺りを見渡しながら美音と並んで歩く。
相撲をやっている者にとって両国は聖地のようなものだ。
緊張しながら和人は足を進めた。やがて潮見部屋の前にたどり着いた。
「ここか…」
和人は大きな木の扉の前で立ち止まり、緊張して固まっていた。そんな弟を美音が笑顔で見つめ、軽く手を叩いた。
「じゃあ和人、ごめんくださいって言うのよ」
和人は美音の励ましに軽く頷き、深呼吸をしてドアに向かって声をかけた。
「ごめんください!」
すると、奥からおかみさんが姿を見せた。
「あら、お客さんかしら?」
おかみさんが出てくると、和人は緊張しながら挨拶をした。
「こんにちは!」
「こんにちは。あら、もしかして新弟子の佐藤くんかしら?」
おかみさんは笑顔で和人を見つめている。和人は再び深呼吸をし、大きな声で答えた。
「はい!佐藤和人です!よろしくお願いします!」
「よろしくね。どうぞ上がって。そちらはお姉さんね。聞いているわ。ふたりともどうぞ」
おかみさんは美音にも優しく微笑んだ。
「はい!失礼します」
「はじめまして。よろしくお願いします」
「はい、お姉さんもよろしくね」
おかみさんは二人を中に招き入れながら、和人の緊張した表情に気づいた。
「あー…緊張する…」
和人は小さな声でつぶやいた。
おかみさんは優しく笑って、
「今は昼下がりだから力士たちは昼寝から起きる頃よ。みんなに紹介するのはその後ね」
「そ、そうなんですね!」
和人は安心したように改めて大きく息をついた。美音も弟の様子を見て、ほっとしたように微笑んだ。
潮見部屋に足を踏み入れた和人と美音は、おかみさんの案内で相撲部屋の内部を見学した。広々とした稽古場。そして上の階には大部屋があるそうだ。
「親方は出かけているけど、夜には戻るわ」
おかみさんが笑顔で説明してくれた。
「ぼ、僕はどうしてたらいいんですか…?」
「そうね、まずは部屋に慣れてもらうことが一番ね」
「荷物、置かせてもらっても…いいですか?」
と和人が控えめに聞くと、おかみさんはすぐに頷いた。
「もちろん大丈夫よ。ただ関取になるまでは自分の個室というのはないのよ」
「そうなんですね」
「そう、大部屋でみんな一緒に集団生活を送るのよ。うちの部屋では鍵のかかる小さめのロッカーがあるけどね」
おかみさんは指さしながら、和人にロッカーの場所を教えた。
「わー、そうなんですねー」
和人と一緒に内部を見学させてもらっていた美音も驚いたように声を上げた。
「あっ、貴重品はそこに入れたらいいんですね?」
「そうよ。じゃあこの鍵があなたのロッカーのものよ」
おかみさんは手渡した小さな鍵を和人に差し出した。
「ありがとうございます!」
和人は鍵を大切そうに受け取り、すぐに自分のロッカーへ向かった。ロッカーを開け、荷物の一部を中に入れた。
美音も和人の姿を見て微笑み、
「和人、これから大変なこともあるだろうけど、頑張りなさいね」
と励ましの言葉をかけ、美音はこのあとアルバイトがあるため先に部屋をあとにした。




