第1話
『あなたの打ち込んできたものはなんですか?』
共作 群青の海 シエリ
〈第1章 相撲少年 〉
第1話
あなたの打ち込んできたものはなんですか?
人は誰しも夢中になれる何かを持っています。スポーツ、音楽、学問、仕事など。時にはそれが趣味や仲間との活動だったりもします。
それはただ時間を過ごすだけでなく、自分の限界を試し、成長を感じる瞬間でもあるでしょう。たとえばスポーツ選手ならば練習や試合で全力を尽くし、ミュージシャンならば楽器の一音一音に心を込める。打ち込むという行為は人生の中で特別な時間を作り出し、その経験が自分の強さや価値を形作るのです。
今何に打ち込んでいるのか、あるいは何に打ち込むべきか、もう一度自分に問いかける瞬間があるかもしれません。
これはある一人の少年が力士となり、相撲に精一杯打ち込んでいく物語です。
福岡県のある田舎町。早朝の街に優しく朝日が差し込んでいる。まだ朝の6時前だというのにすでに朝日は暑く、夏の一日のはじまりを感じさせていた。住宅街の一角にある佐藤家では15歳の和人がすでに朝イチのランニングを終え、シャワーを浴び終えていた。まだ湿った頭をタオルで拭きながら、自室で相撲部の稽古用のまわしと学校に持っていく教科書やノートをバッグに詰め込んでいく。
「今日も暑くなりそうだな…」
と和人は独り言をつぶやき、制服に袖を通した。鏡に映る自分の姿を確認し、少しだけ笑みを浮かべた。準備をしただけなのに玉の汗が浮かんでいる。 和人は準備を終えたバッグを肩にかけ、リビングへと向かった。階段を降りると台所から母の真由美が立つ姿が見える。机の上には昼食用の大きなお弁当箱と、相撲部の朝稽古が終わった後に食べるために握られた大きなおにぎりが並べられている。
「あら、もう準備はできたの?」
「うん。あー…暑いな…」
和人は微笑みながら答え、テーブルの椅子に腰を下ろした。真由美はおにぎりをもう一つしっかりと握り終えるとそれをラップで包んだ。そしてお弁当箱の蓋を閉めバッグに入れていく。
「今日は特に暑くなるみたいだからちゃんと水分をとるのよ。おにぎりも少し塩分を多めにしておいたからね」
「ありがとう。これで朝稽古も頑張れそうだ」
「引退までもうすぐなんだから、ケガだけは気をつけてね」
中学校最後の大会となる全国中学校相撲選手権大会は、7月に地方大会、8月に全国大会が開催される。和人の通っている南中学校相撲部は毎年全国大会へ出場し、優秀な成績をおさめている。
「大丈夫だよ、お母さん。先生も無理はするなって言ってくれてるし」
真由美はその目に少しの不安を残しながらも微笑んだ。和人はお弁当をバッグに入れ立ち上がり、首からかけたタオルで額の汗を拭った。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」




