97話 俺たちは奪われた者たちを受け入れる
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
みんなの視線が俺に突き刺さる。
親父さんでさえ、答えを求めるように黙って俺を見ていた。
――どうする、安介。
ここで黙っていれば、青景はただ怯えるだけの里に逆戻りだ。
けれど強く出れば、厚東氏との争いに巻き込まれる。
俺は拳を握った。
「……親父さん」
声が震えた。でも止められなかった。
「俺たちは逃げない。青景を誰もが守られる里にするんだ。
落人狩りが理不尽に奪うなら――奪われた人を迎え入れ、共に暮らせるようにしよう」
「安介……!」
ハヤテが目を見開いた。
「もちろん戦うって意味じゃない」
俺は続ける。
「力ずくで斬り合ったら、里は滅ぶ。だからこそ居場所を作るんだ。
牛を育て、醍醐を作り、縄をなって、籠を編む。そうやって皆で暮らせる場所を。
『ここなら生きられる』と示せば、人は逃げず、逆に集まってくる」
雁丸が目を細めてうなずいた。
「……なるほど。戦うんじゃなく、奪われた者の受け皿になるか」
トラさんが鼻を鳴らした。
「理屈はわかるが、甘いぞ、安介。あの二人は暴れる鬼だ。里を守るには……いずれ決着をつけねばならん」
親父さんは長く息を吐き、そして低く言った。
「……安介の言うとおりだ。わしらはまず守る場所を示そう。青景は誰でも受け入れる。ここで共に働き、生きていける里にするのだ!」
その言葉に、男は地面に額をこすりつけて泣いた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
後ろには、さらに三人の男が立っていた。
ぼろぼろの衣に、頬にはまだ赤い刀傷が走っている。
「……おらたちも、逃げて来た」
ミサが息をのんだ。
「あんたら、もしや、火の里から来たんか?」
「ああ」
男の一人がうなずいた。
「火の里……たたらの者か?」
「そうだ。俺たちは鉄を打ち鍛える、たたら職人だ。刃物も農具も作ってきた」
「刃物が狙われた。あいつは俺たちを平家のクズと罵って、槍を振り回した。……仲間はまだ里に残っている。生きているかどうかも分からん」
その言葉に、場の空気が凍りつく。
雁丸が静かに刀に手をかけた。
次の瞬間――見えない敵を斬るように、疾風の動きで二度、三度と剣を振り抜く。
鞘に収める音が、鋭く響いた。
「……地頭様が出れば、ことは大事になる」
雁丸の声は低く、しかし揺るぎなかった。
「俺が行こう。馬を貸してくだされ」
親父さんはしばし黙し、やがて深くうなずいた。
雁丸は里人たちを振り返り、声を張った。
「武術を身につけたい者は、朝飯前にここに集まれ! 剣を取らずとも、己を守る術を教える!」
その場に沈黙が走り……やがて若者たちが声を上げた。
「……俺は行くぞ!」
「……俺だって!」
拳を握る顔に、恐怖よりも決意が宿っていた。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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