表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/211

90話 俺たちは山の上に牛の牧をつくった

ブラック企業で過労死寸前だった俺は、通勤途中で猫を助けて命を落とした。神様から授かったチートは「スマホが使える」こと。転生先はなんと壇ノ浦、入水直前の安徳天皇!? 優雅な宮中の裏で待っていたのは、庶民の悲惨な暮らしと落人狩りの惨劇。里人を救い、俺の二度目の死を避けるため、俺は未来知識とスマホを武器に、青景の里で豊かで安全な暮らしをしたいのだが……試練は続く……

牛を台山に連れて上がるのは、大人でも泣きたくなるほどの重労働だった。


「うおお……! 動けよ、牛ちゃんよぉ!」

ハヤテが汗まみれで綱を引っ張る。


「ほら、がんばれ! あとちょっとだ!」

俺は牛のお尻を叩いて声を張り上げた。

牛は「モォォォ!」と文句を言いながら、それでも一歩一歩登っていく。


ようやく「柳の水」へ着いたとき、牛たちはたまらず泉に顔を突っ込み、ごくごくと水を飲み、やがて草むらに口を突っ込んだ。


「見て! もう食べてる!」

牛飼いの子が歓声を上げる。


その姿に地頭の親父さんが目を細めた。

「ここを新しい牧としよう」


木こりが斧を担ぎ、にやりと笑った。

「屋根だけの牛小屋なら、すぐ建てられるぜ」


雁丸は剣を置き、代わりに斧を手にした。

「戦うためじゃなく、人を守るために刃物を使う……悪くないな」

昨日まで怒りで燃えていた瞳が、ようやく穏やかになっていた。


その後はもう、村総出のお祭り騒ぎだ。

「せーの!」の掛け声で柱が立った。


子どもたちも負けていない。小さな手で草を抱えてきて、牛の寝床にばらまく。

「ほら! フカフカだぞ!」

「モォォ~」

牛は満足そうに鳴き、のそのそと横たわった。


数日のうちに、粗末ながらも立派な牛小屋が完成した。

夜は屋根の下で眠り、昼は台山を歩き回り、夕方になると子どもの呼ぶ声にちゃんと戻ってくる。


「……まるで、生き返ったみたいだ」

牛飼いの子がぽつりと呟く。


親父さんはにっこり笑った。

「これでよい。もう京の貴族へ牛を京へ献上する必要はなくなった。乳を搾り、醍醐を作れ。それをこの地の宝とするのだ」


サワとミサが胸を張った。

「乳を煮詰めて加工して白いかたまりにするんですよ。それが醍醐!」

「この世で一番おいしい物なんですって!」

ハヤテが目を輝かせた。

「この世で一番おいしいものかぁ……」


源さんが空を仰いで笑った。

「死んだ里が、生き返っていく……」


牛たちの息が白く、夕空にのぼっていく。

――牧の再生は、里の再生そのものだった。

里人の悲しみはまだ消えない。

けれど、確かにここから、俺たちの暮らしは動き出していた。


♪黒猫クロエのニャンノート♪

台山と言うのは、山口県美祢市にある秋吉台のことニャ。

秋吉台にある「柳の水」は、あなたのスマホのマップで「柳ノ水」と検索するとでてくるはずニャ。

まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。

ブックマークしていただけると、とても励みになります!

リアクションやコメントも大歓迎。

感想をいただけたら本当に嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ