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空を歩く

作者: 網笠せい

 地上から、成層圏を越えて人工衛星につながる軌道エレベーターが伸びている。

 ヴィオラが地上から軌道エレベーターに乗ったのは、数時間前のことだ。硬い金属製のポッドに入って、半ば射出されるような勢いで人工衛星にたどり着いた。

 よろよろとポッドから出たヴィオラは、人工衛星・フーガの窓から地球を見下ろす。軌道上にはたくさんの衛星があって、衛星間通路でつながっている。

 いくつかの人工衛星に軌道エレベーターが設置されて地上とつながっているのが、まるでガーターベルトのようだとヴィオラは小さく笑った。歴史や天文学が好きな人なら天球儀のようだと言うだろうし、通信に興味のある人なら黎明期のインターネットのようだと言うだろう。

 衛星間通路は地球のベルトのような顔をして、ゆっくりと自転に合わせて動いている。たまに隕石やスペースデブリがぶつかる事故もあるらしいが、大抵は衝突前に爆破回収される。

 ヴィオラは軌道エレベーター・トッカータの搭乗口で、地球上の税関のようなやりとりをして、衛星間通路の前に立った。パスポートに押された「人工衛星・フーガ」のスタンプをそっとなぞると、まだ乾き切っていないインクが指先についた。


「それでは、よい宇宙の旅を。この先は地球と同じ重力に設定されていないエリアです。ご注意ください」


 入り口で流れてきた自動音声を聞いて、ヴィオラはあわててハンドルに手を伸ばした。強化ガラス製の扉が開くと、身体がふわりと持ち上がる。てっきり地球と同じ重力に設定されているものだと思い込んでいたから、落ち着かない。


「せっかく空を歩けるチャンスだったのにな」


 ヴィオラは少しばかりふくらませた口の中でぼそぼそと文句を言うと、脚を精一杯床に伸ばした。ハンドルのワイヤーが伸びて、つま先がついた。


「やった!」


 水の中で立ち泳ぎをするように、足をばたつかせる。すぐ横を、怪訝そうな顔をした女性が通り過ぎていって、ヴィオラは赤面した。これでは「初めての宇宙旅行」丸出しだ。

 ハンドルにぶら下がりながら、衛星間通路を歩く。足元には地球があって、頭上には宇宙がある。

 ヴィオラはそのふしぎな景色の中を、ときどき頭をくらくらさせながら、ゆっくりと歩いた。

 自分は今、空を歩いているのだと、喜びを噛みしめながら。

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