96話 俺たちの里は活気づいた……しかし
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
地頭屋形の広場に歓声が響いたあと――
その日のうちに、里はにわかに活気づいた。
ーー醍醐の効果は抜群!
六さんが声を張り上げる。
「竹を切ってこーい!」
若い衆が山に分け入り、青竹を担いで帰ってきた。
庭先に並べられた竹を女たちが鉈で割り、手際よく籠を編み始める。
サワが子どもに教える。
「ほら、ここを折り曲げるんだよ」
ミサが器用に手を動かす。
「指にとげが刺さらないように気を付けて」
竹の香りが広がり、子どもたちが楽しそうに指を動かすのを見て、女たちの顔にも笑みが浮かんだ。
その隣では――。
「よし、縄をなうんだ!」
源さんが藁を束ね、見本を見せる。
「ねじって、ねじって、こうだ」
小さな子どもたちも手を動かし、細い縄をなっていく。
「すごいな……」
老人がそれを見て目を細めた。
「わしもできるぞ」
やがて、牛飼いの子が革袋を抱えて走ってきた。
「牛の乳を搾ったよ!」
料理屋とミサが火を起こし、桶に乳を入れて煮詰めていく。
甘い匂いが漂い始めると、みんな鼻をひくつかせた。
「これが醍醐になるんだな」
ハヤテが目を輝かせる。
雁丸は剣を脇に置き、斧を握って木を割っていた。
「戦のためじゃなく、人を守るために刃物を振るうのは……いいもんだ」
その背中を見て、九郎が爽やかに笑う。
「兄貴、似合ってる」
竹を割る音、縄をなう手の音、牛の鳴き声、薪が爆ぜる音――。
昨日まで不安と恐怖に沈んでいた里が、にぎわっていた。
その時だった。
広場に駆け込んでくる人影があった。
顔は泥とすすで汚れ、衣は裂け、手には血がにじんでいる。
「落人狩りだ……!」
男は息も絶え絶えに叫んだ。
「言いがかりをつけて、刃物を盗っていった……!
わしらには抵抗する力もなかった……!」
ざわっ、と里人の間に動揺が広がる。
「こちらには……平家の里でも話を聞いてくれる地頭様がいると聞いた。
どうか……助けてくだされ!」
その声に、皆の目が自然と親父さんに集まった。
親父さんは拳を握りしめ、じっと男を見据える。
トラさんが一歩前に出て、低くつぶやいた。
「やっぱり奴らか……小十郎と次郎」
ハヤテが歯を食いしばる。
「また……人の暮らしを壊すのかよ!」
雁丸の目が細く光った。
「安介、どうする。ここで声を上げれば……本格的に厚東氏と敵対することになるぞ」
俺の胸は高鳴っていた。
ここで逃げたら、青景はまた怯える里に逆戻りだ。
けれど――戦えば、大きな争いに巻き込まれる。
クロエが袂から顔を出す。
「ミャア……さて、これは青景の最初の試練ニャ」
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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