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あなたの打ち込んできたものはなんですか?  作者: 共作 群青の海 シエリ
第1章 相撲少年
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第10話

和人が潮見部屋に入門することを決めてから半年が経った。高校に進学せずに相撲部屋へ入門することを姉の美音をはじめ、担任の先生や相撲部の顧問である立花先生に報告するとかなり驚かれたものの、みんな応援してくれた。


季節は移り変わり、桜のつぼみが少しずつふくらみ始める頃、和人の中学校の卒業式が行われた。卒業式は和やかで、友人たちと別れを惜しむ姿があちこちで見られたが、和人の心にはこれから始まる新たな挑戦への決意が宿っていた。


卒業式が終わると相撲部のメンバーとその保護者たちが学校の稽古場に集まった。和人の両親も他の保護者たちと一緒に何も聞かされていない状態で集まっていたため、少しの戸惑いと期待の混じった表情をしていた。


「何が始まるんだろうね?」

「母さんも聞いていないのか…。みんなのことだから、何かサプライズでも用意してるのかもな」



保護者たちがざわつきながら待っていると、相撲部の顧問である立花先生が前に立ち、集まった皆に向かって話し始めた。


「今日は卒業生である相撲部員たちから特別な会を用意しました」


その言葉に和人の両親をはじめ、保護者たちはじっと土俵を見つめた。


立花先生の言葉が終わると、相撲部のメンバーが一斉に土俵の上に整列した。その姿に、保護者たちはわぁ…と期待に満ちた表情で静かに見守っていた。稽古場に集まる家族や友人たちの視線が一斉に相撲部員たちに向けられる。


その中で和人が一歩前に進み出て、保護者に向かって頭を下げた。


「お父さん、お母さん、そしてお世話になった皆さん、今日はこれまでの感謝を込めて、四股踏みを披露したいと思います」


和人の言葉に会場全体が静まる。


和人の合図で3年生たちが前に出てきた。全員がまっすぐに前を向き、しっかりとした構えを取り、ゆっくりと四股を踏み始めた。その一つ一つの動作にはこれまでの努力と鍛錬の成果が詰まっている。和人もまた力強く足を上げ、大地を踏みしめる。


「よいしょ…」


力強い掛け声とともに和人の足が空を切り裂くように上がり、しっかりと大地に戻る。土俵の上で踏みしめる足音が響き渡り、観客の目を釘付けにする。汗が光りながら額を伝い、筋肉が躍動する姿に両親は目を離せなかった。

母親はそっと涙をぬぐいながら和人の姿に誇りを感じていた。


「和人、立派になったわね…」


と小さくつぶやく。父親もまた、じっと和人の姿を見つめ、頷いた。


「本当に、よくここまで頑張ったな…」


初めて相撲をやりたいと言った日、初めて試合に出て投げ飛ばされて泣いた日…稽古に明けくれた日々。それは和人だけではなく両親にとってもかけがえのない日々だ。


四股踏みが終わり、土俵を囲んでいた両親やOBたちから大きな拍手が湧き上がった。相撲部の3年生たちは一列に並び、感謝の気持ちを表した力強い動作の余韻が会場全体に広がっていた。和人たちは汗を拭いながら深呼吸をし、土俵を見渡した。


その時2年生の部員たちが前に進み出て、手に持った花束を和人に手渡した。和人はその花束を大切に抱えながら、ゆっくりと立花先生の前まで歩み寄った。サプライズだったようで立花先生も驚いた表情をしている。


「先生、今まで本当にありがとうございました。先生の指導のおかげでここまで成長することができました」


和人は花束を手渡しながらさらに頭を下げた。立花先生は受け取った花束を大切に抱え、和人を見つめ、何度も頷いた。その目にはすでに涙が浮かび始めていた。


次に崇が前に出てきて和人に続いた。


「先生、本当にありがとうございました。これからも先生の教えを胸に頑張ります!」


崇もまた深々と頭を下げた。優太も和人と崇に続き、声を詰まらせながら感謝の言葉を述べた。


「先生…本当に…お世話になりました!」


その瞬間、立花先生の目から大粒の涙があふれ出した。先生は声を震わせながら大きな三人を一気に抱きしめた。


「お前たち…立派になったな…。今まで本当に…よく頑張った!みんな俺の自慢の生徒だ!」


会場全体が感動に包まれ、3年生の目にも涙が光っていた。


立花先生に感謝を伝えた3年生たちは再び花束を手に取り、今度はそれぞれの両親の前に進み出た。和人は深呼吸をして気持ちを整えると、花束を抱えたままゆっくりと両親の方へ歩いていった。


両親の前に立つと和人は一瞬言葉を探すように視線を落とし、再び顔を上げた。目の前には自分をずっと支えてくれた両親が優しく見守っている。


「お父さん、お母さん…これまで僕を支えてくれて本当にありがとうございました。相撲を始めてから毎日稽古に通わせてもらって、たくさん応援してくれて…感謝してもしきれないです」


和人は涙をこらえながら、両親の顔をまっすぐに見つめた。父親はそんな和人の姿にじっと頷き、母親はすでに目に涙をためていた。


「僕はこれから東京に行って相撲部屋に入りますけど、これまで教えてくれたことを忘れずにもっともっと強くなります。だから安心して見守っていてください」


和人は花束を両親に手渡し、深く頭を下げた。母親は静かに涙を流しながら震える手で花束を受け取り、和人の肩にそっと手を置いた。


「和人…立派になったわね。お母さんはいつでも応援しているからね」


父親も感慨深げに声をかけた。


「和人、よく頑張った。これからもお前らしく、どんな困難にも負けずに進んでいけ。俺たちはいつだってお前の味方だからな」


その言葉に和人の胸は熱くなり、涙がこみ上げてきた。それでも和人はぐっと涙をこらえ、再び両親に向かって深くお辞儀をした。


「ありがとう、僕、頑張ります」


両親は大きくなった息子をそれぞれ抱きしめた。会場全体は感動に包まれ、成長を見守る皆の心にその感謝の姿が深く刻まれていった。


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