91話 俺たちの里に火を放たれた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
次の日のことだった。
「落人狩りがいるぞ! 気をつけろ、あいつら槍で突いてくる!」
街道沿いの里人の子が、転ぶように走って知らせに来た。
対立すれば大ごとになる。
奴らに手を出せば、その仲間がだまっちゃいない。
親父さんは「手を出すな」と厳しく言った。
俺たちは牛囲いへ走った。
――牛は台山に連れて行ったので一頭もいない。
なら、奴らも諦めて帰る……はずだった。
林の中に潜んで、奴らを見ていた。
火がついた。
ぱちぱちと炎が草を舐め、風に煽られて広がっていく。
ーーなんてことするんだ。俺とハヤテは顔を見合わせた。
雁丸が刀に手をかけた。俺は、雁丸の背中に抱きつき「落ち着け」を伝えた。
「くそっ……!」
このままじゃ山が焼ける。
せっかくの台山牧場が……燃えてしまうよぉぉ!
落人狩りのひとりが「チッ」と舌打ちした。
そして忌々《いまいま》しいふたりは、西へ去っていった。
俺たちは軽くパニックだった。
――まだ落人狩りに怯えなくちゃいけないのか?
「おやじさんは源氏の棟梁頼朝公に任ぜられた地頭だぞ。
――どれだけ馬鹿にされているんだ」
雁丸の目は吊り上がっていた。
「この里が貧しいからか?
侍が少ないからか?」
「あとでたっぷり話し合おう!」
俺たちは牛囲いの中に置いてある桶を持って小川に走った。
水を汲み、必死で火にかけた。
けれど人手が足りない。
「安介、知らせて来い」
雁丸が言う。
――大声を出しても台山には届かない……地頭館に知らせなきゃ!
走りながら思った。
――ああ、自転車があれば!
いや、馬に乗れるようにならなきゃ……!
地頭館では、親父さんが心配して広場に出ていた。
「なんだと? 火をつけられた?……おい、皆で行くぞ。火を消すんだ」
屋形の男たちが駆け出した。
サワとミサが、「里人に声をかけてきます」と街道左右にの分かれて駆け出した。
じいさまが出て来た。
「安介、太鼓を叩け、そうすると何事かと皆が戸口に出てくるだろう。そうすれば、話も早い!」
俺は太鼓を持ち出し、両手で打ち鳴らした。
ドンドンドンドン――!
火よ、消えてくれ……!
もし北風に煽られれば、牛も牛小屋も、醍醐づくりの場も、全部焼けてしまう。
俺は必死で叩いた。
ドンドンドンドン――!
袂を叩くと、黒猫クロエが顔を出した。
「江戸の火の見やぐら、半鐘の鳴らし方知ってるかニャ?」
「教えてくれ、クロエ!」
「火事のときは《《早打ち》》ニャ。カンカンカンカン! って間を置かずに鳴らすんだ。鎮火したら、今度は“余韻打ち”……カーン……カーン……ってゆっくり鳴らすのニャ」
「なるほど! 今は早打ちだな!」
俺はさらに強く、早打ちで太鼓を叩いた。
ドンドンドンドン――ドンドンドンドン!
山に、村に、響き渡れ。
「火事だ! 集まれ!」
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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