8話 那須与一(なすのよいち)の名場面
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
夜明けとともに、白旗の船が沖に見えた。
いよいよ、源氏の船の登場だ。
――凄い数だ。あんなにたくさん、どこから湧いてきたのだ。
「おい……あれ、全部…源氏の船か?」
船の側面から身を乗り出して雁丸が低く呟く。
「数えてみた。源氏の船、800艘はいる。お味方平家は、約500艘だ」
女たちの声がざわざわと聞こえる。
準備する時間もなく船に乗り込んだ女たちだ。
どの船も高波のうねりに翻弄されている。
ふと見ると、ひときわ目立つ紅い小袖の女がいた。
「きれいな女だ……」
雁丸は見とれている。
その女はすっと背筋を伸ばし、檜扇を高く掲げた。
波間を挟んで向こうの源氏に、「これを的にしてみろ」と言わんばかり。
紅と金の扇が、初春の陽を受けてきらりと光った。
俺の背後で、黒猫クロエが尻尾をピンと立てた。
「ほらほら来たニャ、ここだニャ。伝説の『扇の的』シーン!
平家の船べりに立てた小さな扇。
それを源氏の弓の名手・那須与一が……」
源氏の陣から一艘、小舟が前へ滑り出した。
その船首に立つ若武者が、ゆっくりと弓を引く。
海風が強く、波が高い。それでも腕は揺れない。
「こんな高波じゃ無理だ」
そう言って雁丸は、ひゅうと口笛を吹いた。
弓弦が止まった。――次の瞬間、ビシッという鋭い音が響いた。
紅い扇が、見事に空へ舞い上がる。
光を反射しながらくるくると回り、波間に落ちた。
「……当てやがった」
周囲が一瞬、静まり返る。
そして次の瞬間、源氏側から大きな歓声と鬨の声。
対して、平家側の顔から余裕がすっと消えていくのがわかる。
「こういう一撃が戦全体の流れを変えるんだニャ」
クロエが俺の肩に飛び乗り、耳元で囁く。
――くぅぅ!甲子園の高校野球と一緒じゃないか。
――勝負は、流れだよ流れ。
俺は拳を握りしめた。
――やばい、このままだと完全に源氏のペースだ。
敗因は義経の奇襲だけじゃない、士気がどんどん奪われていく……!
その時、ある男が立ち上がった。
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